iPhoneと電子辞書(英独仏ギリシアラテン)

雑誌論文は可能な限りPDFヴァージョンを入手するようにしたり、長めの文献は大体コピーしてスキャナで取り込んで自動的にPDF化してから読むようになって久しい(最初がちょっと面倒だけれど、常に数百の論文をノートパソコンに入れておけること、Google Desktopと組み合わせることで高速の検索が可能になることが大きな利点だ)し、その場合、ノートパソコン用のJammingなどの電子辞書ソフト(EPWING対応のものなど、十個くらいの辞書が入っている)、露英辞典、LSJ、Lewis-Shortなど、必要なものはほぼ網羅されているので、紙の辞書を繰ることが少なくなった(イタリア語、ロシア語は紙の辞書が大事だが、どちらもそんなに読めない)。

しかし、紙の文献を全く読まない訳にはいかず、そのときのために電子辞書をずっと買っていた。一番新しいものはバックライトに対応して、独和大辞典が入ったExword GP7150 だが、お世辞にも使い勝手が良いとは言いがたい。キーボードの押しにくさ、液晶の見にくさ、ボタンを押さないと(手前液晶を押さないと)用例が開かないなど、これで電子辞書として読む役に立つのかなぁととても疑問だ。最悪なのが、別売で入れた露和辞典の文字を入力するにはキーが足りないことで、まあ、これは露和メインの辞書を買ってドイツ語を追加するのでないと無理なのかも知れない。(記号キーから入力したり手書き入力したりで対応はしている)さらに言うと、ロシア語のキー配列がロシア式のものしかないのもちょっと理解できない。キーから文字が想像すら出来ない。せめてRussian ASDFを入れておいて欲しかった。(ロシア語対応版にドイツ語の辞書の追加をした方がましだったかも知れないなぁ。その場合は、キートップにロシア文字が入っているだろうから。←独和大辞典は追加辞書の形では売られていないのでそれは不可能だった)。

それにしても電子辞書の液晶は本当に眼を悪くしそうで学生が使っていると心配になってしまう。また、学習の場合もあるいは単に意味を調べる場合も訳語と同じくらい用例が大切なのに、用例を最初から表示しなかったり、成語に関しては、成語という箇所を押さないと表示しなかったりで、とても使い勝手が悪く、それに値段が馬鹿高い。やはり携帯出来る辞書は文献を読むのにつかえるものではないと思っていた。

iPhoneを買ってこれが大きく変わった。

iPhoneはアプリケーションを追加できる機能があって、アプリの中にはあちこちのニュースもあれば新聞もあり、(英語を学ぶなら多くのニュースやバラエティ番組とNew York Timesが、フランスならば、Radio France、France 24 Live、などの音声・画像番組とLe Monde)がある。学習ソフトもいろいろあるみたいだけれど、それは今は省く。

それとともに、辞書ソフトが豊富だ。英語だとODE (Oxford Dictionary of English)をはじめとする英英辞典、ロングマンやジーニアスの学習英和があり、フランス語にはプチ・ロワイヤルがある。これらは結構値段が張るが、iPhone自体が今は只みたいなものだし、日本の電子辞書の相場からするとそれほど高くないように思う(「全部の」せと比べると高いかも知れないが、あのほとんどは不要なものだ)。

それよりも驚嘆するのは、EPWINGおよびEB(電子ブック)形式の辞書をiPhone内部に取り込んで利用できるiDic (600円)だ。iPhone内部への辞書の保存方法など、やや敷居が高い側面は否めないが、それにしても一時間もかけずにパソコン用のEPWING辞書をiPhoneに取り込むことが出来る。iPhone自体の改造(いわゆるjailbreak)は必要なく、ソフトは(ここであげているのは全て、iPhoneないしパソコンのiTunesから検索して容易にダウンロードできる)。設定や使い方もそれほど難しくはない。辞書は幾つでも追加可能で、一つの辞書を調べることも、複数の辞書を一度に調べることもできる。(赤字は追加部分。以下同様)

残念ながら、EPWING対応の辞書は現在では一時期ほど販売されていないしEB(電子ブック)はもう過去のものだが、それでも研究社の新英和大辞典など若干の英和・和英があり、ロワイヤル仏和も、EPWING仕様で出ている。また、クラウン独和など、幾つかのパソコン用電子辞書はEPWINGへの変換スクリプトが公開されていて、Windows環境であればわりと簡単にEPWINGに変換できるようだ。(たとえばリーダーズの検索画面と検索結果はこのようになる。)

iDicは、EPWINGに変換できる辞書さえあればiPhoneの電子辞書機能を幾らでも拡張できるのが素晴らしい。問題は、EPWING化出来る辞書がそんなにないことで、例えばEx-Wordの売りになっている小学館の大独和・大仏和、コンサイス露和はそもそもどのような形でもパソコン用の辞書が売られていない。読みにくいカシオ版を四万円も出して買うしか入手する方法がないし、壊れたらそれまでだ。これはかなり驚くべきことだと思う。また、辞書によってはiDicでうまく検索できないものもある。うちの環境ではジーニアスの大英和がそうだった。

辞書の設定としては、(1)逐次検索を使用、(2)検索場面へと切り替えた場合に、前の単語を自動的に消去、(3)検索画面で、出来るだけキーボードを表示しようとする、(4)逐次検索結果で右側に索引を表示する、(5)検索結果表示の画面を使用しないの五つの項目をonにしておくと、使いやすいと思う(辞書表示までのステップが少なく、入力が簡単)。また、EPWING専用の圧縮ソフトWINEBZIPで圧縮したファイルも使うことが出来る。

EPWING辞書アプリに加えて、ここで紹介する値打ちがあるな、と思うのは、ラテン語辞典とギリシア語辞典の方だ。

どちらも、既に著作権が切れた辞書データを用いており、ラテン語はLewis-Shortの大きな辞書、ギリシア語はLiddell-Scottの完全版、但し著作権保護の切れた1924年版である。勿論ソフトを作っているので無料とは行かずそれぞれ、230円と350円を払わねばならないが、それにしてもこれら二つの辞書がiPhoneで利用できてしまうは驚きと言うほかない。(当初abridgedのLiddell-Scottだと書いていた。見直したら、下のイメージからも分かるようにunabridgedだった。インストールサイズがLewis-Shortに比べて小さいので誤解してしまった。)

これらのアプリはiPod touchでも動く。iPodと電子辞書を買うのならば、どうせ大学でパソコンは必要になるわけだし、必要な辞書はEPWINGでそろえて(あるいはそれに変換出来る形式でそろえて)、iPhoneないしiPod touchを電子辞書として活用してみてはどうだろうか。iPod、携帯、電子辞書という文学部生必携の道具が一つのおもちゃみたいな道具で揃うのは感動的にも思える。(下はAbridged Liddell-Scottの入力画面と辞書画面)。iPhoneの文字は文句なしに美しいが、このページでは画像の質を落としている。