文学座『崩れたバランス』

文学座年末の稽古場上演。『赤旗』の劇評はこちら。

作品は幾つかの世界に分かれている。主人公のヤンたちが劇作家パウルの新作を稽古している劇作品中の現実世界、その劇中劇の世界、テレビドラマの世界が直ちに区別がつくが、それ以外にも、現実世界との関わりがやや不明な幾つかの層がある。それらに共通するのがクリスマス、零下三十度以上のあり得ない寒さであり、心を蝕む孤独だ。

パウルはゲイの恋人に決定的に別れを告げられ、クリスマスを誰かと過ごすために、ネットで新しい男を捜す。このゲイロメオに馬鹿にされて、彼を殺してしまう。ヤンは子供を寒さの中、空港に待たせたまま、引きこもりの「少年」役の稽古をしているが、稽古はまるで現実から逃避するための手段であるかのようだ。

多世界性とそれを貫く孤独、どちらに焦点を当てるのか、もちろん孤独の方だと思うのだけれど、演出の判断は「多世界性」で、どの世界がリアルなのかを分からないように観客に提示したかったようだ。それが面白いと思えるのは、「新劇」の罠にはまっている証拠のように思われる。多世界性を強調した上演が、客席を対面式にしてその間を演技空間にすると言う判断なのだけれど、それって「多世界性」って概念で遊んでいるだけだし、劇世界とは殆ど関係がないものになった。リアリズムを外すことはそれだけではもはや何のメッセージにもならないのに。