図書室にて

少なくとも現在よりは、未来の話。
ただ、どれぐらいの時間が経過して後の話かは、
誰にもわからない。
わかっているのは、人間と全く同じ姿形で思考し、
行動するようなもの(仮にRとしよう。)を産み出すテクノロジーが
確立されてからということだけ。

とりあえず、見捨てられた図書館の中で、物語は始まる。

舞台の奥一列にずらりと本棚が並んでいる。
中央に畳が2枚ほど敷いてあり、その上にせんべい布団の万年床と
田舎の民宿で良く見かけるようなスタンドが頼りなげな灯りを瞬かせている。
かたわらには、年代物のお盆の上にガラスの水差し。豚の蚊取線香が一つ。
そして、老人が一人、ぼんやりと本を読んでいる。


老人    :なぁるほど。ふん、そういうことか・・・
	  道理ではなしが通じない。
	  けどなぁ、待てよ。あっちの本では、
	  何だか違ったことが書いてあったような・・・
	  えぇっと、どこだったかな。あれは、どこに置いてあったけか?
	  う〜んとぉ。このあたりの、その下あたりに・・・ないなぁ・・・
	  あれ、ひょっとすると・・・やっぱりない。
	  ハルコさんが、掃除のついでにでも片付けちまったのかな。
	  掃除は構わんが、本だけはいじるなと、
	  あれほど言っとったのに。そうじゃ、きっとそうに違いない。
	  ハルコさんが、片付けてしもうたんじゃ。
	 	 困った嫁じゃて、全く。わしのやることには、一々文句を言うくせに。
	  えぇじゃないか、食事の毎に歯を磨こうが磨くまいが。
	  好きなときに屁をここうが、どうしようが。これだけ生きてきとるんじゃ、
	  今さら気取ってどうなるじゃ?もう充分生きてしもうたわい。
	  じゃから、わしは、やりたいようにやっとるだけじゃ。
	  それを、一つ一つねちねちと・.
	  他にもすることが一杯あるじゃろうが。え、ダイエットするならするで、
	  あんな高いダイエット食品を買うなんて事しなくたって、
	  ちょっと家事にせいだしゃ。
	  5キロや10キロ	なんてすぐだろうに。
	  あぁ、うっとうしい。あいつのつまらん小言を、長々聞かされるぐらいなら、
	  死んだほうがまじゃ。
	  全く、つまらんことをくだくだと。
	  あの、馬鹿者が全く・・・
	  あれ、わし。何を興奮しとるんじゃ??えぇっと、
	  何をしようとしとったんじゃっけ?
	  う〜んとぉ・・・おぅ、そうじゃ本を読んどったんじゃ、わし。
	  で、そうじゃ、そうじゃハルコさんがしまってしもうた本を
	  出してもらうんじゃった。
	  おぅい、ハルコさん?あの、あれは、どこにいったかの?
	  ハルコさん? ハルコさん?どこに行ったんじゃ?ハルコさぁ〜ん!
	  おかしいのう?
	  買い物にでも行ったのかのう?
	  おう〜い?
	  ハルコさぁ〜ん!! 鬼嫁サァ〜ン!! ハルコさんやぁ〜い!
	  出来損ないの太り過ぎのハルコさぁ〜ん!!
	  おう〜い!!


真ん中の本棚が、どんでん返し。どこから見ても主婦といった
風情の女がウッソリと登場。


ハルコ   :なんですか、黙って聞いてれば。好きなことを

老人    :わ、びっくりした。お前、一体どこから湧いて出た。
	  心臓に悪いじゃないか、全く。

ハルコ   :さっきは、もう、充分生きたとかなんとか
	  おっしゃってたようですけど・・・

老人    :え、お前、そんなとこから聞いてたの?
	  人が悪いなぁ、いるならいるで返事してくれりゃあいいのに。
	  いや、その。何というか、はは。困ったのう。

ハルコ   :どうせ、あたしは太ってますよ。鬼嫁ですよ。
	  寝たきりのぼけ老人をショック死させて、
	  お昼のワイドショーに出てやるんだ!

老人    :あの、いや。わしがいいたかったのは、その・・・
	  いや、ははは。ハルコさんは、いい嫁じゃ。
	  いつでも、わしの事を気遣ってくれておるし
	  部屋だって、いつも掃除してくれとるんじゃものなぁ。

ハルコ   :えぇえぇ、そうですかね。
	  で、一体なんのご用なんです?私だって忙しいんですから。

老人    :ふむ、そうじゃった。そうじゃった。
	  あのな、わしの、そのぅ。あの本はどこにあったっけのう?

ハルコ   :え、なんの本ですって?

老人    :いや、だから。「あの人は、神」という革表紙の
	  立派な本なんじゃがの・・・

ハルコ   :私、知りませんよ。そんなもの。
	  だって、おじいちゃんたら、本にだけは絶対触るなっていつも
	  言ってるじゃありませんか。
	  だから、私、この部屋だって、こんなに暗くてじめじめしてて、
	  お掃除したくて仕方ないのに、
	  でも、この部屋ったら本だらけで、これを触らずにきれいにしろなんて、
	  神様みたいなことが出来ますか!!

老人    :あぁ、その神様の本なんじゃがの。ハルコさん知らんかの?

ハルコ   :知りません!!

老人    :そうかぁ、ハルコさんでもわからんのかぁ。
	  困ったのう。あれには、大事なことが書いてあるんじゃが・・・


疲れて座り込む老人、ふと、尻の下に手をやると本がある


老人    :やぁ、あった。これじゃ、これじゃ。
	  わしゃ、これを探しとったんじゃ。

ハルコ   :おじいちゃんたら・・・

老人    :おや、ハルコさん。
	  いったい、どうしたんじゃね。わしが、本を読んでる時には、
	  部屋に入ってこないようにと言っとるじゃろ。

ハルコ   :もう、いつも。こうなんだから。
	  おじいちゃんたら、本当に勝手!!


ハルコ怒りながら退場。


老人    :なにを、プンスカ言っとるんじゃ。あの女は、全く。
	  最近の、若い連中の考えることといったら・・・
	  おう、そうじゃ。本じゃ、本。
	  ここのところに書いてあるはずなんじゃ。


食い入るように本を読む老人。


老人    :う〜ん、わからん。
	  若い頃は、みんな、わかっとったはずなんじゃがのう。
	  どうしたもんやら、さっぱり頭に入ってこん。おかしいのう・・・
	  ここが、こうで。そこが、そうなってて、そんでもって、
	  それがピタリと...
	  はまらんか?やっぱり
	  本当に、わし、昔はわかっとったんかいな?
	  あれ、なんか自信がなくなってきた。
	  本当に、これが、わかってたことってあったんじゃろうか...
	  そう言えば、いつ頃からじゃったろう、こうして本を読み初めたのは、
	  初めは、確かに何にもわからんかった。
	  じゃが、芋虫がキャベツをまるごと一個食べ尽くすみたいにして、
	  一枚一枚綽々と読み進んでいくうちに、見つけたはずだったんじゃ。
	  なぜ、わしが、こうしてここにいるのか?
	  なんのために、本を読み続けねばならないのかを...
	  そして、その答えを確かなものにするために、わしは、本を読み続けた。
	  じゃが、それも遠い昔の話。
	  さらに、答えを探し続けて本を読み続けるうちに、いつしかわしは、
	  本を読むことそのものが楽しくなってしもうてた。
	  妻も娘も捨てて、わしはただ本を読み続けてた。
	  遠い昔の話の筈じゃて...
	  ん、おかしいな?そんなはずはないぞ、
	  だったら、息子の嫁のハルコさんて誰なんだ??
	  あれっっぇ、変じゃのう?これも誰かの本の中のお話じゃったかのう?
	  昔って、いつのことじゃ??
	  なんだか、無性に楽しいことがたくさんあったような、そうでないような...


遠くからサーカスのざわめきFI.


老人    :そうじゃ、あれは、いつだったろう。
	  町外れの空き地にサーカスのテントがやってきて
	  ハルオにせがまれて2人で、見物に行ったのは...


本棚、一枚ずつ回転し芸人達がトランプの絵札のようにぴたりと
はり付いた面が現われる。
客席より真黒な燕尾服にシルクハットの背の高い団長が
むちをならしながら登場。

	
団長    :しばらくぶりのご無沙汰で、またまた御当地にお邪魔致しましたるは、
	  「蕗の下大サーカス」に	御座ります。
	  御来場の紳士淑女の皆々様に良いこの坊ちゃん嬢ちゃんに。
	  今宵は、じっくりごろうじろ!
	  わがサーカスが誇りますキテレツ奇妙な道化どもに、
	  あやや恐ろしげなる猛獣達の繰り広げます
	  大スペクタクル・・・


団長の台詞に合わせて、静止していた役者達は一組づつ曲芸や火の輪潜りなど
持ち芸を披露し始める。


老人    :うん、確かにこんなことがあったはずだ。

団長    :可憐な美少女は、サーカスの花。空中ブランコに綱渡りの妙技。
	  日頃の憂さも、すべて忘れて、今宵限りの夢ごろうじろ!!


老人のかたわらに、いつの間にか少年が寄り添っている。
老人と少年の目の前で、繰り広げられるサーカス。


老人    :ほら、ポップコーンをこぼすんじゃない。

ハルオ   :うっわぁー。おとうさん、すごいねぇ。
	  どうしたら、あんなことできるんだろうねぇ。

老人    :うん、そりゃぁ。いっぱい練習するからさ。

ハルオ   :じゃ、僕も練習したら、あんなことできるの?

老人    :そうだなぁ、お前も一杯練習すればできるかも・・・
	  おいおい、じゃぁハルオは、大きくなったらサーカスに入りたいのか?

ハルオ   :うーんと、ワカンないけど。カッコいいじゃん!

老人    :うーん。カッコいいのかなぁ。
	  父さんは、ハルオには、一杯勉強して偉い人になってもらいたいけどなぁ。

ハルオ   :・・・あ、ほら!!父さん見てよ。

老人    :おう、ほう。すごいなぁ、全く。


団長    :さて、御来場の皆々様。これから始まりますは、世紀の大魔術。
	  人体消失の大魔法。
	  どなたか、お客様の中で、勇気のある方はおられませんか?
	  お手伝いして頂けますとありがたいのですが。

ハルオ   :はぁい!!ネ、父さんいいでしょ。

老人    :おい、お前なにも、おまえが行かなくても...

団長    :ホウ、これはなかなか勇気のある少年が現われました!
	  皆さん、拍手でお迎えください。
	  さあ、坊ちゃん。ようこそ、世紀の大魔術へ。では、こちらの箱にお入りください。
	  では、これより、この勇気のある少年を空中に消してごらんにいれます。
	  うまく行ったらご喝采。さあ、ワン、ツーのスリッ。


少年を箱から消す手品。


団長    :はぁい。見事に消えてなくなりました。拍手拍手!!
	
老人    :おい!息子をどうしたんだ!!

団長    :はい?なんのことでしょう?

老人    :何って、お前が消しちまった私の息子のことだよ。

団長    :息子さんって?一体なんのことです?

老人    :なんのことって、お前のいんちき手品のことだよ。

団長    :これは異なことを。私が、一体何をしたって言うんです?

老人    :お前達も見てただろ?
	  私の息子が舞台に上がるところを。


サーカスの団員達、一様に肩をすくめたり首を横に振ったりする。


団長    :なにかのお間違いじゃ、ございませんか?
	  ご覧のとおり、お子さんなんて誰も見ちゃいないんですよ。
	
老人    :そんな馬鹿な...
	  私は、確かに息子のハルオと一緒にここにきたんだぞ!!

団長    :お客さん、先程から息子がどうのとおっしゃってるようですが。
	  本当に、そんな方がおられるんですか?

老人    :なんだと!!どういうことだ!!

団長    :いえね、お客様に本当に息子さんがいたのかなぁって、
	  ちょっと不思議だったもんですから。

老人    :私は、確かに息子のハルオと一緒に...息子のハルオだって...

団長    :そう、息子さんの名前は本当にハルオさんでしたか?
	  ハルヒコさんじゃなかったですか?それとも、ハルゾウさんでしたっけ?

老人    :そうだ、私には息子はいない...

団長    :ね、私だって最初からないものを消すことなんて
	  できるわけがないでショ。

老人    :じゃぁ、さっきの子供は...一体誰なんだ?


サーカス一座、老人を無視して演技を続ける。茫然と立ち尽くす老人。


団長    :人の心と時の流れ。互いにままならぬ流れを越えて、
	  やってまいりました「蕗の下大サーカス」。
	  皆様方の、おかげを持ちまして、今宵も見事に満開の花を咲かすことができました。
	  さても、お開きの時間が近づきましたからには、とっておき。
	  グランフィナーレ
	  サーカス団員一同の、皆々様へのご挨拶!!


サーカス一座、カーテンコールに答えるように一人づつ礼をしながら舞台奥へ
踊りながら消えていく。


老人    :私は、一体。どうして...

団長    :さぁ、お前も一緒にくるんだろう?

老人    :え、なんで私が。

団長    :私は、どちらでもいいんだよ。さあ、どうするね?

老人    :私は...わたしは...わ.たし.は...わた..し...


捻子が切れた発条仕掛けの人形のように立ち尽くす老人。


団長    :ちぇっ、お前さんはいつもそうだ...


皮肉な一礼をして舞台奥へ走り去る団長。溶暗。
硬直したまま、真後ろへ倒れ込む老人。高笑いが、鳴り響く。
スポットライトの中で倒れている老人(以降Rとする。)
舞台は、暗闇のままで再び図書館に戻る。が、かなり荒れ果てた様子になっている。
本棚は傾き、数冊本が床に散らばったまま。舞台奥から紙屑が転がってくる。
それを追いかけてディズニーランドの清掃員のような白づくめの二人連れ登場。
テキパキとそこいらを片付け始めるが、小柄なほうの一人はあんまり熱心でない。


姫     :ねぇねぇねぇーったら。あたし、もう疲れた。
	  いつまで、こんなことやってるの?きりがないじゃない。

乳母    :おひいさま、そんなことおっしゃるもんじゃありませんよ。

姫     :あたし、もう嫌!!

乳母    :おひいさまったら。

姫     :だぁって、ちぃーっともきれいになんないじゃない!!
	  あたしたち、一体いつからこんなことやってると思うの?

乳母    :そうでございますねぇ...かれこれ気がついてから十年、
	  いえ二十年でしたかしら。

姫     :どっちでも、いいけど疲れた。

乳母    :おひいさま、私達Rが疲れるわけはないでしょ。

姫     :だあってえ...

乳母    :おひいさま! Rの三つのお約束をお忘れですか?

姫     :...

乳母    :一つRは、「ひと」の命令に従うこと!ほら、おひいさまもご一緒に。

姫     :ひとぉーつ、あーるは、人のめいれいにしたがうことぉ

乳母    :二つ、Rは、「ひと」を傷つけてはいけない。

姫     :ふたぁあーつ、あーるは...

乳母    :三つ、最初と二番目のお約束を守るかぎり、
	  Rは自分の身を守らなければならない。
	  どうされましたの?おひいさま?

姫     :だからって、どうしてあたしたちが、
	  こんなところのお掃除を続けなくちゃいけないわけ?

乳母    :おひいさま。お忘れですか?私達が目を覚したとき、
	  目の前の壁に張ってあった紙に書かれてたことを。

姫     :整理整頓!!

乳母    :そのとおり。整理整頓!!なんて美しいひびきでしょう。
	  私達Rの王族にふさわしい命令じゃありませんか。簡潔にして明快。

姫     :ばあや...

乳母    :私達は、整理整頓をするために作られたのです!!

姫     :ねぇ、ばあや。あたし前から気になって気になって、
	  でも聞けずにいたんだけど...

乳母    :はい?なんでございましょう?

姫     :あのね?その、なんて言うか。
	  その、整理整頓って本当にあたし達に与えられた命令だったのかしら?

乳母    :な、なんてことを!!

姫     :だってね。ひょっとしたら、
	  その整理整頓て言うのは別にあたし達への命令なんかじゃなくてね。


乳母、硬直し絶叫し始める。


乳母    :ちょーッ!!ちょーッ!!

姫     :ばあや!

乳母    :ちょーッ!!ちょーッ!!

姫     :しょうがないなぁ...論理回路が単純にできてるんだから...
	  Rの三原則!!一つRは、「ひと」の命令に従わねばならない。二つ。

乳母    :二つ、Rは、「ひと」を傷つけてはいけない。
	  三つ、最初と二番目のお約束を守るかぎり、
	  Rは自分の身を守らなければならない。どうされましたの?おひいさま?

姫     :しょうがないなぁ。ハルばあやは...

乳母    :さ、おひいさま!ここも、さっさと片付けてしまいましょ。

姫     :はいはい、整理整頓。整理整頓ね。あら、あれ何かしら。


再び、掃除を始める二人。が、床に倒れているRに気づく。
ばっと姫をかばうようにして前にでる乳母。


乳母    :近づいちゃだめです。

姫     :あれは、なぁに?あ、まさか、あの「ひと」?

乳母    :え、まぁ。どうしましょ。


慌てて、身繕いを始める二人。
そうっと、モップの柄で倒れたままのRを突いてみる。


姫     :どうしたのかしら、死んでるのかしら?

乳母    :まさか。そんな、やっと「ひと」にあえたと思ったのに...

姫     :そうよね、始めて「ひと」にあえたんですもんね。
	  なんとか、起きてもらって、
	  このくだらない命令を解除してもらわなきゃならないんですもの。
	  ちょっと、起きてください。ねぇってば。

R     :う、うーん。

乳母    :まぁ、生きてる。

姫     :起きてください!!「ひと」さま!!早く命令を!!

乳母    :あら、この「ひと」なんか変ですわよ。ほら、見てくださいな。
	 ここんところ私達と同じ格好してません?


ひょいと、Rを担いでたたせる乳母。Rが羽織ってる浴衣を脱がせると、
乳母達と同じような真白な衣装を来ていることがわかる。


姫     :本当。なぁんだ、「ひと」じゃないのか...

乳母    :まったくR騒がせな。ほれ、目を覚ますんだよ。


乳母、軽く二三度頬をびんた。殴る。


R     :うぅん。ったいなぁ..

姫     :あ、気がついた。

R     :あれ、ここは一体。どうしたんだ??

乳母    :ほれ、おひいさまに御挨拶しないかい!!

R     :は、おひいさま?

乳母    :じれったいねぇ、お前の前にいるのがそうだよ。

R     :はぁ...

姫     :そんなこと、どうでもいいから。
	  それより、あなた、一体どうしてこんなところにいるの?

R     :はぁ、それがその...

乳母    :ほら、知ってることがあるんだったらさっさと答えるんだよ!!

R     :はぁ、それが私にも何だか良くわからないんです。

乳母    :わからないってことがあるかい。
	  お前もRなんだろ、だったら誰かに何か命令を受けてるはずじゃないか!!

R     :あぁーる?命令って一体なんのことです?

姫     :だめよ、そんなに急に聞いたって。
	  ね、あなたもゆっくり思いだしてみて。

R     :はぁ、まぁ。その、ここは、一体何処何でしょう?
	  それに私は、一体誰何でしょうか?

姫     :え、あなた何もわからないの。

R     :はぁ、なんかこう頭ん中がもやーっとしてて...

乳母    :だめだわ、こいつメモリーが飛んでるわ。

姫     :ハル、どういうことなの。それは?

乳母    :ですからね、たまにあるらしいんですよ。
	  特に旧式のRの場合はね。強いショックを受けると
	  メモリーが壊れてしまって「ひと」で言うところの記憶喪失みたいなことに
	  なっちゃうってことが。

姫     :へぇ、じゃあこのR壊れちゃッてるの?

乳母    :さぁ、どうなんでじょう? あんた、どうなってんの?

R     :どうって言われても、そのぉ…

姫     :がっかりだなぁ、やっと『ひと』に逢えたと思ったのに…

R     :どうも、すいません。

乳母    :あんたに謝ってもらってもしょうがないじゃない。

R     :はぁ、でも、もやもやと何か引っかかるものはあるんですよね。

姫     :なに?何か思い出せそうなの?

R     :えぇ、おぼろげなんですけど…

乳母    :もったいぶってないで早くおっしゃい!!

R     :本当に、ぼんやりしてるんですけども…


舞台奥の本棚の真ん中が扉のように開く。手術台が迫り出してくる。
遠くから雷鳴が近づき、瞬間、闇に包まれる。燭台を握り締めた姫とR。
(暗くなった隙に乳母は、手術台に横たわる。)


R     :そう、丁度こんな嵐の夜だった様な気がします。


再び雷鳴轟く、Rに抱きつく姫。モンスター登場。


M     :博士!! いつまで俺を待たせる気だ!!


Mは、モンスター。姫は、エリザベートへ。Rは、フランケンシュタイン博士、
以降、それぞれエリ、博士と表記する。


博士    :博士だって??

M     :そうだよ。ビクトールフォンフランケンシュタイン男爵様。
	  またの名を俺様をこの世に生み出した世紀のマッドサイエンティスト、
	  フランケンシュタイン博士どの!

エリ    :何なの、この醜い生き物は?

博士    :こいつは、こいつは…

M     :く、はっははぁ。つれないなぁ、父上。
	  私の事は、お話しになっていなかったのですか。
	  そちらの婚約者の姫ぎみに早く、ご紹介願えませんか?
	  この、気違い博士どの!

エリ    :どう、いうことなのビクター?あの化け物は何を言ってるの?

博士    :あ、いや。こいつは…そう、あ、頭が痛い。

M     :何をとぼけてるんだ!!良く見ろ、
	  この俺の姿を、おまえが作り出した命の存りようを!!

博士    :そうだ…お前の言うとおりだ…お前は、お前を作ったのは、この私だ。


エリ気絶する。


M     :それより、俺の妻は、どうなってるんだ。

博士    :妻だって?


博士とモンスター手術台の上の、モンスターの妻となるべきモノを見つめる。


博士    :これを、私が作ってるというのか?

M     :博士、一体どうしちまったんだ?
	  俺を作るぐらいだから頭がおかしいってのは知ってたつもりだったが。
	  まさか、その年でぼけちまった訳じゃあるまいに。

博士    :そう、そうだ。おもいだしたぞ、たぶん、すべてを。
	  おぉ、なんて言うことだ…

M     :何をぶつぶつ言ってやがる。約束の刻限まで、もう時間はないんだぞ。

博士    :私は、一度ならずも二度までも、あなたに逆らおうとしています。
	  あぁ、許し賜え、神よ!!

M     :神だと!?ふざけるんじゃない!!

以下 未完

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