大まかな流れが分かる幕末伝 〜新撰組外伝 士道と誠〜

新撰組局中法度第一条 士道に背くことあるまじきこと。

幕府のために、鉄の掟に従って己の信念を貫いた近藤勇や土方歳三の生き様は、今なお多くの人たちの心を震わせております。
「誠」の一文字の旗を掲げた幕末の戦闘集団新撰組が何よりも大事にした「士道」とは?「誠」とは?どのようなものだったのでしょう? 今回はそんな新撰組の行動理念をもっとも極端に示したエピソードを紹介してみたいと思います。

★ 膨張!新撰組

池田屋事件でその名を全国に轟かせた新撰組は、その後どんどん組織を拡大して行きます。組織が拡張すれば、大所帯をまとめるための優秀な人材が必要となるのは必然のこと。局長の近藤勇は、土方、沖田、永倉と言った新撰組設立以来の腹心の他にも幹部候補を引き入れようと人材を探したところ、剣術の腕前が抜群な上に頭もキレると言う、江戸に町道場兼私塾を開いている伊東甲子太郎なる人物を見つけ出し、新撰組に誘い入れます。実際に伊東の実力はなかなかなもので、いきなし参謀兼文学師範という、実質新撰組ナンバー3とも言える座に任じられます。伊東はイケメンなうえに口までうまいと来たもんで、新撰組内には瞬く間に伊東一派なるものまで結成されてしまいました。

★疑惑!新撰組

伊東甲子太郎:
(よし、ココまでは計画通り! へっへっへ近藤のバカめ。本場水戸で朱子学を学んだ勤王ガチガチな俺様が幕府の番犬なんて本気でやってる訳はねーっつの。俺の本当の狙いは新撰組を乗っ取って、討幕のための尖兵とすることよ! とりあえず新撰組内には伊東シンパを作ることには成功したし、まだまだ仲間を増やして行くぜ!)

なんと!伊東甲子太郎は腹の内ではこんな物騒なことを考えていたのでした。

近藤勇:
(伊東は確かに優秀な人材だが、ちょっと勤王思想の度が過ぎている。この私とて孝明帝を敬う気持ちは人一倍持っているのはもちろんだが、我らの主君はあくまで幕府。伊東はそのことを少しないがしろにしているのではないか? 最近は局内の若手にも伊東の極端な尊王思想に感化させられている者も多いようだし…もしかして私はとんでもない爆弾を自ら引き入れてしまったのか?)

もちろん近藤とてバカではありません。伊東の野望には薄々気付いて警戒はしておりました。でも伊東はそもそも自分が連れて来た人物だし、局内での伊東の勢力はもはや侮れないものとなっており、近藤は見てみぬフリをしながらもその処遇に頭を抱えておりました。

★分裂!新撰組

近藤と伊東はお互い腹を探りあいながらも決定打は出ないまま時は過ぎて行ったのですが、1866年の年末に孝明天皇が崩御したことを機に、伊東は大バクチを打つことにします。

伊東:
「局長、いつも幕府のことを第一に考え大事にしてくれた孝明帝の墓を守るため、我らは御陵衛士となって孝明帝の陵墓に付き添うことをお許し願いたい。それに今や大所帯となった新撰組にとって壬生の屯所だけでは手狭になっているし、別働隊を作って活動の幅を広げることも必要かと思うがいかがであろう?」

近藤:
「うむ、孝明帝の御陵の警備については、ワシもなんとかせねばと思っていたところである。伊東参謀がこの任に当たってくれるのなら安心であろう。それから別働隊の件についてもワシも同様に考えていた。やはり伊東参謀は組織全体のことを見ていてくれているのだな。それでは御陵衛士の任、お主に任せた。これからも幕府のため帝のため、共に士道に果てようぞ!」

伊東:
(よっしゃしてやったり! これで近藤の目を気にすることなく自由に活動出来るぞ! 今回オレについて来たのは14名の同志だが、もっともっと多くの仲間を本体から引き抜いて、ゆくゆくは新撰組丸ごとオレが乗っ取ってやるぜ! 
それにしても近藤のヤツ…オレの企みに気付いているかと思いきや、実はなんにも分かって無かったようだな。ヤツは所詮農民上がりの田舎剣士よのう。)

新撰組三番隊組長・斉藤一:
「某も伊東殿に付いて行きまする。幕府が大事なのは勿論ですが、それよりやはり、この日本の真の支配者は天皇陛下にあられるのだから、孝明帝の御陵の警護こそが我らの一番にすべきことと存じ上げますので。」

伊東:
「おお、斉藤殿も付いて来てくださるのか。これは心強い。それにしても、斉藤殿も帝のことを第一に考えてくれている同志だったとは…これからはもっともっと水戸学(尊王思想の基礎となる学問)のことを語り合おうではないか。」

この斉藤一なる人物は、沖田総司、永倉新八と並んで新撰組最強候補に名前が上がる超ツワモノです。新撰組の幹部は基本的に、かつて近藤が所属していた試衛館なる剣術道場出身者で占められていたのですが、斉藤一は伊東と同じく後から新撰組に合流しながらも幹部まで上り詰めていたと言う似たような境遇にあったため、伊東は斉藤のことを多いに信頼し、御陵衛士における片腕的存在として歓迎したのでした。

伊東:
(くっくっく…まさか斉藤までもがオレに付いてくるとはな。そりゃ近藤は所詮農民上がりの田舎モンで、オレ様は朱子学の本場水戸で水戸学を学んだエリート様なんだから当然って言えば当然だろ。よーしこの調子でどんどん新撰組のアホ共を尊王討幕思想に染めてってやるぜ!)

斉藤:
(くっくっく…まさか伊東のヤツこんな簡単に俺のことを信用するとはな。そりゃ自分に絶対の自信を持ってるエリートさんはオレ達雑草剣士のことなんぞ簡単に騙せるって思ってるんだろうから当然って言えば当然だろ。よーしこの調子で伊東が裏切り者であるという決定的証拠を掴んでやるぜ!)

なんと!斉藤は近藤が伊東の動向を監視するために送り込んだスパイだったのです。
前述のとおり斉藤は生え抜きの新撰組創立メンバーでは無かったし、それに何より斉藤自身が間諜活動に抜群の才能を持っていたために、まんまと伊東は騙されてしまっていたのでありました。

★謀略!新撰組

そんなこんなで御陵衛士に潜り込んだ斉藤は、ついに伊東が新撰組転覆をたくらむ決定的な証拠をつかむ事に成功し、近藤にそのことを報告します。

近藤:
「土方よ、どうやら伊東のヤツはワシら新撰組幹部に闇討ちを仕掛け、新撰組全体を乗っ取ろうと計画しているようだ。ココは先手を打って伊東の野望を挫かねばなるまい。」

新撰組ナンバー2・土方歳三:
「伊東は高台寺(御陵衛士の屯所)に篭ってなかなかスキを見せないし、外に出るときも常に側近を引き連れております。それに伊東自身、剣術の腕は抜群で、まともに張り合えるのは局長の他には私、斉藤、永倉くらいなものと存じます。でも局長、ご安心あれ。この土方、必ずや伊東の命を取り、御陵衛士を壊滅させる策をごらんに入れましょう。」

土方はまず、伊東をおびきよせるため、一通の書状を送りつけることにします。

水戸学のエキスパート・伊東甲子太郎文学師範殿へ:
「ココしばらく顔を合わせていないけど調子はどうだ? 実は最近、ワシも朱子学の書を読むにつれて改めて勤皇の志が高ぶるようになったのだ。かつて伊東文学師範は勤皇思想の本場、水戸にて朱子学を修めておったよな? ついては共にワシと共に朱子学のこと、勤皇思想のことについて語りあってみぬか? とは言ったものの、今更ワシが伊東師範に教えを請うと言うのも新撰組局長としてはちょっと恥ずかしいものがあるので、人目につかぬようにコッソリとワシの隠れ家その1に来て欲しいのだがよろしいだろうか? 歓迎の宴の用意をし、伊東先生の朱子学の話を聞くことを楽しみにしているぞ。 近藤勇より」

近藤:
「なあ土方よ。これはあまりにミエミエのウソ過ぎやしないか? 伊東がこのような内容の書状を信じるとは到底思えないのだが…」

土方:
「大丈夫です。伊東は自分が朱子学のエリートであることに絶大なる自信を持っているが故に、まさか自分が自分より格下と思っているであろう相手、すなわち我々ごときにしてやられるとは思ってもいないはず。この書状を見るや否や、己の計略の成功に酔いしれて、ホイホイとやって来ることでしょう。」

近藤:
「過剰な自信家とは、そういうものなのかのう…」

土方:
「この土方とて過剰な自信家である故、伊東の心は手に取るように分かりますよ。」

近藤:
「ふっ、そこまで言うならおぬしを信じることにしよう。…で、伊東をおびき出した後はどうする? まさか確たる理由も無しにワシの邸宅で伊東を殺す訳にも行かぬし、それに今回の狙いは御陵衛士となった裏切り者を一網打尽にすることにある。残りの連中はどうするのだ。」

土方:
「その後のについては………と言う手はずを整えておりますが。」

近藤:
「なんと!そこまですると言うのか! それにしてもえげつなことを考えおる。お主はまさに、鬼の歳三よのう。」

土方:
「この土方にとって、主君のために確実に勝利を手にし成功を掴むために全力を尽くすことこそが誠の士道。それを貫くためにはどんな汚い手でも使い、鬼と呼ばれようが何を言われようが一向にかまいはしませぬ。」

近藤:
「そうであったな土方。我らがが忠義を尽くす幕府のために全力を出し切ること。それこそが誠の士道である。よし、此度の御陵衛士追討作戦、全力で成功させるぞ!」

土方:
「はっ!」

こうして高台寺の伊東の元に近藤からの書状が届けられると、

伊東:
「ふはははは!水面下でコッソリと新撰組内部に宋学の思想が広がるようにと工作して来たが、まさかこんな大物が掛かりよるとはな! それにしてもあの近藤がオレのことを先生とまで呼んで来るとは驚きだ。でもまあそれも仕方あるまい。八王子の山奥ではまともに朱子学を学ぶことも出来なかったであろうからな。ようしそれでは、新撰組局長が直々に注いでくれる酒を味わいに行ってやるか☆」

土方の予想はピタリ的中し、伊東はまんまとおびき寄せられたのでした。

★宴会!新撰組

近藤:
「ふぁっふぁっふぁっ、愉快愉快! 文学師範、今夜は同じ尊王を志す者同士、語り明かし飲み明かそうではないか!」

伊東:
「はっはっはっ、局長の勤皇の志、しかと受け取りましたぞ! 本日は誠めでたい日になり申した!」

近藤のおだてに乗った伊東は調子にのってグイグイと気持ちイイ酒を浴びて行き、やがてグテングテンにされてしまいます。

伊東:
「おっと気がつけばもうこんな時間。名残惜しいのは山々だが、今日はそろそろ高台寺の方に帰らねばなりませぬ。いやあ局長、今日は実に旨い酒が飲めました。これからも共に勤王一心貫いて行きましょうぞ!」

近藤:
「くれぐれも夜道は気をつけて帰られるのだぞ。」

こうして真夜中の京都油小路を一人、伊東は帰路につくことになりました。

★謀殺!新撰組

新撰組隊士A:
「局長の屋敷から伊東が出てきたぞ!」

新撰組隊士B:
「おいおいおい、伊東のヤツまともに歩けてねーじゃんかよ。こりゃ相当酔っ払ってんな。」

新撰組隊士C:
「この調子ならオレ一人でも楽勝なんじゃね?」

新撰組隊士A:
「おいお前、副長の言葉を忘れたのか?」

土方の言葉:
(お前たちの役目は、酔っ払って屋敷から出てきた伊東を斬ることだ。たとえ酔っていても伊東はオレに匹敵するほどの剣の達人。くれぐれも油断するでないぞ。
 いいか…新撰組の戦い方を決して忘れるな。敵と戦うときは出来うる限り相手より多い人数で、同時に襲いかかること。背後を取れれば背後から、背後がダメでも、出来うる限り必勝のポジションを確保するように努め、相手の虚を付き一挙に行くのだ。分かったな!)

新撰組隊士C:
「そうだったな。勝つためにはどんな手を使ってでも確実に。それが新撰組の戦い方だったよな。」

新撰組隊士A:
「よし、それでは行くぞ!」

たったったったった

新撰組隊士B:
「裏切り者伊東甲子太郎、覚悟〜〜〜〜!!!!!」

伊東:
「!!!!!!!!!」

新撰組隊士A:
「あ、バカ!!!!!」

シャキーンシャキーン!

伊東:
「ぐはあっ!」

瞬く間に伊東は首から肩にかけてザックリと大穴を空けられてしまったのですが、そこは伊東もさるもの。

新撰組隊士B:
「……げぼっ」…バタン

深手を負いながらも伊東は新撰組隊士Bを討ち果たしていたのです。

伊東:
「だ、だまされていたのは…バカなのは…俺の方…だったのか…」

伊東甲子太郎、享年33。最後に剣客としての意地を見せることは出来たものの、京都油小路にて策士策に溺れるあえない最後を遂げたのでした。

★追撃!新撰組

新撰組隊士C:
「余計なことを叫ばずに、無言で襲い掛かっていれば、Bが斬られることも無かっただろうにな…」

新撰組隊士A:
「己を律することが出来ずに声を上げてしまったBは、斬られてしまっても仕方なかろう。それよりCよ。我らの任務はまだ終わりではないのだぞ。」

新撰組隊士C:
「そうだったな。残る裏切り者の始末を終えるまで、全力を尽くそうぞ!」

新撰組隊士A:
「それではお前はココの見張りをよろしく頼む。俺は計画通り、高台寺までひとっ走りしてくるぜ。」

新撰組隊士C:
「くれぐれも気取られるでないぞ!」

新撰組隊士A:
「まかせとけ!」

新撰組隊士Aは御陵衛士の本拠地・高台寺に乗り込んで行きました。

新撰組隊士A:
「たいへんだー!! 伊東甲子太郎殿が油小路にて何者かに襲われている! 早く加勢に行かないと伊東殿が危ない!!!」

御陵衛士ABCD
「なんだと本当か!!!! よし、すぐに向かうぞ!!!!」

こうして御陵衛士ABCDは油小路に急行したのですが、もちろんそこにあるのは無残に貫かれた伊東の遺体でした。

御陵衛士ABCD:
「なんということだ…伊、伊東様〜〜〜!!!!!」

一人は泣き崩れ、また一人は怒りを露にし、御陵衛士たちは伊東の遺体を取り囲み、呆然自失していると、

…ブスっ!ジャキっ!スパーン!ドスっ!

御陵衛士ABCD:
「ま、まさか…ぐぼっ!」…バタン

物陰に隠れていた新撰組隊士Cほか新撰組暗殺部隊に、有無を言わさず後ろからブッスリ斬りつけられたのでした。

新撰組隊士Cその他:
「任務完了! 屯所に帰り、副長に報告するぞ!」

こうして伊東甲子太郎ほか御陵衛士は抹殺され、新撰組乗っ取り計画は阻止されたのでした。


×  ×  ×


さてさて、土方が伊東を倒すために使った手段、ずいぶんとエゲツ無いものでしたけど、皆様はいかが思ったことでしょう? これが本当の武士道なのか?と言ったら、首をかしげる方も多いのではないかと思います。

でも、幕末に存在していた実際の「武士」とは、上京する将軍の警護すらまともに出来ないようなナマクラばかりでした。だからこそ生まれた鬼子が新撰組だったのです。そんな彼らには、元来の武士たちが持っていた武士としての価値観やメンツ、プライドなど、酷くつまらないものに見えたのでしょう。勝つことこそが「誠」であり、そのためにはどんな汚い手段を使うことも厭わないことこそが、新撰組にとっての「士道」だったのでは? 筆者には、そのように思えてなりません


大まかな流れが分かる幕末伝 〜新撰組外伝・士道と誠〜 完


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