Vol. 7, No. 3 - May,2002

 

 

ALSの遺伝子治療が一歩実現へ近づいた

by Margaret Wahl

デトロイトにあるウェイン州立大学の小児科と神経内科に所属するGyula AcsadiはMDAによる研究奨励金を受領しているが、彼らのチームは最近、革新的な遺伝子治療技術を用いてALSマウスにおける病気の進行を遅らせることに成功した。

研究チームは、4月18日にデンバーで開催されたアメリカ神経内科学会の第54回年次集会で、発見の一部を発表し、“Human Gene Therapy”誌の6月10日号に論文を掲載する予定である。

Acsadi と同僚たちは一連の実験の中で、アデノウィルスへ神経を保護する遺伝子を挿入し、遺伝子を運ぶウィルスをALSに罹患したマウスの背中と脚の筋肉に注射した。

研究者たちはグリア細胞由来神経親和因子(GDNF)を使用した。この物質は天然のもので、運動神経を含む神経細胞に栄養を与え、保護するものである。運動神経は筋肉を制御する神経細胞で、ALSにおいて冒されるものである。

 

治療を受けたマウスは治療を受けない対照のマウスよりも1週間遅く症状を発現し、運動機能を1ないし2週間永く維持した(回転する棒の上に留まる能力で測定された。)さらにマウスは平均して17日間寿命が延びた。

研究者たちによると、ヒトで病気の進行が同じ比率で遅くなると、ALS患者には数年間の延命効果となる。

科学者たちは、おそらくはGDNFがマウスの脊髄の運動神経の寿命を延ばしたものと信じている。

実験で得られた証拠から、GDNF遺伝子はおそらく筋肉から運動神経へ移動し、そこでGDNFタンパク質が作られたらしい。さらにこのタンパク質は注射部位の筋肉細胞でも産生され、これらのタンパク分子が運動神経に対して、生命を救う信号を送り返したのであろうと研究者たちは語っている。 

研究者たちはGDNFをコードする遺伝子をウィルスに挿入し、そのウィルスをALSに罹患したマウスの筋肉に注射した。おそらくGDNF遺伝子は神経細胞の軸索を辿って、神経細胞の細胞体に到達したのであろう。この治療法により、これらのマウスはALSの進行が緩やかになったように思われる。

 

 

 

 

第二の実験で、研究者たちはGDNF遺伝子を運搬するのにアデノ随伴ウィルスを使用して同じ結果を得た。アデノウィルスは危険な免疫反応を引き起こすことが知られているが、アデノ随伴ウィルスではこの現象は観られない。

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蝙蝠とナッツが、グアムにおけるALSの環境要因への手掛かりを生み出す

Dan Stimson著

新しい仮説によると、グアムにおけるALS発症率の高さは、現地の人々が蝙蝠を好んで食べることが原因かも知れない。

二人の研究者がこの仮説を提唱したのは、グアム島の原住民にとって“ご馳走”である蝙蝠が、有毒な蘇鉄の実を食べていることを観察したことが、一つの根拠になっている。

“もしも我々の主張すなわち、食事に含まれている環境中の毒素がグアム島の人々に[ALS]を引き起こしている、という説が正しければ、他の地域における、食品を含む環境中の毒素に関する研究につながるだろう。”

研究者の一人・Paul Alan Cox はこのように語った。

Cox は、ハワイ州Kalaheoにある国立熱帯植物園の園長であり、この施設は議会の要請により、熱帯植物を保存し、植物から抽出できる医薬品の同定を行っている。

彼とOliver Sacks は、Neurology誌の3月26日号で、仮説の概略を発表した。ベストセラー作家でもあるSacks は、ニューヨーク市・Albert Einstein 医科大学の神経内科医で、グアムでALS患者の調査を行った。

1940年から1965年の間、グアム島原住民・チャモロ族におけるALSの発症率は世界における発症率の50ないし100倍に達し、チャモロ族の死亡原因のトップになった。大部分の症例は、パーキンソン−痴呆合併症(PDC)を伴っていた。すなわち、パーキンソン病による振顫とアルツハイマーによる記憶の喪失が伴っていた。ALS-PDCは、グアム島原住民以外では観られなかった。

今日では、チャモロ族における純粋なALS及び ALS-PDC は、際だって高い発生率といえない水準まで低下した。このことは、この病気の引き金(チャモロ族のライフスタイルに固有な何か)に、移り変わりがあったことを示唆している。

チャモロ族が粉にして食べている蘇鉄の実は、かつて最も疑われたものである。蘇鉄の実に含まれる毒素が動物に神経障害を起こしうることを示す研究が行われてから、蘇鉄の実から採る粉の消費は減った。しかし別の研究によると、チャモロ族は毒について熟知しており、粉に加工する過程で手際よく毒を取り除いていたことが明らかになった。

ほとんどの科学者にとって、蘇鉄の実は問題外となったように思われた。研究の方向は、チャモロ族の食事から遺伝的な危険因子の可能性へ変わった。

しかしCox は研究を続けた。彼は回想する。“グアムにおける ALS-PDC と唯一重要な相関を有するのはチャモロ族の食事だけであることが判って、私は尋ねた。『世界中の誰もが食べない物で、チャモロ族だけが食べる物は何か?』”

答:オオコウモリ。ココナッツ・ミルクの中でボイルした後、頭からつま先まで食べる。一般には、特別な行事のための、とっておきのご馳走である。

Cox によると、コウモリは蘇鉄の実を餌としており、毎晩自分の体重の2倍の量を食べるので、コウモリの組織中に含まれる毒素は、蘇鉄の粉よりも遙かに高い濃度まで集積しうる。

彼によると、この説は、グアムにおけるALSが第二次世界大戦の後で頂点に達し、その後一貫して減少したのはなぜかを説明できる。戦争はグアムに金と銃をもたらし、蝙蝠肉の市場が急成長した。絶え間ない狩猟と消費のために、1970年代半ばまでに蝙蝠はほぼ絶滅し、グアムはサモアから蝙蝠を輸入し始めた。サモアには蘇鉄が自生していなかった。

チャモロ族のALSは、ピーク時点で人口10万人あたりおよそ400人だったが、蘇鉄を食べる蝙蝠が消滅した現在では、

人口10万人あたりおよそ22人まで減少した。

コックスによると、この関連は研究の必要がある。将来の研究は、グアムで保護され、残存している蝙蝠におけるソテツの毒を徹底的に調査すること、そして高いALSの発症率を示しているニューギニア原住民の特定の部族の食習慣を調査することであるという。

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リルテックは安全であるが、効果が微弱である;

より良い薬剤が開発されるかも知れない

科学者たちは、脳内の化学物質であるグルタミン酸の爆発的な放出が、ALSにおいて鍵となる役割を担っているものと信じている。このため、グルタミン酸をブロックする数種類の薬剤の治験で、治療効果が殆ど認められなかったことは、いささかの驚きと大いなる失望をもたらした。しかし最近の研究の結果、既存の薬剤はグルタミン酸の経路のうち、誤った部位をねらっていたらしいことが示唆されている。

グルタミン酸はニューロン(神経細胞)の間で、メッセンジャーとして作用する。一つの神経細胞がグルタミン酸を放出すると、もう一つの神経細胞がグルタミン酸レセプターを用いてそれを拾い上げる。これらのレセプターにグルタミン酸が付着するとニューロンは興奮し、“発火”させる。しかし、過剰なグルタミン酸は、興奮毒性として知られている作用により、神経細胞を瀕死の状態に追い込む。

ALSの治療薬としてFDAが唯一承認したRiluzole (Rilutek)の作用機序の一環として、グルタミン酸の放出のブロックがある。しかし残念なことに、患者の余命が数ヶ月延長されるだけである。

グルタミン酸の放出をブロックする他の2種類の薬剤・gabapentin とlamotrigine、さらにNMDA型のグルタミン酸レセプターをブロックするデキストロメトロファンは、臨床試験でALSに対する効果を全く示すことができなかった。

新しい研究の結果、ALS研究者は特殊なタイプのNMDAレセプターをブロックする薬剤を探索すべきことが示唆されている。このレセプターは、ニューロンの特殊な部位に分布していることで識別できる。

一部のNMDAレセプター、すなわち神経の伝達に関わるものは、シナプスと呼ばれる、ニューロンが物理的に接続している部位に分布している。他のレセプターはシナプスから離れた部位に分布し、シナプス外NMDAレセプターと呼ばれ、神経伝達には僅かな役割しか果たしていない。しかし新しい研究によると、興奮毒性の発揮には、大きな役割を果たしている。

シナプスのNMDAレセプター(白)はグルタミン酸に反応し、神経細胞の生存を促進する。他方、シナプス外NMDAレセプター(黒)は死の引き金を引く。シナプス外にあるレセプターを標的とする薬剤は、ALSに対して不利な作用をもたらす。

ドイツハイデルベルク大学のHilmar Bading に率いられたこの研究論文の著者たちは、シナプスのNMDAレセプターの活性化は、脳の海馬と呼ばれる領域のニューロンの延命を促進することを発見した。しかし、シナプス外レセプターの活性化はニューロンを殺してしまう。

彼らの指摘によると、一部の病気においては、グリア細胞から放出されたグルタミン酸によってシナプス外レセプターが活性化されうるとのことである。

Nature Neuroscience誌のオンライン版4月15日号で発表された彼らの研究結果は、シナプス外レセプターを標的とする薬剤により、興奮毒性が関与しているALSや他の神経内科疾患の治療に有効かもしれないという希望をもたらしている。

もう一つの研究、すなわち“ALS及び他の運動神経病”誌の9月号に掲載されたものは、リルテックは優れた安全性を備えていることと、治療効果が微弱であることを指摘している。

1995年、リルテックの開発を行った会社(Aventis社。前身はローヌ・プーラン ローラー社)は8,000人近いALS患者で研究を始めた。1990年代後半に商業的に販売されるまで、患者は無償で薬剤を与えられた。

関係者の報告によると、リルテックに起因する問題(日量100mg投与)は殆どなく、多くの副作用がALSの進行に関係していた。大部分が病気の合併症によるが、参加者の19%が研究の終了前に死亡し、9%は中断の必要があった。

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