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長年愛用したモノクロプリント用の引伸機(フジB690)が老朽化したこと、45判への移行、マルチグレードペーパーの使用などプリント制作の楽しみを拡大するには、新らしい引伸機の導入が必要になっていた。 市場には専門メーカーの各種製品が豊富に出廻っているので、好みのモデルを購入すれば事は足りるのであるが、45判まで対応する装置となると経済的負担はかなり大きなものとなる。 どうするか迷っていた時、グラフレックス社の文献から45カメラが引伸機に変身するという情報を得た。(Graflarger) 説明によれば、45カメラに光源BOXを附加する方式により、簡単に引伸ばしを実現している。 カメラと引伸機は、考えてみれば原理的に非常に良く似た構造である。 幸い45カメラを数台所有する中にスピグラやクラウンもある。
(2)マルチグレード・ペーパーへの対応については、レンズ直下にかぶせる安価なフィルターキットもあるが、レンズ交換が面倒と予想されるので45サイズの単品シートを光源部で交換する方式を採用する。 (3)カメラ・光源など全体の支持方法については市販の接写台を利用する。 (4)各種のフィルムを確実に押えるネガキャリアが必要になる。
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本機の主要部分を示す。 基台になるのは角形支柱を水平台に立てた頑丈なコピースタンドで、カメラや光源BOXなど全体を支えている。 ところで「引伸し」というと、紙に何か「拡大像を映す」というイメージになるが、逆の見方をすれば紙の画像を「接写する」のと原理的には変わらない。 グラフレックス社はこの盲点を巧みに突いて、報道写真を現場から直ちにプリントして本社に送る道具(冷光源)を販売していた。 製作に当たって、引伸機というメカはどんなところがポイントになるのか、またカメラ応用のメリット・注意点などについて若干の考察を試みる。 引伸機の性能を決める構造面での要素は、「照明系」と「投影系」の2つに大別される。 照明系については後述するとして、ここでは投影系で問題になる[画面の均質性]と[投影像の歪曲]について検討しよう。 (1)画像の均質性については、ネガとレンズの「光軸直交」と「中心一致」がポイントになる。この部分に問題があると、拡大率やネガサイズのUPに伴って投影した画像の周辺でピントが均一にならない。 本機に関しては「完成したカメラ」をそのまま使用するので、この2点についてまったく心配する必要がない。 (2)投影像の歪曲は、レンズの光軸と台板の「直交性」不足が原因を作る。
レンズを解放状態にして、(カメラにセットした)ガラスのやや上方からレンズを覗くように見下ろした時、ガラスのクロス中心、レンズ、鏡に写ったレンズの3つが、正しく同心円上に見えるようにカメラ取付けを調整する。わずか数分の作業で完全な光軸直交が得られる。 以上で全体的に光学的な精度は維持され、片ボケや歪みは発生しない。 |
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左図はカメラの上にセットした45判サイズのライトBOXである。
集光式は点光源とコンデンサーレンズを使ったマイクロ写真用。 集散光式は白色オパール電球とコンデンサーレンズを使ったモノクロ用。 散光式はハロゲン電球と拡散BOXを使ったカラー用とされている。 一般的な評価では、集散光式はモノクロの標準方式とされキャリエ効果(銀粒子による光の拡散)に強い反面、コントラストが(ランプ、その配置など)メカ構造の差や現像フィルムなどに依存し易いとされている。 散光式はその乱反射性がキャリエ効果を増大させる結果、コントラストの低さが指摘されモノクロには向かないとされる。しかし、利点としてはメカ構造による依存性が低く、印画紙のISOレンジと実際の露光域がほぼ一致するほか、ネガ上の細かいキズやホコリにも強いなど実際のプリント作業には扱い易い光源とされ、どちらも一長一短がある。 本機のライトBOX(上図右側)は、蛍光管と拡散BOXを利用した散光式光源である。 この形は、とにかく製作が簡単で、発熱が少ないためフィルムカールやレンズ焼けの心配がなく、カラー色素技術のモノクロフィルム(コダック、イルフォード製品)が利用し易いなどメリットが多い。市販品ではベセラーの8×10機にも採用されている。 コントラストの問題については、実際に本機の完成後中判のトライXを従来の集散光式(フジ690B)と比較プリントしたが特に有為差は認められなかった。 左図はライトBOXを後述するネガキャリアの上に載置したところで、大きく見える割りに重量は僅か500gしかないので、支柱への負担が少なくバランサーも快適に作用している。 |
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マルチグレード印画紙を処理するときのフィルターを出し入れしている。 市販機には色ミキシング機構によってダイアル操作だけで無段階可変ができる優れた製品もあるが高価である。 マルチグレードペーパーを処理するには、光源から印画紙までの光学系のどこかに所望のフィルターを入れれば良い。 本機はライトBOXの下部両サイドにレールを設け、右側からフィルター枠が自由に出し入れできるようにした。光の順序としては、光源→拡散板→[MGフィルター]→ネガフィルム→レンズ→印画紙の順になる。 45判対応のためフィルターはやや大き目になるが、この位置はホコリに強いメリットがある。 左図でフィルター枠の右手にある上下の仕切りは、モルトプレンによる光漏れ防止用のシールドである。 ライトBOX周辺からの光漏れは無用な「かぶり露光」の原因を作るので注意しなくてはならない。 |
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左図は本体部分に使用したクラウンのオリジナルである。
クラウンはグラフレックス社の45判カメラで、中古市場に豊富かつ安価に出廻っているため入手し易く、ちょっとした実験撮影やポラロイド撮影などに重宝している。 動機の項でカメラを傷めないと書いた通り、何の改造もなしにそのまま利用出来るから、例えばリンホフ・マスターテヒニカでも構わない。 ここでクラウンとした理由はその軽量さを買ったもので特に他意はない。
従ってレンズボードが必要になるが、TOYOの純正パーツに「グラフィックボード」としてリストされているからこの入手も心配はない。 右図は、そのボードにELニッコール 75mm F1.4を付けた例である。 ネガサイズとレンズの関係は、(4ツ切りをプリントするなら)35mmは50mm、中判は75mm〜90mm、大判は135〜150mmが一応の目安になる。 |
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クッキリしたプリントを得るには、ピントの合った像を印画紙上に投影せる必要がある。 このチェックに使用するルーペは、一般にフォーカス・スコープとかピント・ルーペとか呼ばれ、引伸ばし作業には不可欠な道具である。
原理はレンズから投影された光線の途中をミラーによって一部横取りし、その像を高倍率のルーペで拡大して印画紙上のピント具合を間接的に検査するという仕掛けになっている。 従って目に入る像は紙に写った像ではなく、照明されているネガ中の局所像である。 レンズを開放にすると印画紙の中心部と周辺部で粒子のシャープさが違うことがわかる。またモノクロとカラーのネガでも粒子の大きさが異なりカラーはやや大きく見える。 露光前に、このルーペを使って印画紙の周辺まできれいに揃った粒子が見えるように、レンズ位置や絞りをアジャストする。 印画紙はどうしても「浮き」が出るので、焦点深度を稼ぐ意味で深絞りをすると(光線の通路が狭くなるため)レンズの回折現象によって逆にシャープネスが甘くなって来る。 回折の弊害はカメラではさほど感じないが、引伸ばしをやってみるとこの様子がハッキリわかる。 レンズの特性にもよるが通常は解放から2〜3段絞ったところがベストで、以降は劣化が進むので注意しなくてはならない。 なお、歪み矯正策として印画紙上でアオリ操作を行うときは、深い焦点深度を要するのでシャープネスはやや犠牲になる。 |
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印画紙を押える枠板がイーゼルで各種の製品が市販されている。 2辺可動式、4辺可動式などのほかエアーを利用したバキュームタイプもある。 イーゼルの役目は用紙サイズに応じた押さえと細かいトリミングの決定などになる。 時々、直角定規を使って各2枚の板が正しく直角であるかどうか確認し、狂いがあれば矯正しておく必要がある。 |
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これは前節に述べたライトBOXの工作例で本機の重要ユニットである。 材料は3mm厚の黒アクリル板、乳白色アクリル板、6mm厚の硬質発泡スチロール板、卓上蛍光灯などを用意する。
(2)BOX内部の5面に硬質発泡スチロール板をピッタリ接着する。 (3)箱の内部中央部、深さにして1/4の位置に蛍光管を浮かせて固定し、同時にソケット孔を出す。浮かせ方は管の根元を台座板を介してBOXに固定する。 (4)このアクリル板は、蛍光管による拡散板中央部への直接照射をデヒューズする役目を持ち、拡散板の全面が均一な明るさを出すようにサイズと位置を微調整する。この作業はライトBOXの性能を決めるだけに、やや面倒ながら慎重に調整を行う。 (5)輝度均一性の測定は、受光角1度のスポット露出計を利用して拡散板の隅々のEV値をチェックする方法が簡単である。 本機完成後、4ツ切りのフジブロWP/FM3(ISO speed P400)をプリントした結果、レンズ絞りF5.6で露光時間は6〜10秒となった。 (注)ISO speed とは印画紙感度の国際規格で、P400は撮影に使うISO400フィルムの1/1000の感度に相当する。 (6)拡散板の長手方向両サイドにアルミサッシでレールを設け、フィルター挿入用のガイドにする。 (7)最後にカメラとの勘合をしっくりさせる切り込みを付けて完成。 |
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光源に資する蛍光灯も今回の引伸機製作における重要パーツである。 照明器具各社から非常に多くの製品が出ている中で、特に選択のポイントにしたのは「管のサイズ」と、スイッチONからの「輝度変化」が最も少ないモデルを探すことだった。
早速分解して蛍光管と回路部に分離する。左図は回路部の入った台座ケースで、支柱部をカット短縮してそのまま利用している。 欲を言えばダイアル式タイマーと連動させたいところだが、早くプリントをしたいという気持ちがこれを先送りにしてしまった。 ところで、密閉BOX内に蛍光管を閉じ込める関係から、内部の温度上昇が懸念される。テストの結果、30分連続通電しても特に異常は見られなかった。 実際の引伸ばし露光時間は、4ツ切りで1枚当たりどんなに長くても2分以内であるから、どちらもまったく心配はない。 光漏れなしの放熱対策というのは面倒だが、このBOXはそうした点が不要で誠に有り難い。
本機に使用した蛍光管は、3波長タイプといわれる管で分光グラフによると、 当初光源BOXの製作に当たり、このピークがプリント時のフィルターワークにどう影響するか懸念された。 レギュラー紙は青が感光するためこのバンドをそのまま利用するとして、マルチクレード紙は青と緑をフィルターによりコントロールする関係で、あまり大きなアンバランスがあっても困る。 グラフを良く見ると確かにピークは鋭いものの、平均パワーとすれば青のバンドとさほど変わらないのではないかと都合の良い解釈をして見切り発車した。 完成後マルチグレード紙をプリントした結果、−0.5号程度の押さえで実用上問題ないプリントが得られ大きなリスクにならずに済んでいる。 |
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フィルムサイズに応じた各種ネガキャリアの製作例である。 この引伸機は35mmから4×5判までの全ネガを扱うため、35/645/66/67/69/45まで合計6個のキャリアを製作した。 45判カメラ応用の引伸機であるから、キャリアをセットする場所はカメラのフィルム装填部になる。 本キャリアは(装填部でロックするので)ガタツキのない確実な固定ができて良いのだが、ネガ交換のとき光源BOXを着脱する手間があってこの点は少し煩わしい。 |
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ネガキャリアの材料は、3mm厚黒塩ビ板、1mm厚ゴムマグシート、工具はφ6とφ8のポンチ、調整用に現像済みフィルム(ポジがベター)などを用意する。 先ず、塩ビ板を120×200にカットして、縦端から60mm横端から75mmの位置に各種ネガサイズのセンターが来るような窓を明ける。 この窓は、ネガの感光面1コマ分よりも縦サイズで+30%、横サイズで+20%程度の余裕を持たせてカットする。 次に板の長手方向エッジ部に沿って10mm巾の塩ビ板をリブ的に接着する。 45判カメラはフィルムホルダーのくわえ厚が6mmになっているので、キャリア側もカメラのロック部に沿って6mmへ増量を行い、装着性と強度UPを図っている。 |
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続いてネガ押さえに必要な加工と全体組立てに入る。 (1)フィルムサイズを勘案したゴムマグシートを、着磁方向に注意しながら裏(着磁面)同士2枚合わせて、外形と内形をカットする。 (2)下シートの窓にフィルムを載せパンチ抜きしたφ6の丸板を位置ガイドとして接着する。 (3)上シートに@で貼った2個の丸板がセンターで逃げるようなφ8のパンチ孔を明ける。 (4)塩ビ板の窓に合わせて下シートを着磁面を表にして接着し、上シートを着磁面を裏にして載せる。 (5)位置関係がOKなら布テープで上シートと塩ビ板をヒンジ代りに固定する。 (6)キャリアの左手・カメラとの境界部に光漏れ防止のモルトプレンを貼って完成。 完成後のテストでは柔軟な磁石がフィルムの全周をキッチリ押えるため、フィルムの保持性と平面性は抜群である。 ホコリを払うため帯電除去ブラシを使ってもフィルム位置と平面性はビクともしない。 一般に45判や69判など大面積フィルムの確実な保持というのは難かしいが、本機の冷光源による低熱性(フィルムカールなし)とゴムマグシート応用のネガキャリアは、組み合わせの点で良くマッチしていると思う。 |
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マルチグレード(MG・多階調モノクロ)方式の印画紙を処理するときのフィルターで、0〜5号まで中間に1/2ステップを含めた11枚が1セットになっている。 見た目には薄いオレンジ(No.0)からやや濃いマゼンタ(No.5)へ段階的に色相が移る透過性の樹脂膜である。 レンズ直下に付けるアダプタ式のキットもあり便利だが、レンズ交換の邪魔になるので本機では光源BOXの下に挿入する方式とした。 フィルターは各印画紙メーカーから自社乳剤の特性に合わせた推奨品が販売されているので好みに合わせて選択すれば良い。 ここではフジから販売されている単品シートを3mm厚の塩ビ枠11枚に貼り、ホコリを避けるためユニットBOXに整理して活用している。 フィルターが出たついでに、モノクロ印画紙のレギュラー紙とマルチグレード紙の違い、階調コントロールなどについて簡単にメモしておくことにする。
この中を分類すると、レギュラー紙は波長400〜500nm(青色中心)、オルソは400〜550nm(青色から緑色付近)、パンクロは400〜550nmに加え700nm(赤色)に感光性が高い。 用途的に見るとレギュラーとオルソはモノクロネガ用、パンクロはカラーネガ用となっている。 コントラストの調整については、レギュラーとパンクロはメーカーが軟調から硬調までを5段階に分け、これに号数を表示して販売している。
左はコントラストの可変傾向を示したもので、1号(オレンジフィルター)は青色感度を低下させて軟調化させ、5号(マゼンタフィルター)は緑色感度を低下させて硬調化する。傾斜が急になるにつれて硬調画像となる。 製品にはコダックのポリコントラスト、イルフォードのMGV、月光のMULTIなどがある。 マルチグレード紙はレギュラー紙と違って号数区分がなく、プリントに際してあれこれ号紙を揃える必要がない。 作例のコーナーにフィルターを使い分けたサンプル写真を各種掲載したので参考になると思う。
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