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のんちゃん 便り

第33号 1998年 10月     文:向井 裕子

運動会

10月3日、保育所の運動会がありました。9月下旬から雨の日が多くお天気が心配でしたが、運動会当日は望には暑すぎるくらいの晴天でした。皆と同じ半袖半ズボンの体操服では暑いので、友人からもらったランニングの体操服を望に着させました。オープニングで登場した望は、多くの人に驚いたのかキョロキョロとしていて、いつもは手を上げ下げしたり前に出したりする大好きな体操をあまりしてくれませんでした。前半は、乳児が中心でしたので、4才児の望は休憩。予行練習の日のお便りには『他のクラスの出番は、じーと真剣に見ています。クラスの中で、いや保育所の中で一番真剣に見ていたような気がします。』とありましたので、当日も一生懸命見ていたのでしょう。保母さんに抱っこされご機嫌で手を前後に振っている様子も見えました。

ようやく望の登場する『あついよ〜あついよ〜こんな日は〜♪』が始まりました。ブルーの大きなシートをプールに見立てて子ども達は泳ぎます。望は、下に小さな滑車のついた板の上に腹ばいになり手で水をかいてクロールのように進む予定が、ゴロっと寝たままで動こうとしません。しばらして友達がみんなゴールする頃になってようやく手でブルーのシートを押して前後に動きました。本当に遅いスタートでした。ブルーシートのプールで泳いだ後は、皆で力を合わせてシートを丸め棒状にして抱え、さあドルフィンランドへ出発です。ドルフィンランドは、子ども達が色付けした色とりどりのタイヤの島です。立てたタイヤに乗ってゆらゆら。望もタイヤの上に腹ばいになり右手でタイヤを押さえゆらゆら、時々右手をぴーんと横に伸ばしてポーズしていました。2人組でタイヤの上に乗って遊ぶ所では、Kちゃんがいち早く望とペアになりました。去年の運動会で望とペアになってくれた望のことが大好きなHちゃんは、Kちゃんに先を越されて今回は譲った格好になりました。望とペアになりたがる子がたくさんいてくれることは本当にうれしいことです。望は、タイヤの上でKちゃんに抱っこされていました。それから皆で、並べたり積み重ねたりしたタイヤで思い思いに遊びました。のびのびと遊ぶ子ども達の様子を見ることができました。最後に皆で力を合わせタイヤとマットで山をつくりました。望が手に付けた鈴を放り投げて、それを合図に皆でタイヤの山に登りました。

私は、予行練習の時に少しこの遊びを見たのですが、予行の時とは、変わっていた所がありました。大きな流れは同じでも、その中での遊び方は、その時々によって変えてあるようでした。「子ども達が楽しめる運動会」の理由はそのあたりにあるのかもしれません。でも、保母さん達は、その度に打ち合わせや準備をしなければいけないので大変だと思いました。子ども達は、運動会が近づいても、不安定な気持ちになることも無く、いつも通りに遊んでいられるので幸せなものです。

幼児の縦割りグループでの競技は、昨年は玉入れでしたが、今年は借り物競争でした。3人1組で、紙にかいてある絵と同じ絵が描いてあるメダルを観客席のお母さん達からもらいます。親子競技は、ドルフィンランドで使ったタイヤを使い、子ども対お母さんのタイヤの争奪合戦でした。ハンディは、親は両手を使ってはならないことで、子ども達の勝利に終わりました。また、恒例となっている保護者の応援合戦では、私達のクラスは、棒の先に長いリボンを付け新体操のリボンのようにして、「公園に行きましょう」の曲に合わせて踊りました。これはクラスの母親達が夜に集まり練習をしてきたものです。運動会の後で子ども達にリボンをプレゼントしたのですが、早速、週明けには、保母さんに割り箸の先にリボンを付けてもらい音楽に合わせて踊っていました。楽しそうに踊っている子ども達を見て、忙しかったけれどがんばって良かったと思いました。

運動会最後の締めくくりは、4、5才児による縦割りグループ対抗リレーです。望は赤いハチマキの金魚チーム。望は昨年と同じ様に箱車に取り付けたスタビライザーに乗り、友達に引っ張ってもらい走ります。同じクラスのMちゃんが引っ張ってくれ、Kくんが押して、すごいスピードでした。望は体を前に倒してバトンをしっかり手にはさんで走りました。運動会前日のお便りに『リレーのバトンを何回も振り落としました。2回目は、落としたらあかんよと注意するとぷいと横を向いてしまいました。でも、落とさずにしっかり持っていました。』とあったので、バトンを落としたらどうしようと私は内心ヒヤヒヤしていましたが、何とか無事に走り終えほっとしました。残念ながら望のチームは3チーム中最下位でした。運動会の後で、リレーについてお母さん方と話が盛り上がりました。「望ちゃん、一生懸命の顔して、恐かったんと違うか。」と他のクラスのAさん。「そんなことないで。きっと『何とろとろしとる。はよ〜走らんかい。』と思ってたと思うわ。」「望ちゃん、すごい気〜強いからなあ。」と同じクラスのBさん。私は顔を赤くしながら、へへっと笑っていました。

運動会の日の夜に保護者の役員会がありました。私は役員を引き受けているので出席しました。内容は、運動会の反省でした。望の行っている保育所は、保護者会が活発に活動をしているので、運動会においても実行委員を決めて、先に書いた応援合戦をしたり、子ども達一人ひとりにお土産を渡したりします。運動会の中での保護者会活動の反省の後で、今回の運動会への感想を述べ合いました。その中で、「もっと子ども達にいろいろなことをさせて欲しい。いつもと同じではなく、がんばることも大切だと思う。」とか、「一昨年から去年、去年から今年と、幼児組のやっている内容がレベルダウンしているように感じる。」「盛り上がりに欠ける所があった。」という意見が出ました。実際、私も去年の運動会の方が面白かったなという気持ちはありましたが、去年は初めての運動会で、今年は役員で落着かなかったこともあり、そんなふうに感じたのかもしれないと思っていました。でも、他のお母さん方の話しを聞いているうちに、だんだんと「重度の障害児がいるから内容がやさしくなっているのではないか。」と言われるのではと不安になってきました。もちろん、そんな事を口にするお母さんはいなかったのですが、もしかしたらそう感じている人はいるかもしれないと思いました。そして、もしかしたら保育所でも「重度の障害児がいるからやりにくい」と思われているかもしれないと思いました。もちろん保母さん達もそんな事はおっしゃいません。でも、障害児とともに運動会を行なうことは、ある意味で大変なことなのでしょう。

9月の末に我家の近くの小学校の運動会を見に行きました。重度の身体障害児はいないようでしたが、知的に遅れている子は各学年に何人かいるようでした。そういう子ども達が、出場する時、先生が2人ずつ付いていました。例えば、トラック競技ではトラックの両脇に1人ずつ先生が伴走し、ダンスでは1人の先生が移動させ、もう1人の先生は子どもの手を持って他の子と同じ様に上げたり下げたりをさせていました。正直な所、ショックでした。そこまで、皆と同じ事をさせなければならないのだろうかと疑問に思いました。みんなが手を上げている時に上げていなくてもいいじゃない、お友達の中で音楽に合わせて動いているだけでもいいじゃない、移動する方向だけを先生が導いてあげればいいじゃないと私は思いました。そして、子ども同士の関わり合いがあまり感じられない所もありました。先生方はたぶんみんなと一緒にさせようと一生懸命だったのだとは思うのですが。また、我家の近くの幼稚園が運動会の練習をしているのを見ていると、2人ペアで1人がベビーカーに乗り1人が押して、グループ対抗でリレーする競技の練習をしていました。この幼稚園にも重度の肢体不自由児がいるので、その子を意識した競技に思えました。でも、それは、目の見えない子がクラスにいるからアイマスクをしてかけっこをするのと同じ発想に、私には思えました。そんな運動会の風景を見ていると、望の保育所の運動会がいかに子どもを大切にして工夫されたものかがわかります。主役の子ども達は、口々に楽しかったと言っていました。また、望のクラスの「あついよ〜・・・♪」で子ども達はすばらしいチームワークを見せてくれました。日頃の子ども同士の関わりをしっかり見ることができたと思います。でも、隣の芝生でよそが良く見えたり、親の欲目もあって、いろいろと難しい面があるかと思います。そして、私は、教師でも保母でもなく一障害児の親だから、言いたい放題のことを言っていられるのです。

私は、勉強は苦手でもかけっこは得意な子どもに、たくさんの拍手をしてあげる所が必要だと思います。かけっこが苦手な子でも、がんばってみんなの声援を感じる所が必要だと思います。障害児も同じで、人より遅れても同じ様にはできなくても、その子のやり方でその子が参加した気持ちになって満足感を感じることができればいいと思うのです。その競技や演技の中で望のできる範囲のやり方で参加できればいいと思うのです。私は、望がいるから競技の内容を簡単なものにして欲しいとは思いませんし、望がいるからできないことがあるなんて、保育者や教育者のプライドにかけて、思って欲しくありません。それが、望が保育所に入所した時に私が保母さん方にお願いした「楽しんで、工夫をして下さい。」の言葉です。いかに工夫をして参加させるかが大切だと思います。それは、障害児と暮らしていくことにもつながります。工夫をすることで、障害児と共に楽しく生活することができると皆さんに知っていただきたいと思います。

ひとこと

望は、運動会が終わってから、少しハイの状態です。休みの日には相変わらずバスに乗っています。運動会の翌日も、私と2人でバスに乗って出掛け、ドーナツを買って(バギーに乗った望からもドーナツが良く見えるショーケースでなかなか良い)、またバスに乗って家に帰りました。夕方は、夫が望をジョイスティックカーで遊ばせました。望はハンドル操作ができないので、望の指示に従いながらハンドルを動かして散歩をしていると、夫の後をついてきた望が突然バックをして横断歩道の所で「渡れ」と指示したそうです。横断歩道を渡り、望の指示通りハンドルを合わせて行くと、望はバス停で止まり、時刻表を見上げて「うふふ」と笑ったそうです。「また、バスに乗るつもりか。かんべんしてくれ。」と夫は、無理矢理望を連れ帰ったとか。

ご報告が遅くなりましたが、望の腎臓の検査(RI検査)の結果は良好でした。留置カテーテルはしたままです。腎臓の肥大は大分おさまりました。ただ、感染しやすく抗生剤を飲み続けているのが気になっています。

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