たつむりのじいさまのうちには、難しそうな本やら、
どこのものだかわからない地図やら何に使うのか
わからない道具やらとても不思議な匂いのするもので
一杯だった。
ぼくが、遊びにくといつでも楽しそうにいろんな話を
してくれる。

「そうさの、ほんの少し前までは、どこの国にも竜の
棲んでいる森だの洞窟だのといったものがあっての。
うん、もちろんこの国にもな...」
番上の兄さんは、
黒竜で誰よりも強くて大きな竜だった。
二番目の兄さんの白竜は、
どんな学者よりも賢くて物知りだった。
そして、末っ子の青竜は料理が得意だったんだ。
三匹の兄弟は、とても仲が良かったから大好きな
黒竜兄さんのお誕生日に青竜は、得意なケーキを焼く
ことにしたんだ。
んな訳で、青竜は朝早くから、
卵を割って泡立てて粉をふるって大張り切り。
台所中を粉だらけになりながら、ひらひらと
小さな羽で飛び回りながら、頑張ったんだ。
うやく、お昼も過ぎる頃になって青竜
ご自慢のチョコレートケーキが焼きあがった。
ほかほかと甘い匂いが台所中に広がってった。
「さぁ、あとは、こいつをさますだけ。」
青竜は、鼻をぴくぴくさせた。
「でも、ちょっと疲れたなぁ。今日は、朝から
  ずっと働きっぱなしだし...」
青竜は、可愛らしいエプロンをはずすと小さな
のびをした。外の日差しは暖かく、やさしい風が
フワフワと吹いてた。
「後片付けは、後でもいいか...」
まぶたが、ゆっくり近づいて青竜は、そのまま
眠ってしまった。
こへ、わしが、たまたま通りかかったのさ。
(あぁ、もちろん、わしのうんと若いころの話じゃぞ。)
いやぁ、青竜の棲んでおった森は、おいしい茸や
果物がたくさん取れたんでな。
わしも、その日は朝から出かけていたのさ。
そろそろ籠も一杯になって、どれ帰ろうかと思って
いると、どこからともなく、なんともいい匂いが
してきたんじゃ。
それで、ふらふらと誘われていくと...
の前にできたてのでっかいチョコレートケーキが
あったんだ。
こんなに大きいんだから、端の方がちょっとぐらい
欠けてもわからないだろう。腹ぺこだったわしは、
悪いとは思いながら、ついつい一口食べちまった。
うまかった。
生まれてこのかた、あんなにうまいケーキは、
食べたことがない。
わしは、われを忘れて夢中になって食べ続けてた。
が付いたときには、ケーキは穴だらけに
なっちまってた。
まずいなぁ、と思いながらひょいと後ろを振り返ると
そこには、目に涙を一杯に溜めた青竜がいたんじゃ。
しまったぁ。
どうしよう、黒竜たちがやってくるまで、もう
あんまり時間が無い。
新しいケーキを焼くこともできないし。
どうしよう...
竜は、しくしくと泣き続けていた。

その時、わしは、ひらめいたんじゃ。
わしの果物でジャムを作って、色とりどりの茸を
上に飾ってケーキの穴ぼこを埋めてしまおうってね。
初は、しょげ返っていた青竜もケーキが、
だんだんきれいになっていくのを見るうちに
何だかうれしくなってきた。
わしは、茸をぽいぽい飾り、青竜は、クリームを
ニュルニュル絞り...
今まで見た事もないほど見事な
デコレーションケーキが出来上がった!!
い月の光の中、わしと青竜がテラスで素敵な
チョコレートケーキを前にして待ってると、大きな
二人のお兄さん竜たちが飛んできた。

そして、皆で楽しいお茶会が始まった。
「これは、お前の作ったケーキの中でも一番の出来
  だねぇ。」
白竜が、細い目をいっそう細めている横で、
黒竜は、何も言わずにむしゃむしゃとケーキを
食べ続けていた。
わしも、それまでは竜が甘いものを好きだなんて、
これっぽっちも知らなかったけどね。

この後、わしらは夜がふけるまで、世界の秘密やら
魔法についてやら、いろんな話をしたんじゃ。
ゆげまで、おなか一杯になった頃、
「お誕生日おめでとう。」
白竜は、にっこり笑ってカップに手をかざした。
「これが、僕のプレゼントだよ。」
すると、不思議なことに皆のティーカップに
次から次へと星屑が飛び込んできた。
ぽわっと光るお茶は、薄甘くて何ともいえない
優しい香りがして、一口飲むと体がふわりと
浮き上がるような味がしたっけ...
こまで話したとき、かたつむりのじいさまは、
あつあつのお茶を僕のカップにそそいでくれて、
「ほら、お前の持ってるのが、その時に
  お土産にもらった竜のティーカップさ。」
ぼくが、カップの中をのぞくと、お茶の中を
ひらんと一つ星屑がながれた。
「さぁ、さめないうちにおあがり。」

じいさまは、にっこりと笑った。

FIN

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