稲生物怪録絵巻




備後国(広島県)三次の藩士・稲生武太夫(幼名:平太郎)の
体験記『三次実録物語』に基づく絵巻である。
ということで、そのようで日記形式に
「相撲をした」だの「肝比べをする」などと
どうでもいいことが最初記されているのですがだんだんと
すばらしい日記に変化していきます。
てゆうか、まずこのお家にすみてええ



7月1日
稲生家に初めて妖怪が出現、髭手の男が平太郎をつかむ。

7月2日
突然、居間の行灯の火が燃え上がる。
居間から水が涌き出た。

7月3日
女の生首が、髪の毛を足にして座敷を歩いた。
天井から青瓢箪がぶら下がる。

7月4日
違い棚に置いてある紙が、蝶のように舞い上がった。

7月5日
石に指や目が生えた蟹のような化け物が現れ、座敷じゅうを歩き回った。

7月6日
炭小屋の入り口いっぱいに老婆の巨大な顔が現れた。

7月7日
平太郎の友人が弓や槍、棒を持って応援にかけつけると、
堀の内側に入道の影が現れた。

7月8日
部屋の中に塩俵が三つ飛んできて、塩をまき散らした。

7月9日
応援にきた影山庄太夫が、妖怪にたぶらかされて、
無断で持ち出した家宝の刀を折ってしまったので切腹した。
そして庄太夫が幽霊となって現れ、平太郎をなじるが、
じきに幽霊も庄太夫の死体も消えてしまう。

7月10日
貞八がやってきて挨拶をすると、
頭が二つに割れて、赤子が次々と出てきた。

7月11日
刀の鞘だけがいつの間にか紛失していた。

7月12日
葛籠の化けた蟇が現れて、平太郎の胸の上に乗った。

7月13日
平太郎は、災厄を除くという薬師如来の御判を借りようと、平五郎という男と一緒に
西行寺に行ったが、途中で赤い石が飛んできて平五郎に当たった。

7月14日
天井一面に老婆の顔が現れ、蚊帳を貫いて平太郎の顔を嘗めた。

7月15日
居眠りをしていると、居間の額が「トントコ、ココニ」と鳴り続けるので、
はずしてみるといつぞや紛失した鞘が落ちてきた。

7月16日
天井がメキメキと鳴り、刀や机を吸い上げた。

7月17日
石川某の女房が見舞いにきたが、盥に追いかけられて逃げ帰った。
夜になり、串刺しにされた坊主の頭が踊り跳ねて、平太郎を眠らせない。

7月18日
権八がやってくると、居間の畳がみんな天井に吸い上げられてしまった。
この夜、錫杖が部屋中を飛び歩いた。

7月19日
運八がワナを仕掛けたが、翌日になると屋根の上に投げ捨てられてあった。

7月20日
美女が餅菓子を届けてくれたが、あとで聞けば、
隣家の重箱が一つなくなっていたという。

7月21日
行灯に人影が映り、なにか講釈をしてくれるようだ。
ないようは聞き取れない。

7月22日
棕櫚箒が現れて部屋を掃除してくれた。妖怪もたまにはよいこともしてくれる。

7月23日
隣の権蜂の家では、食器が散乱し、天井が崩れてきた。
平太郎の家の天井は、蜂の巣のように穴が開き、泡が吹き出ている。

7月24日
昼間、大きな蝶が飛びこんできたが、
やがてそれが無数の小さな蝶に変わった。
その夜、行灯に火を入れようとすると、行灯は墓石と化し、
その周りには火が燃え広がった。しかし行灯はなにごともなかった。

7月25日
縁側の踏み石に足を降ろすと、グニャリとするので、
よく見れば死体のように人が横たわっている。

7月26日
女の生首が血をしたたらせて、部屋じゅうを飛びまわった。

7月27日
部屋の中に黒い雲が立ちこめた。

7月28日
尺八の音が聞こえて、虚無僧たちが次々と部屋の中に入ってきた。

7月29日
星の光のようなものが、部屋に差し込んだ。

7月30日
突然、上品な武士が姿を現した。
これが化け物の頭かと、平太郎が身構えると、その姿は消えた。
そして、炉のふたが開いて、灰が盛り上がっていき、それが大きな入道頭になり、
額が割れて無数のミミスが落ちてきた。さらに、壁には大口が目を光らせている。
再び武士が現れて、山本五郎左衛門と名乗る。真の魔王となるために、16歳
の勇気ある少年の正気を失わされるために秘術を尽くしたが、成功せず無念である
という。ふと気がつくと、平太郎の後ろには、衣冠を帯した人の上半身が見えたが、
これは平太郎を護った氏神であった。
 山本五郎左衛門の合図によって、妖怪たちは隣家の屋根を越えて次々と立ち去っていった。