田付先生のコーナー

 アルゼンチンアリ攪乱大作戦

 東大チーム岩国市へ遠征

 

*注・左の写真は5月17日の毎日新聞、山口東版に掲載されたものです。

 

 アルゼンチンアリ? 何だそれは? と言われるでしょうが,ここ数年,広島,山口両県ではこの変った名前のアリが大問題になっています。
 名前のとおり南米原産の外来アリです。
 北米,ヨーロッパ,アフリカ,オーストラリアにはすでに進出ずみでしたが,アジアでは日本が初。
 わずか2mmほどの何の変哲もないアリですが,生物が多様な南米で生き残ってきただけに,猛烈な繁殖力と活動性は日本在来のアリとはとても比較にならず,大変な数の行列をつくってどこにでも侵入するので,いろいろの被害が出ます。

(なお,今回もまたインターネットでの検索をお勧めします。「アルゼンチンアリ」でひくと写真入のHPがたくさん見つかるはずです。)

  増える原因は,ひとつの巣の中に多数の女王がいること(ほかのアリでは1匹),土の中だけでなく,ちょっとしたすきまにもどんどん巣をつくること。
 石垣の間,コンクリートの割れ目,あきカンの中,etc.ヘルメットに巣ができたのを知らずに被って大変な目にあったはなしがHPにのっています。
 さらに,南国生まれのくせに寒さにも強く,冬も休眠せず1年中活動できることなど。

  どんな悪さをするか? まず,人家にどんどん入ってきます。
 昔,日本でも台所の砂糖つぼに外からアリの行列がやってきたでしょう。
 あれをうんと激しくしたと思ってください。

 ついでに人にもたかり,衣服の下に入り込んであちこち噛む。
 毒はないが,いっぺんに多数が食いつく。
 病院に入ると院内感染の原因になることが懸念されています。
 まだ表には出ていませんが農作物の被害もあって,とくにアリがアブラムシやカイガラムシを保護するため,これらによる被害が増えています。
 また,ほかのアリ類をはじめ,在来の昆虫も激減してしまうこと。
 生物多様性が失われることが,じつは一番大きい問題だともいわれています。

  殺虫剤には弱く,噴霧するとしばらくは効果がありますが,巣全体を処理することが不可能なので,とくに発生密度が高まるともう殺虫剤での防除は無理になります。

 そこでうまくいけば,と登場した案が「フェロモンの利用」。
 アリの行列はトレールフェロモンとよばれる物質が道しるべになってつくられます。
 餌場や新しい巣への誘導は働きアリによって地面に点々とつけられたごく微量のフェロモンによるのです。
 しかし,世界に1万種ほどもいるアリの中でフェロモンの構造がわかっているのはわずか20種ほどしかありません。

 幸い,アルゼンチンアリのトレールフェロモンは20年あまり前にオーストラリアで解明されていました。
 そして,その成分(Z-9-ヘキサデセナール)は何と,偶然にもぼくたちが20年前に明らかにしたニカメイガ(イネ害虫の蛾)の性フェロモン成分の一つとまったく同じだったのです。
 これならすでに企業によって大量のフェロモンが合成されているし,さらに高濃度のフェロモンを放出して防除するための「攪乱製剤」も開発済みです。

  もう一つ重要なめぐり合わせがありました。
 東大で非常勤講師をお願いしている寺山守さんが,日本を代表するアリ学者であったことです。
 寺山さんは昨年山口県議会の議員から問い合わせがあったのがきっかけで,すでに今年1月には要請を受けて岩国市で現地調査をしています。
 そういう事情でアルゼンチンアリを合成トレールフェロモンを利用して駆除できないか,というプロジェクトが発案され,4月からは田中君という4年生の研究テーマがこれに決まって活動が開始されました。
 企業からは合成フェロモンと製剤を提供してもらうことができ,2003年5月15日,東大チーム,寺山・田付・田中の3人による初めての現地入りとなりました。
 今回の目的は,じっさいにアリが生息する状況の視察と,日本でみつかったアリがすでに確認されたトレールフェロモン成分に反応するかどうか,もし反応したなら,高濃度でフェロモンを放出する「攪乱製剤」を与えたらはたして攪乱がおこるかどうかを見る予備実験でした。

 初日,最初に案内してもらった民家の家庭菜園で土を掘ると,大量のアルゼンチンアリがあらわれて発生密度の高さにまず驚かされました。

  上に書いたような背景があったので,われわれ一行が現地につくと,地元のマスコミが多数取材にやってきていて面食らいました。
 翌16日の予備実験では,結果がどうなるか見当もつかないのに実験前からテレビカメラがスタンバイしており,「失敗は許されない」異様な雰囲気でかなり緊張を強いられました。
 しかし,色画用紙に塗った人工のトレールにうまく行列を導くことができてほっとしました。
 つぎに,攪乱製剤を行列の途中におくと,たちまち行列がみだれてしまいました。
 しかも,アリたちは逃げることはなく,付近で右往左往をつづけており,たしかに「攪乱」されているように見えました。
 実験のようすは地元のテレビ山口が当日夕方のニュースで特報として紹介していました。
 また,翌朝の各新聞でもローカルニュースになっており,なんか面映い感じでした。

  今回は住宅内への侵入は見ませんでしたが,夏にはどうしようもないほどだそうで,就寝中に多数のアリに食いつかれる被害も出ています。
 「夜中にきんXXをやられた」とおじさんの一人が言うと,おばさんがすかさず「それはきっとメン(雌)やったな?」と言ったのには大爆笑! たしかに行列を作るのは働きアリですべて雌ではありますが・・。
 「食べ物はすべて冷蔵庫に入れるほかないです」,言うおじさんのそばにいたおばさんからは,「○○さんのうちじゃ冷蔵庫にも入られた」,という信じがたい話も聞かされました。

 もう一つ印象に残ったのは,このアリの生息するところでは日本在来のアリがまったく見られなかったことです。
 昆虫を見慣れたものにとっては異様なことです。

 そしてこれは翌日駅付近を調査したときにさらにはっきりとしました。
 道路一本隔てただけで,未侵入のエリアでは複数の種類の在来アリがたくさん見られるのに,侵入したエリアは見事にアルゼンチンばかりでした!

  以上のように予備実験としてはまずうまくいったと思いますが,はたしてフェロモンを利用して防除にまで結びつけることができるのか,まだ予想はできません。
 かりにそれが可能にしても,まださまざまなハードルを越さなくてはならないのは確かだと思います。
 今回はともかくスタートに立てた,といったところでしょうか。

  皆さんからのご感想・ご意見,歓迎します。

 

                        田付: 

assulta@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp(大学) 

tatsuki3@aurora.ocn.ne.jp(自宅)

 

 copy right2003.TATSUKI, Sadahiro

 


 

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