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Research
幹細胞入門
ALSA副会長・科学部門理事長 Lucie
Bruijn 著
幹細胞とは何か?
幹細胞とは、培養において無限に分裂可能で、分化した多様な細胞になりうる細胞である。幹細胞は血液、骨、脳、筋肉、皮膚その他の器官に分化可能である。胚性幹細胞は未分化の細胞で、成人のいかなる細胞にもなる能力がある。
胚性幹細胞は何に由来するのか?(図1参照)
ヒト胚性幹細胞は1週齢未満の受精した胚に由来する。精子が卵子に受精して単一の細胞を形成すると、この細胞は完全な個体を形成する能力があり、分化全能性細胞と呼ばれる。受精直後の数時間に、この細胞は全く同一の、複数の分化全能性細胞に分裂する。およそ4日後、これらの細胞は分化を始め、胚盤胞と呼ばれる中空の細胞塊を形成する。胚盤胞は外層を形成する細胞に囲まれ、内部は中空であり、その中に内細胞塊と呼ばれる一群の細胞がある。内細胞塊に由来する細胞を用いることにより、分化全能性の幹細胞の株を産生することができる。胚性幹細胞(ES)の株は、生体を形成するいかなる細胞にも分化しうることから、分化全能性細胞であると考えられている。初期の研究は、マウスのES細胞に焦点をあてていた(図2参照)。しかし最近になって、科学者たちはヒトの胚性幹細胞を分離し、培養により増殖させうることを発見した(図3参照)。分化全能性細胞は分化して多能性幹細胞になり、これらは特定の機能を持った細胞になる。例えば、脳にある多能性幹細胞は、異なったタイプの神経細胞や膠細胞になる(図2A及び図3参照)。
ヒトの胚性幹細胞の分離が可能で、生体の全ての組織になりうる能力を持ったまま、培養により増殖が可能であることの発見は、医学上の重大なブレークスルーであった。しかしながら、同時に重大な倫理上の問題をも引き起こした。

図1

図2

図3
幹細胞にはどのような応用の可能性があるのか?
中枢神経の細胞には再生能がなく、また正しい接合を形成して機能を回復する能力がないことから、成人の中枢神経系に対する損傷は致命的なことである。脳と脊髄に対する損傷の結果は、単に健全な神経細胞と標的器官のコミュニケーションが断たれることだけではない。一連の反応が連鎖的に続くことにより、細胞死という結果に到る。神経細胞に分化しうる幹細胞の発見は、脳の“修復”の可能性という、新たな扉を開いた。方法として、成人の脳に存在する内生幹細胞を刺激する方法、あるいは移植による方法が考えられた。これらの細胞を用いた“細胞治療”ができる可能性は、この分野の研究を爆発的に加速している。
またヒトの幹細胞研究は、我々が医薬品を開発し、これらの安全性を試験する方法をドラマチックに変化させうる。新しい医薬品は臨床試験を行う前にまずヒトの細胞株を用いて試験をすることができる。加えて、ヒトの幹細胞は、新しい化学物質のスクリーニングを行うためにも使用可能である。科学者たちはこれらの細胞株を用いて、幹細胞を様々な細胞に分化させるための分子レベルの合図を発見することが可能である。
成人幹細胞 vs.
胚性幹細胞
幹細胞はヒトの初期発生に重要ではあるが、これらの細胞は成人になっても残存している。成人における幹細胞の機能は明らかになっていない。成人における骨髄幹細胞の存在は早くから知られていた。この幹細胞は、血液を構成する全ての細胞に分化することができる。つい最近になって、成人の脳と脊髄に幹細胞が存在することが発見された。ヒトにおいて、成人の幹細胞を応用するための基礎研究が、現在いくつか試みられている(血液を形成する細胞、軟骨を形成する細胞など)。しかしながら、成人の細胞は既に分化しつつあるため、損傷された組織を再生する能力はかなり限られている。もう一つの障害は、これらの細胞が培養によって増殖させることができないことである。このため、臨床応用上十分な量の成人幹細胞を得ることは、困難であることが判明するかもしれない。
興味ある発見として、マウスに移植された骨髄細胞(血液系の全ての細胞に分化しうる)が、脳に移動して、神経細胞になりそうな細胞に分化しうる、という事実が挙げられる。この研究から示唆されるのは、骨髄細胞が神経細胞の素材として容易に入手しうる供給源となり、倫理上の問題を克服しつつ神経系の疾患の治療に用いられるという可能性である。さらに、幹細胞移植の供給源として、臍帯血を用いることが提唱され、この方法を動物モデルに適用する研究論文が発表されている。しかしながら、これらの結果については議論の余地があり、ALSのような病気の治療を目的とする幹細胞の供給源として、これらを用いることが本当に有効であるのかどうかを確定するためには、更なる研究が必要である。
成人の幹細胞に関する研究は重要であり、胚性幹細胞と並行して研究が続けられるべきである。なぜなら、両方の幹細胞とも有効なものである可能性があるからである。科学者たちが病気の治療に最も効率的で有効な方法を発見するには、全てのタイプの幹細胞に関する研究を重ねる以外に道はない。
成人の脳と脊髄に内生的な幹細胞が存在することから、組織の拒絶反応を克服しつつ移植を行うための代替法になりうるかもしれない。もしも、元々存在している幹細胞を刺激して、死につつある細胞を置換する方法があれば、移植法が持っている限界を克服することができるだろう。複数の小規模なバイオテクノロジー企業が、このような刺激の作用を持つ化学物質を探り当てることを期待して、この方向の模索を続けている。細胞の分裂と体内移行、そして分化を支配する分子や遺伝子に関するさらなる研究が求められており、究極的には新しい薬剤の標的に至り、ALSの治療法となる。
ALSの“幹細胞療法”が直面している難関は何か?
胎児由来の細胞が、損傷を受けた部位に移植された後、長時間生存することが可能という、有望なデータが得られたにも拘わらず、神経細胞の機能が回復した(神経細胞が標的との適切な接続を形成した)ことを示す研究は殆ど存在しない。最近発表された報告の中で、一部の変異を加えた胚性幹細胞が多数のドーパミン作用性神経細胞(パーキンソン病で失われる神経細胞)を作り出し、パーキンソン病の動物モデルでは若干の機能回復を示したとされていることは、極めて心強いことである。しかしながら、機能の回復が神経細胞相互の接続に依存することが少ないパーキンソン病と異なり、運動神経の場合には、標的となる筋肉との間で接続を形成しなければならず、成人の場合には1メートル(およそ3フイート)にも及ぶため、非常な難関となるのである。
ALSにおける運動神経細胞の死のメカニズムは不明のままである。移植された幹細胞が、運動神経細胞に死をもたらした損傷の原因(単数または複数)に対して、抵抗性を有するのか否か、また有害な環境から幹細胞を保護するために、幹細胞に変異を生じさせる必要があるのか否かも明らかではない。また、移植医療に用いられる培養幹細胞が、生体の免疫システムによる拒絶反応に直面する可能性も存在している。
研究活動の現状
この数ヶ月間に、幹細胞の分野に属する研究論文の刊行数は激増している。そのうちで重要なものについては、下記を参照して戴きたい。既に発表された実験結果の再現ができないとの主張があり、成人の幹細胞に、必要な種類の細胞に必要な数だけ分化する能力が胚性幹細胞と同等に存在するか否かについては激しい議論が行われている。対照的に、数年前までは不可能と考えられていた事実で、特にALSと関連するものは、幹細胞を運動神経に分化させることが可能か否かという問題である。Tom
Jessell
博士の研究室で行われた研究は、マウスの胚性幹細胞が実際に運動神経に分化することが可能であり、鶏の胚の脊髄に移植されると、運動神経の軸索が骨格筋と接続することを示した。この有望な研究は、最近達成された進歩を示すものである。科学者たちは、鶏の胚とヒト成人との差異が大きなものであり、現在のところゴールには到達できないことを熟知している。しかしながら、幹細胞が死につつある神経細胞に対し、栄養面で保護する物質を運搬できるらしいことは、恐らく実現可能なことであり、多くの研究がこの分野に焦点をあてている。幾つかの研究では、培養中の胚性幹細胞に遺伝子的な改変を加えることが可能であることを示している。この技術を用いれば、幹細胞を改変して、死につつある運動神経に遺伝子やその他の因子を送り届けることが可能となる。この分野における更なる研究が必要である。
臨床試験はどうなのか?
現在のところ、臨床試験は全く行われていない。しかし、骨髄幹細胞や臍帯血の幹細胞をヒトに適用する研究が、未発表ながら何件か行われているが、未だに極めて初期の段階にある。幹細胞が治療に用いられうるという、興味深い可能性に鑑み、科学者たちや臨床医師たちは慎重かつ厳密な研究を行い、さらに最も重要なこととして、この治療法が未だに直面している多くの障害を解明するための試験室レベルの実験に焦点をあてた研究をするべきである。この治療法が臨床応用の場で安全かつ効果を発揮するためには、様々な幹細胞の特性と複雑さについてさらに解明するための適切な研究が実施されねばならない。
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