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のんちゃん 便り

159  2012年 10月

大学受験

高校に入学した時、2年間はいろんな体験をさせながら望の思いを受け取り、3年生で進路を決めて、目標に向かっていこうと思っていたのですが、3年になっても自信をもって望の思いをキャッチすることができなくて、3年の最後になって、進学することに決めました。進学の目的は、より体験の幅を広げ、より多くの学生を巻きこみながら自立に向けていくことです。

「行けたらいいな〜」と思ういくつかの大学は、車イスだと2時間くらいかかります。また、「短大や専門学校では、授業の時間割がハードで、学生に巻きこまれる余裕がないのでは」とか、「イケメン好きの望は、女子大では楽しさ半減かな」などと考えて、自宅から無理なく通学でき、4年制で共学の大学に絞り込み、オープンキャンパスの日程を入れて、一覧表を作りました。

そして、オープンキャンパスに参加しました。模擬授業を受講して、なるべく学食で昼食を食べ、個別相談コーナーに行きました。望が大学の様子を感じ取ることと、受験方法についての相談を目標に行ってきました。望は、どこに行ってもすぐに馴染んで、授業を楽しんだり人とかかわったりしていきます。高校受検の時のオープンスクールを思い出しました。高校の体験授業で、一番大きな声で先生に答えていました。今回も物怖じすることなく積極的に授業に参加する姿がありました。参加型授業で伝言ゲームをした時、大きな声で伝言していて、見学していた私は思わず笑ってしまいました。望の進学の意志は充分に伝わってきました。

望の能力は、学力で測ることができません。特別な配慮は必要ですが、話し合いだけで特別扱いで入学をさせてもらう、というわけにはいきません。それでは、どんなに真正面から挑んでいっても、裏口入学になってしまいます。それぞれの大学の選抜方式の中から、望が受験でき、望の力を見てもらえる方法を探しました。特技や自己アピールで評価をするAO入試を行っている大学があります。プレゼンテーションと面接は、望にむいています。また、公募推薦という方法では、試験がマークシートだったりほとんど選択問題だったりで、パソコン受験ができそうです。個別相談コーナーで詳しい話を聞いてきました。

さて、オープンキャンパスに行った時の大学の対応です。入試課の職員さんや、入試担当や学生支援担当の先生の対応に、反論したくなることがありました。学生生活を充分にサポートすることができないこと、単位取得が困難なことを理由に、遠まわしに断ろうとする大学が多かったです。入試の全てに高校の成績評定の基準を設けている大学で、「どうぞ受けていただけば良いですよ」と言われ、「それって、受けれるものなら受けてみなさいよ、ってこと?」と、見下されてる感じがしました。「大学は研究機関ですから、それなりの学力が無いと」と言われたこともありました。福祉系の大学で、「ウチは○○という国家資格を取ることを目的としている学科なので」と、『望さんは資格取れないでしょ(だから来てもらうわけにはいきません)』ってことを暗に言われたり、「人を支援する学生を育てるところ」「助けることのできる学生を求めている」といわれた大学もありました。「支援される学生を受け入れるところではない」という大学までありました。

「専門職を養成する所に、資格の取れない望ひとり入ることで、資格を取って専門職となっていく学生の質が上がるでしょ。学生に、あなたたちは『支援する者』だ、なんて教えないで欲しい。私は大学の授業で、福祉は自分の足元につながっていることを伝えようとしてきた。人は支えあって生きているんじゃないの?支援する人・支援される人と分けた時点で、差別がうまれていることに気づかないの?」、 「生きた教材になんて、そんな失礼なことはできません、ですって?それは、自分が支援する側だと、高い所から言っていることに気づかないの?ともに育ちあう中では、一方的に教材になんてならないんだよ。『学びあう』ってことが分からないかな〜」。

高校に持ち帰り、相談をしました。AO入試は、各自で自由に受けるようにとのことでした。パソコンでの受験については躊躇されました。高校受験はパソコンを使ったのですが、なぜ、大学受験でパソコン使用が難しいのでしょう?高校に入って、2年近くの保護者待機という小中学校からの後退があり、次のステップへの受験についても後退かと、合理的配慮はどこへやら…、また、溜息です。

とりあえず、2校、AO入試で受験をしました。保護者の頑張りを見て、1校目の大学は、AO入試のエントリー前に、高校の進路担当の先生が大学を訪問して志願可能なことを確認してくださいました。エントリー後、介助者が入って受験することについての相談にも管理職が同行してくださいました。でも、その大学では介助者の同室は認めたものの、望一人だけでプレゼンと面接と作文をするように言われました。プレゼンの内容は、高校生活で頑張ったこと。生徒会活動のこと、学外では、ジュネーブでの子どもの権利委員会での活動や劇団態変の韓国公演のことなど、アピールできることはたくさんあります。パワーポイントを使用してのプレゼンで、望がわかるよう、写真と説明文を映すようにしました。望はトラックボールでパソコンを操作して、パワーポイントのスライドを次々と進めて、「わわわ〜、あわわ〜」と写真の説明をしている様子でした。作文は、パソコンの画面にキーボードを表示し、トラックボールを使って文字入力をして、プレゼンした内容の「生徒会/国連/態変/チャレンジ/頑張ります。/向井望」と、書く練習をしました。すぐに覚えました。でも、面接で、話すか書くかで答えることを強いられたようです。コミュニケーションは想いのキャッチボールであり、お互いが努力するものだと思いますが、受験となると、言語を強要する先生の土俵に乗らないと聞いてもらえないのでしょうか。望は、プレゼンも作文も頑張りましたが、あっけなく、公印も略された数行だけの不合格通知が1枚、郵送されてきただけでした。

次に受けた大学は、高校の支援なしで受けました。福祉系の学科に望を知っている先生がおられる大学です。オープンキャンパスに参加した日は、その先生は相談の当番ではなかったのですが、望のことを話してくださっていたようで、個別相談に先生や職員が7名も来られました。私たちの話を時間をかけて聞いてくださり、望が入ることで周りが変わることは十分にわかるが…、と悩まれ、受験方法を一緒に考えてくださいました。そして、資格を取ることを第一の目的としていない学科を受けることにしました。AO入試は、プレゼンと面接でした。中学の時の友達が介助に入って受けました。友だちの話では、「面接は温かい感じで良かった」とのこと。受かるかも!という期待があったのですが、残念ながら不合格でした。結果通知の後、学部長からお話がありました。学部長と先生2人と入試課の職員が同席されました。教授会で、望を迎え入れたいと言ってくださった先生も何人かおられたそうで、なかなか結論が出なかったとのことでした。「望さんが入ることで、学生が変わることは十分に想像できる。プレゼンはとても素晴らしかった。入学して欲しい思いはあるが、個人の能力での評価が行なわれていて『関係性の力』を評価するところまで時代が追いついていないのが現状だ。面接の時に(先生方が)本人の気持ちを読み取ることが難しかったため、単位を取って卒業をしてもらうことが困難だと考えられる中で、入学してもらうことはできないとの結論に達した」そうです。丁寧に断られました。

AO入試で、2校、不合格になったところで、ちょっと立ち止まって思案しています。いろんな大学を回って話をしていくうちに、正直、「大学」というところに失望もしてきています。文科省からの指導という言葉を幾度となく聞きました。いつの間に、大学は資格を取る学校になったのでしょう?窮屈で余裕が無くなった感じです。自由に学びあう雰囲気が感じられません。望は、資格を取るために大学に行きたいわけではありません。大卒の履歴が欲しいわけでもありません。入学をすることは、とても意味のあることです。けれど、入学できたとしても、卒業することに力を使ってしまい、目的を達せられなければ、望にとっての大学は意味が無くなってしまいます。入学や卒業に関係のないところで入り込み、周りを巻きこんでいく方が良いかもしれない…。大学入学や卒業は目的ではなく、望の目的を達成するための手段の一つです。ならば、他の手段も検討してみようと思います。望の大学に行く意志は強いのですから。

劇団「態変」公演

10月5日から8日まで、劇団「態変」の公演「虎視眈々」が、心斎橋の劇場でありました。春からの稽古に、私はほとんど同席せず、文芸春秋「文学界」9月号に掲載された、高橋源一郎氏が稽古の様子を書かれた文章を読んで、どんな公演になるかと楽しみにしていました。ゲネプロ(本番同様のリハーサル)で初めて舞台を観ました。リハーサルから楽日まで付き添いましたが、劇団の人手が足りないために、メイクや炊き出しを手伝っていて、ようやく楽日に観客となることができました。面白い舞台でした。望は、言うまでもなく頑張っていました。小学校や中学校の先生、幼馴染み、主治医の先生、ヘルパー、私の友達…、たくさんの方が観に来てくださいました。「何か」を感じてくださったと思います。態変の舞台をまだ観たことのない方、ぜひ、次回、2月公演を観に来てください!

ひとこと

望は19歳になりました。少女から女性になって(?)、しっかりしてきました(もともと、しっかりしてるって?)。でも、まだまだ、成長中です。受験結果は不合格で、一石を投じることができたかどうかもわかりませんが、望は果敢にチャレンジしましたし、自身の可能性を広げました。受験のためにプレゼンや作文の練習をしましたが、プレゼンのやり方で講師業ができることがわかり、作文の練習でパソコンで文字を習得することもできそうな感じがしています。早速、障害児の高校進学の集会で披露しました。望にゲストスピーカーの依頼をしたい方、どうぞご連絡を。

トラックボールでパソコンを操作しながら発表するようす 高校の校外学習で飯ごう炊さん

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