労務管理に役立つ判例理論

 ここでは訴訟においては、事件の判決がどのような観点により行われるかを上げてみる。もちろん、実際の裁判においては、これ以外に諸般の事情が勘案されることは言うまでもない。

出向

配置転換

懲戒処分

整理解雇

懲戒解雇

普通解雇

契約解消

名ばかり管理職

《参考》労働契約を解消するための手続き
【解雇】
@普通解雇  使用者側の理由であれ、労働者側の理由であれ、これ以上、継続的な契約の履行は出来ないとして、労働契約を解消する行為。整理解雇もこれに含まれる。
A懲戒解雇  重大な企業秩序違反を犯した労働者に対して、使用者が罰として労働契約を解消する行為
【退職】
B辞職    労働者側からの一方的な意思表示によって労働契約を解消すること。一度、意思表示すると撤回することができない。
C合意退職  労働者と使用者が合意して労働契約を解消すること。使用者の承諾の意思表示が労働者に到達するまでは、撤回が可能。
D当然退職  一定の事由が発生すると、当然に労働契約が解消されるというもの。死亡した場合や、就業規則に定められた退職事由(定年や休職期間満了など)に該当する場合がこれにあたる。


出向

一般的にいって、労務提供の相手方の変更が伴う点で、配置転換の要件よりも厳しい。

@労働契約上の根拠があること。
 出向の場合は、労務提供の相手方の変更を伴うことから、単に一般的な「出向を命ずることができる」程度のものでは足らず、出向先での労働条件の基本事項が採用時の説明とそれに対する労働者の同意によって労働契約の内容となっていることが必要である。

A出向命令が権利の濫用にならないこと。
 出向の業務上の必要性と出向者の労働条件及び生活上の不利益との比較が問題となる。


配置転換

@労働契約締結の際に、職種又は勤務地限定の契約が締結されていたかどうか。

A労働協約又は就業規則に、使用者の配置転換命令権の根拠があるかどうか。

B配置転換に業務上の必要性(余人を持って代え難いほどの高度の必要性は不要である)があるかどうか。

C労働者の生活上の不利益が通常配置転換に伴い甘受すべき程度のものであるかどうか。


懲戒処分

 懲戒処分が公正・適切に行われたかどうかの判断基準

@懲戒権の根拠
 懲戒処分をするには、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則に明記されていること。

A平等取扱い
 同じ程度の違反については、同一種類、同程度の懲戒をすること。

B相当性の原則
 懲戒は、違反の種類・程度に対し、相当な程度のものでなければならない。判例では、重きに失する処分は無効とされることが多い。

C手続きの適性
 本人の弁明、組合協議等の手続きを守らなければならない。


整理解雇(リストラ解雇)

 整理解雇が有効なものとして認められるには、つぎの4つの条件※をすべて満たしている必要がある。

@客観的に人員整理の必要性がある

A事前に解雇回避努力義務を行っている

B被解雇者の選定に合理性が認められる

C手続きに妥当性がある

 具体的には、以下のような事例は有効となる。

 従業員8名の整理解雇は、恒常的赤字の累積による業務縮小の必要性がある。また、整理解雇に先立ち、パートタイマーの雇止め、希望退職者の募集をおこなっていて、これによっても余剰人員がうまく解消されなかった。なおかつ、人選にあたっては人事評価を尺度に、低位な者を選んでいる。会社は労働組合と協議を重ね、退職条件の改善をしたが、労働組合が指名解雇につながるとして最終的に、協議を拒否していた。

 ただし、「ある部門の余剰人員を他の部門に配転することが、当該従業員の職種、能力の点で可能であり、しかも、その配転によって、配転先に余剰人員が生じないような場合」には、人員削減に経営上の必要性があるとは認めらず、整理解雇は無効とされる場合が多い。

《整理解雇の4要件》の解説
 @業務上の必要性
  客観的に人員整理を行う業務上の必要性があるか
 A整理解雇回避義務
  他に整理解雇を回避する可能性はないか
  また、使用者による整理解雇回避義務の努力がなされたか
 B整理解雇基準の合理性
  整理解雇基準に合理性があるか
  また、その基準の適用に妥当性があるか
 C労働組合等との協議
  解雇手続きに関して、労働組合等と誠意をもって協議したか
  また、労働者に誠意をもって十分に説明したか

《具体的な整理解雇回避措置の優先順位》
 ・広告費・交通費・交際費などの経費を削減する。
 ・時間外労働を中止する。新規採用を抑制する。
 ・正社員の昇給を停止する。賞与の支給を抑制・削減する。
 ・配転やグループ企業への出向により余剰人員を吸収する。
 ・労働時間短縮。一時帰休措置をとる。
 ・特殊雇用形態者(非正社員)の労働契約を解消する。
 ・希望退職を募集する。
 ・整理解雇を実施する。

《経営内容によって異なる解雇回避努力の程度》
 @倒産の危機に瀕しているため、緊急に人員整理を行う必要がある場合
 A将来、経営危機に陥る可能性があり、その危険を避ける目的で、今から企業体質の
  改善・強化を図るために、人員整理を行う必要がある場合。
 B将来的にも経営危機に陥る危険はないと予想されるが、採算性の向上を図る目的で
  余剰人員の整理を行う必要がある場合

《解雇対象者の選定基準》
  整理解雇の基準は以下のようなもの
  ア 貢献度 会社にどれだけ貢献しているかという程度。能力や人事考課の結果、
    出勤率、スキルなどから判断する。
  イ 密着度 正社員なのか、それともパートタイマーや期間雇用者なのかという雇
    用形態による区別。当然、正社員のほうがパートタイマーや期間従業員よりも
    密着度が高い。
  ウ 被害度 解雇されることによって労働者が脅かされる生活の程度。他の収入が
    ある、共稼ぎで子供がない、という場合などは、被害度が低いといえる。

    選定の順番は、密着度→貢献度→被害度


懲戒解雇

 懲戒解雇については、労働協約または就業規則の規定により具体的に懲戒解雇の事由と処分内容が定められていることが前提である。その上で、労働者の行為がその事由に該当するかどうかを検討する必要がある。

 また、懲戒解雇の場合には、解雇予告が行われないか、解雇予告手当が支払われず即時解雇され、退職金が支払われない等、当該労働者にとっては多大な不利益が付随するため、適用は慎重を要する。

 とくに、出勤停止・減俸などすでに同じ事由によって、懲戒処分を行っている場合には、一事不再理の原則により、懲戒解雇をすることは許されない。


普通解雇

 労働基準法の定め通りに解雇予告を行うか、もしくは解雇予告手当を支払えば、労働者を解雇することは合法的に可能である。ただし、この普通解雇にも、「使用者の解雇権の行使」が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、是認することが出来ないようなやり方であると、「権利の濫用」として、無効になることがある。

 例えば、頭髪を黄色に染めた25歳のトラック運転手を「素行不良にして、社内の風紀を乱した」として、諭旨解雇にしたという事例では、「労働者の頭髪の色、形、容姿、服装などといった事柄について企業秩序維持を名目に労働者の自由を制限することには限界があり、制限の必要性、合理性、手段方法として相当性を欠いている本件の場合は」無効という判断も出ている。


契約期間の定めのない雇用契約の契約解消

 民法627条1、2項
 @時給、日給制の労働者については、14日前に予告し、その手続きをとりさえすれば、契約を解消することができる。
 A月給制の労働者については、給与の計算期間の前半で契約解消の意思表示をした場合には、その給与計算期間が終わるときに、給与計算期間の後半で契約解消の意思表示をした場合には、その次の給与計算期間が終わるときに契約は解消する。


管理監督者に当たるかどうかの基準(名ばかり管理職)

残業代の支払い義務がない労働基準法の「管理監督者」に当たるかどうかの判断基準については、次の4つの条件を全て満たしていることが必須。

 

(1)部門全体の統括的な立場

(2)部下に対する労務管理上の決定権

(3)管理職手当などの支給

(4)自分の出退勤の決定権

 

たとえば、

ソフトウエア開発会社「東和システム」(東京)社員の男性システムエンジニア3人が、権限のない「名ばかり管理職」扱いされ、残業代を受け取れなかったとして、未払い残業代の一部など約1億円の賠償を求めた訴訟の判決では、「原告はプロジェクトのリーダーをしたことはあるが、メンバーやスケジュールの決定もできないなど要件に該当しない。経営者と一体的立場の管理監督者とはいえない」と指摘している。 

 

【状況】

原告3人は1990〜93年、課長代理に順次任命され管理職扱いされた。昨年11月、管理監督者ではない課長補佐となった。