このページは次の人たちに向けたものです。
私の目的は、これらの人たちが、マッキントッシュを使うことで、ギリシア語の研究・利用に苦労せずに、最新のソフトウェアを利用できるためのガイドを提供することです。
私が大学でギリシア語の演習を聴講し始めたとき、世の中にはまだコピー機というものすらそれほど発達しておらず、一枚あたり40円、拡大コピーだと80円という凶悪な値段がつけられていました。私たち(あまりギリシア語の出来なかった学生)は泣く泣く、行間を大きく開けてテキストをノートに写し、辞書を引いては単語の定義や活用などをいちいち書き込んでいました。一時間も考えて理解できなかった箇所が、結局写し間違いのせいだったという経験も何度もあります。
コピーが急速に普及して、手書きがコピー(最初は切り貼りして、後には拡大コピーで)にとって代わるようになって、ギリシア語を手で写すことはなくなりましたが、但し、自分の文章の中に引用したりするときは別です。まだその頃はワープロも普及しておらず、手書きギリシア語が嫌だな、って実感もありませんでした。
ワープロを使うようになったのはドクターコースに進学してからのこと。最初のワープロは40字×10行の(バックライトもない)液晶画面でした。ここで初めて、日本語とギリシア語を一つの文章の中で混在させる必要に迫られたのです。と言っても、可能な選択肢は一つしかありません。ギリシア語が入る箇所には適当にスペースを開けておいて、印刷した後で手書きやコピーでギリシア文字を挿入していくという方法です。
ワープロも二台目、三台目になるとギリシア文字を呼び出すことが出来るようになりましたが、一つの文字を呼び出すのに五つくらいキーを押さねばならず(正確なやり方はもう確かではないが、「ぎりしゃ」と入力してから変換キーを押し、押し続けているとギリシア文字が出てくるので数字で指定してやる、ってやり方だったような)、とても実用になるものではありません。私がワープロからパソコンに乗り換えたのは、ギリシア語と日本語が混在する文章を書きたい、というのが第一の目的でした。これは、WINDOWS95が出るまで、あるいは出てからもしばらくは唯一可能な選択肢でした。当時、ギリシア語に限らず、一般に英語以外の言語との多言語環境をスムーズに実現するにはマッキントッシュしかなかったのです。しかし現在では状況が異なります。マック自体のシェアがアメリカ・日本・フランス・イタリアを除き視力検査とあまり変わらない状況であることも手伝い、一般的に多言語環境のソフトとしてのマックの優位性は殆どなくなってしまいました。
でも、ギリシア語に関してはまだマックの方がやや有利かと思います。
当時マックにしたのはマックだと日希混在文書がそんなに難しくなく出来ると聞いていたからです。この情報を得たのは片山英男氏によるBerkowitz/SquitierのThesaurus Linguae Graecae: Canon of Greek Authors and Works (2nd ed., Oxford 1986)への書評で、『西洋古典学研究』40号に掲載されました。それによるとTLG(後述)というギリシア語のテキストデータベースソフトをマックだと自由に使えるらしい。時は1993年、漢字Talk 7なんてものが世に出だした頃ではなかったかしら。
Centris 650というのが私の購入した機械でした。この機械はその後数カ月で三分の一の値段になったような気がします。 私が日常的に使う限りにおいては、この機械で(遅いことを除けば)、そんなに不自由はなかったのですが、それ以降、Powerbook150(トラウマあり)、LC575(連れ合いの専用機)、Powermac7300(後にG3カード)、Powerbook 2400(後にG3カード)、IMAC DV(これも連れ合いの専用機)、PowerBook (Pismo)とマックばかり増えてゆきます。他方、Windows環境は一時Librettoの20と50を移動用に使っていたものの、キーの小ささと画面の見にくさに耐えられず、結局PB2400とか、もっと重いPismoをどこにゆくにも持ち歩くということになってしまいました。
現在、WindowsはPismo上でのSoftwindowsで使っています。
で、こういう偏見に基づいて「ギリシア語やるにはマックかWindowsか」という問いに答えるなら、「マック」になるのは目に見えています。とりあえず理由をば...
古典ギリシア語を表示するにはローマンスクリプトに準拠したギリシア語フォントを使いますが、どのフォントをどうやって使えば良いのか? いくつかの場合分けが必要です。
さて、マックもウィンドウズも、幾つかの専用のフリーフォント、幾つかの市販フォントがあります。(1) と(2) の場合、市販フォントを使う必要はありません。インターネットで後悔されている無料フォントで充分です。マックの場合、昔はKadmosフォントが一般的でしたが、いまこのフォントは入手しにくくなっています。この場合、マック/Windows両方のヴァージョンが出ているフォントが、互換性を考えるとややお奨めでしょう。Ismini、Mounce、SPIonicという三種類のフォントが、フリーフォントとして代表的なものです。Mounceは市販のLaserGreekフォント、SPIonicはウィンドウズ用のSGreekフォントと、ギリシア文字に関しては同じコード体系を使っていますので、その点で他のフォントよりもやや有利でしょう。
(3) の場合、つまり、より専門的にギリシアの研究をするとか、あるいはPerseusやTLGを利用してギリシア語文献を読んだり検索したりしたい場合、導入すべきフォントは異なってきます。マックの場合、Linguist's Softwareから出されているLaserGreekとSMK GreekkeysのGreekkeysの二種類のフォントのどちらか、出来たら両方を買わねばなりません。(Windowsの場合は、LaserGreekのWindows版もありますが、GreekKeys系のフォントと、Silvermountain Softwareから出ているSGreekというフォントが、後述するPerseusのサイトでギリシア語を表示するために用いられており、便利でしょう。なお、GreekKeysではAthenianだけはフリーで利用できますが、キー配列(キーボード)が同梱されていないので、書くためにはセットを購入しなければなりません。)
これらのフォントは、基本的にはASCIIコードのローマ字アルファベットに、音や形から連想が容易なギリシア語文字をあてはめているもので、フォントを変えれば普通のローマ字の表示になります。ギリシア文字は、ローマ字の別系とみなされているわけです。将来的には、マックもWindowsも、Unicodeによる表示に移って行くことになるだろうと思います。これは世界中の文字にすべて別のコードを与えようとする問題の多い、しかし実用的にはすでにある段階に達した試みで、マックであれウィンドウズであれ、パソコン処理の内部は既にUnicode化されています。しかし現状では、Unicodeの利用はギリシア研究ではまだ一般的になっていません。
マックの二系統のフォント、SuperGreek系とSMK Greekkeys系のフォントは、いずれも想像がつきやすいキーにギリシア文字を配置しています。アルファベットの割り当ては一部で若干異なっていて、θξχψωはそれぞれSuperGreek系だとq, x, c, y, w、SMK Greekkeys系だとy, j, x, c, vになります。
より重要な違いはアクセントや気息記号つき文字の表記にあります。ここには二つの方式があります。
打ちやすいのは重ね打ち方式ですが、ポイントが大きくなると記号と文字の大きさの比率に問題が出るように思われます。美的な見地からは組み合わせ方式でない方がすぐれているでしょう。
さて、マックでは、古の「一太郎5」を除くすべての現行ワープロソフトは問題なくギリシア入り日本語文書、あるいはロシア語や現代ギリシア語も混在した文書を作ることが出来ますが、ワープロソフトを利用しなくても、多くのテキストエディタでマルチフォントの多言語文書が作成できます(これをスタイルつきテキストと呼びます)。ただ文書を書くためならテキストエディタが良い。それを印刷する必要が出来たときになって初めて、ワープロにその内容を流し込めば良いのです。ワープロよりもテキスト書類で保存することの利点は大まかに言って次の二点です。(1) ワープロだとシャーロックの「内容による検索」(OS8以上)に対応していないものもある。(2) ソフト依存が少ない。スタイルつきテキストを扱うことの出来るエディタは多く、それらは同じTextEngineを使っているため、互換性があります。例えばNuEditでつくった書類をJeditやTex-Edit Plusなどで開いてもスタイル・フォント情報は維持されます。たとえばMac版WordPerfectがなくなったことによって、WordPerfectで作った書類は早晩造り直さねばならなくなりましたが、このような時の手間はテキスト書類だと殆どかかりません。(3) 軽くてバグが少ない。
ワープロは、形を整えて印刷する用途にだけ使うべきものでしょう。Styleなど、ワープロ形式での保存の選択肢を持っているエディタがこの点では便利ですが、長大なものでなければ、コピーペーストやドラッグアンドドロップで写せば良いと思います。スタイルつきテキストのコピーペーストに対応していないワープロも最近は殆どなくなりました。
インターネットで日本語とギリシア語の混在した文章を掲示するにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは二つの方法を紹介します。第一がHTML文書でギリシア語を表示するための方法。第二はPDFを利用する方法です。
HTMLを利用する場合、HTML書類を作るときに使ったのと同じコードのギリシア語フォントが、閲覧者のパソコンにもインストールされている必要があります。ただし、全く同じフォントである必要はありません。ここで紹介する三つの方法を使えば、マック版のNetscape4xとWindows版のInternet Explorer5で、ギリシア語表示が可能ですが、マック版のIE、Windows版のNetscapeでは上手くゆかないようです(より普遍的なのはPDFを利用する方法ですが、これは後述)。どの場合にも、読む人のパソコンにフォントをインストールしてもらうために、次のような断わり書きを入れておきます。
「このページには古代ギリシア語が使われていますので、SuperGreek、Graeca、Mounceのどれかのフォントがインストールされていないと、適切に表示されません。Mounceのダウンロードはこちらから)。フォントが解凍されましたら、システムフォルダに放り込んで、このページをリロードして下さい。再起動する必要はありません。」
この方法の便利なところは、利用者がその後もギリシア語フォントを利用できること、Netscape Communicatorを再起動しなくても、ページをreloadするだけでギリシア文字が反映されることです。(フォントをインストールするとき、「新しいフォントは現在使用中のアプリケーションでは一旦終了させない限り反映されません」というダイアログが出ますが、気にしなくて良いです。リロードすれば反映されます。ただし、ネットスケープの初期設定で、「ページで指定されたフォントを使う」という項目がチェックされてなければなりません。
また、ダウンロードしたMounceフォントは、ギリシア文字に関しては(若干の特殊な文字は除いて)、LOW ASCIIで、なおかつSuperGreek系と共通のコードを使っていますから、オプションキーと組み合わせることなく、普通のギリシア文は記入できます。使い勝手も悪くありません。
第一は<Font
Face>タグを用いるやり方です。HTMLを書くときには、ギリシア語のフォントとして、SuperGreek系のMounceをFONT
FACEタグで指定します。勿論、SuperGreek
系の(よりきれいな)フォントで見てもらうために、Font
FaceタグにはGraecaやSuperGreekも書き加えておいた方が良いでしょう。たとえば、
<FONT FACE="Mounce,SuperGreek,Graeca">Mh'nin a[eide qea;
Phlhi>avdew ニAcilh'o"</FONT>と記入します。
見てもらう人のマックにこれら三つのフォントのどれかがインストールされていれば、この表記は、次のように、ギリシア文字に見えるはずです。ただし、上の例だとMounceは分離記号(¨)を表わすために>を用いていますから、この特殊記号をhtmlの表記(>)で置き換えてやらねばなりません。その結果は次のようになるはずです。
Mh'nin a[eide qea;
Phlhi>avdew ニAcilh'o"
ギリシア語混在のホームページを見てもらうには、他にDisplayGreekというJavaアプレットを使う方法、Dynamic Fontを使う方法があります。これらの方法は、読む人のパソコンにギリシア語フォントが存在しなくても表示を可能にするという点では便利ですが、ソースで保存したとき、保存してもらったそのページを開く度に電話をつないでファイルを見に行くか、あるいはギリシア語情報が消えてしまうという欠点があります。
もし、混在ページの目的が論文やコメンタリーなど、比較的長く、オフラインで読んで欲しい文章であれば、Mounceフォントを使ったやりかたの方が結局は便利なのではないでしょうか。注
Dynamic Fontを利用する方法は、それぞれ、やり方が説明されているページのリンクに留めておきます(次節参照)。
注 Internet Explorer for Macintosh では、一部のフォントを除いて<FONT FACE>タグを解釈しないようになりましたので、日本語と古典ギリシア語の混在は出来ません。Windowsでは出来るという話もあり、よく分かりません(99/04/12追記)が、読み手に負担をかけないと言う観点からは、DisplayGreekを利用する方が良いかも知れません。Dynamic Fontは、サーバにファイルを自由に落とせる環境でないと出来ないような気がするので(良く理解していない)、ちょっと試せずにいます。
DisplayGreekは、βコードで記述されたギリシア語テキストをイメージに変換するためのJavaアプレットです。ホームページの作り手は、http://www.java.utoronto.caにあるJavaアプレットを参照するリンクを貼り、そこで指定された方法でページを書いて行けば、別にギリシア語フォントを持たなくても、表、見出し、インラインの文章など、任意の混在文書を作ることが出来ます。この場合、ギリシア文字はイメージになるのに加えて、トロント大のサイトまでアプレットを参照に行きますので、ややページのダウンロードに時間がかかるのと、保存したときにギリシア文字情報が消えてしまうのが欠点です。詳しい情報はこちらから。
Dynamic Fontとは、ホームページの作る側のシステムにあるフォントを、読む側が利用できる方法です。作る側はサーバー上にfont definition fileを作成し、フォント情報はその中に含まれています。ホームページ上では、これも指定された方法でfont definition fileへのリンクを貼っておきます。すると、読み手のブラウザ上に、そのフォントで書かれた文章がそのまま表示されます。当該ページは、それがキャッシュに保存されている限りは、フォント情報を失いませんが、読み手は、そのページを超えてフォントを利用することは出来ません。詳しい情報はこちらから。
ここもかなり詳しくなりましたのでPerseus2.0活用法(マックでギリシア語4)にまとめました。そちらをご参照下さい。
Perseusは非常に優れたデータベースですが、現段階では、古典期に限ったとしてもすべての文献を網羅しているわけではありません。しかし、そのmorphologyツールや辞書は、かなり制約はあるのですが、正しく入力すればPerseusにない文献の単語でも調べてくれます。あなたがなすべきは、ただ単語をPerseusの入力欄に正しく書き入れることだけです。
でも、せっかくマックでギリシア語を扱うのだから、テキストそのものをマックに写して、自由に利用したいと思われるかも知れません。そして、ギリシア語のE-Textを自由に読みたい、そうした時に役立つのが(牛刀で鶏を断つことになりますが)、TLG (Thesaurus Linguae Graecae)という古代ギリシア語のテキストデータベースです。
TLGは現在の所、ホメロスから紀元後6世紀までの古代のギリシア語テキストのうち約850人、450MBのテキストを集めたテキストデータベースです。次のヴァージョンではこの時代のすべてのギリシア語の文献を集めたものになる予定です。世界中のどの図書館でも、TLGの文献をすべて所蔵しているところはおそらくないでしょう。これはCD-ROMの形で提供されており、適当な検索ソフトがあれば、その中の任意の文献を表示し、あるいは自由に検索することが出来ます。TLGはコンパクトディスクに収められたアレクサンドリア図書館です。(アレクサンドリア図書館は一世紀には破壊されていますから、TLGの方が規模が大きいことになるかも知れません。)
で、このデータベースをギリシア語を読むという目的のために使い、Perseusの便利なツールを利用して行くためには、Pandoraという検索ソフトを使えば良いだけです。Pandoraはハイパーカードを利用したTLGブラウズ・検索のソフトで、ギリシア語の表示用に、SuperGreek系のフォントとSMK Greekkeys系のフォントを選択できます。そこで後者を選べば、Perseusのツールと(どちらもハイパーカードのスタックなので)シームレスに連携させることが出来ます。TLGとの連関についてもPerseus2.0活用法(マックでギリシア語4)をご覧下さい。
英訳を入手することもギリシア語を読むためには有用かも知れません。あなたがすでにPerseusを持っているなら、そこの文献については英訳がありますのでそれを使えば良いだけです。それ以外の文献は、インターネットで捜すのが良いでしょう。Athenaのページで捜してみましょう。
(詳しくは、「マックで電子辞書」をご覧下さい。)
さて、これらのツールは、辞書にしろ翻訳にしろ、すべて英語に翻訳することを目的としたものです。英語に分からないところがあって、そこで紙の辞書を見るのならば、こうしたツールの役割は随分落ちてしまうでしょう。どうせなら、英語の辞書を引くのもマックを使おうではありませんか。 そのために必要なのは、電子ブックの英和辞典と、フリーウェア・シェアウェアとして提供されている電子ブックリーダーソフトです。英和辞典は何種類も出ており、リーダーズ英和+リーダーズ英和プラス(一冊の電子ブックとして供給)、研究社新英和・和英、ジーニアス英和など、紙の辞書としても非常に優秀なものが揃っています。一冊ならばリーダーズ+プラスでしょう。使い方は非常に簡単で、今まで紙の辞書を使っていたのが嘘のように思えるでしょう。 英英辞典を使うのならば、OED、Random House, Collegeate Webseterを始め、多くの辞書がかなり安価で提供されています。一度輸入CD-ROM店でご覧になればいかがでしょうか?
これまで紹介したソフトは、多くがCDで利用するようになっています。でも、大抵のパソコンにはCD-ROMドライブは一つしかついていません。どうしたら良いのでしょうか? 一つの解決策は連奏CDを使うことです。でもこれは推薦できません。連奏CDドライブは、どうしても、CDを切り替えるのにある程度の時間がかかり、無用なストレスが生じます。むしろ、大容量HDを購入することを強くお奨めします。HDへの複写は検索速度の向上のためにも非常に有効です。 Perseus2.0はハード・ディスクに辞書やツール、テキストをハードディスクにコピーして使うことが出来ます。電子ブックも、「書見台」や「CeDar」など、優秀なフリーウェア・シェアウェアを使うなら、HDにコピーしたうえで利用出来ます。TLGをPandoraで使う場合のように、単純にコピーしただけではソフトがデータベースを認識してくれない場合でも、たいていの場合、ShrinkWrapというフリーソフトを使ってCDのイメージディスクをHD上に作ることが出来、これを利用すればCD-ROMドライブを使わずに上記のソフトを利用することが出来ます。さらに、市販のソフトになりますが、DiskDoublerなどを用いてそれを圧縮すれば、上記のツールすべて合わせても1GBのHDの中に収まってしまうでしょう。
ただし、自分の所有していないCD-ROMを著作権者の了解なしにコピーするのが違法であることは言うまでもありません。CDのHDへのコピーは、スピードアップのために行なうのだということを忘れないで下さい。