中 山 巴 遺稿集  (平成16年11月10日没  享年81才)
  (中頸妙高村出身、若い頃はアルペンスキー選手として活躍し、明治神宮大会などに県代表として出場する。
  50才を過ぎてからは、書道を教えたり、俳句に親しんだ。)

  句集「四季」(昭和52年)     

 
 「夏座敷」より   作者  中山 巴

 花の香の 堂にただよい 静もれり

 せせらぎも 鳥啼く声も 春うらら

 春浅く 閉ざせる堂や 父は亡く
(大清水観音堂再建の折、父は宮大工の棟梁なりき)

 卒寿には あと1年や 母の春

 積もる雪 掻けば又積む 日の続く

 子も母と なりて新らたの 年迎う

 句碑囲み 師を偲び合う 秋の庭

 立秋や 虫の音の止む しまい風呂

 岩田帯 子に締めてやる 夏座敷

 冬囲い はずすや木々の 目覚む音

 衣縫えば 猫が背にのり 冬ごもり

 病みがちの 母も米寿の 松飾る

 風涼し 釣りの話に 夜は更けり

 藍の香に そよぐ風あり 浴衣縫う

 貰いたる 若芽に潮の したたれり

 菖蒲湯に 老いて夫婦の 恙(つつが)なく

 長雨に 冷えし砂踏む 梅雨の浜

 春風に 味噌煮る香り 隣より

 「七日会句集」(平成元年)   
                    
 書道を教えていた頃(平成4年)
 「磯の香り」より   作者 中山 巴

 初詣り 雨に出足の にぶらせて

 海山に 日蓮太鼓 寺年始

 故郷の 雪山遠く 春立てり

 雪折れの 木々に残雪 なお重く

 暖冬や 磯の香りの 砂を踏む

 夜の更けて 雪崩のニュース 夫も覚め

 芽吹くもの あまたの中の 八重桜

 屋根裏の 急に賑(にぎ)わい 巣立鳥

 物の芽の 芽吹きて枯るる 松目立つ

 それぞれの 色の芽吹きの 木々くぐる

 任期終え 夫の安らぐ 春炬燵(ごたつ)
 
 彼岸寺 昔のままの 斎(とき)の膳

 畑仕事の 予定を替えし 春の雪

 見過ごして 戻りて折りぬ 蕨取り

 青き葉を 庭に降らして 夏嵐

 夏近し 海辺せわしく クレーン車

 金比羅さん 汗して登る 五姉妹

 虫の音も 消えて海鳴り 夜更けまで

 朝露や 下駄音高く 修行僧

 紬織る 越後乙女や 秋時雨

 秋雨や 大社詣(まい)りの わりこ蕎麦(そば)

 冬囲い 幼き孫が 渡す縄

 冬波の しぶきの道を 急ぎけり

 冬波に 大日輪の 呑み込まれ

 客もなき 駅のストーブ 赤々と

 吹雪く夜や 夫を出迎ふ 無人駅

 母の忌(き)や 母の好みし 寒苺(いちご)

 冬日和 庭一面に 海苔干され

 修行僧 寒の夜更けの 歩を早め

 寒梅の 香り些(わず)か 夫の部屋

※太字は、11月12日の告別式で紹介した句です。                                       別れの言葉(父)