『チャイナ・シンドローム』と『エクスペンダブルズ』

久しぶりに『チャイナ・シンドローム』を見た。公開当初に大毎地下という二本立ての(所謂名画座系)映画館で観たような記憶がある。場所は違ったかも知れない。

お、音楽がない。これは良い。アップの切替、俳優の表情だけで良くここまで緊張感を保てるなぁ。ものすごくお金がかかった設備を舞台にしているのに、ものすごく低予算の映画に見える。ある程度金のかかったセットは管制室だけだ。スイッチ操作に応じて制御棒が挿入されるとか、放水されるとかのシーンがカットインすることもなく、ただ小さな水流の音(ちょっとリアルでないように見えた)と計器の表示だけで人が大騒ぎしている。それがすべて+に働いているのがすごい。唯一、最後の非常停止の後で格納容器につながっている機械が倒れるのだけれど(排水管かしら)、そこに重量感が欠けていて、倒れた機械自体が折れたり割れたりしないのがマイナス。

原発でのインタビューで、キンバリーの表情だけ後で撮り直すってシーンがあって、この辺はこの映画の撮り方のセルフパロディなんだろう。

今回、見直したきっかけはこのページ。「メルトダウン」という言葉をめぐる阪大の菊池誠教授と音楽評論家・制作者の高橋健太郎氏の対話。

そこでの菊池教授の「 「チャイナシンドローム」は1979年公開です。「シンドローム」という言葉を一般的にしたのもこれ。僕は、メルトダウンというのは、臨界を止められなくなった原子炉が地面を融かしながら落ちていくことだとずっと思っていましたよ」という言葉に何となく違和感を持った。『チャイナ・シンドローム』ってそう言う映画だったっけ?勿論、『チャイナ・シンドローム』でチャイナシンドロームは実際には起きていないんだけれど、チャイナシンドロームでのメルトダウンが「臨界を止められなくなった原子炉が云々」なら、軽水炉を扱った『チャイナ・シンドローム』でチャイナシンドロームが起きそうだったという設定は出鱈目ってことになる。ゴジラが放射能を吐くのと同レベルの映画なんだろうか。

ぜーんぜん、違ったよ。

ストーリーはWikipediaに任せるとして、この映画の中では再臨界の話なんか一言も出てこない。ジェーン・フォンダ演じるテレビキャスターのキンバリーとカメラマンのリチャード・アダムス(マイケル・ダグラス)が管制室の一般見学室で取材をしている時、弱い震動を感じる。「地震?」、その震動はすぐおさまったが、原子炉のturbine trip(タービン停止)に続いてReactor Scram(炉心停止と訳されている)が起きる。そこまではノーマル(らしい)。"Okay, we're off the line"って台詞があり、正常に戻す作業を始めようとしたとき、管制室長のゴデル(ジャック・レモン)は机においたコーヒーの表面が僅かに震動していることに気づく。何かおかしい。それから循環ポンプを止めたり注水をチェックしたりしていると、炉内水位が上がりすぎていることに気づく。慌てて排水。ところがこれは計器異常で、実際には水位は下がっていた。で、排水したものだから、炉心が露出したかもになる。We may have uncoverd the core! (レモン)。低圧注水装置がなんとか働き、その場の危機は回避される。ここからなんで、メルトダウンが「臨界継続による炉心溶融という意味 」になるのか全くわからない。当時の宣伝ではそうだった、と言うけれどその根拠は「当時子供だった私の印象」でしかないのだから驚き。

ちなみに、チャイナシンドロームの言葉が出てくる場面は次のような状況。原発事故の状況を隠し撮りした彼らの映像は没になり、アダムスは、フィルムを勝手に持ち出して反原発系の学者のところに持ってゆく。キンバリーもそこに行くと、学者は次のように説明する。

学者(1) They might have come close to exposing the core. (炉心露出になってたかもね)
学者(2) If that's true, then we came very close to the China Syndrome.(とすると、チャイナシンドローム寸前だったな)
キンバリー The what?(チャイナ何?)
学者(2) If the core is exposed for whatever reason, the fuel heats beyond core heat tolerance in a matter of minutes. Nothing can stop it. It melts right down through the bottom of the plant, theoretically China, but of course, as soon as it hits groundwater, it blasts into the atmosphere and sends out clouds of radioactivity. The number of people killed would depend on which way the wind is blowing. Render an area the size of Pennnsylvania permanently uninhabitable, not to mention the cancer that would show up later.(炉心が露出すると、露出の理由がなんであるにせよさ、燃料は炉心のヒートトレランス(訳し方がわからない 耐熱限界?)を一時間もかからずにオーバーしてしまう。何もそれを止められない。炉心はすぐに融け落ちてプラントの底まで突き抜けてしまう。理論的にはチャイナまで、ね。でも、勿論、地下水にぶち当たると、それは大気中に爆発的に飛び散って、放射能雲をまき散らす。死んでしまう人の数は風向きによる。後でガンが起きるのは勿論、ペンシルバニア州サイズの範囲が永遠に住めなくなる。)

映画ではチャイナシンドロームはきちんと定義されている。理由は問わず、炉心が露出して、融け落ちて建屋の底まで突き抜けることだ。melt down through メルト・ダウン+メルト・スルーだな。今回の事故と同じ(みたい(54歳文系))だ。

まあ、映画の実際はともかく、「子供だった僕の印象では宣伝では臨界継続に限定していたんだい!(49歳男性)」って言えばそれは主観的な発言だから間違いではないだろう。恥ずかしい主張だとは思うけれど。でも、チャイナ・シンドローム世代は多分正しく、「理由が何であれfor whatever reason」と思っていた、というか、この映画を見て、「reactor scramがあったらmelt down ないしChina Syndromeはない」って思う人はいないと思う。映画のプロットの正反対だもの。

さて、一緒に借りて観たもう一本は『エクスペンダブルズ』、金のためにアメリカ政府の御用を務めてきた傭兵が無料でエア御用になる映画だ。政府(ウィリス)の依頼で小国の独裁者と、彼を操る元CIAを抹殺しようとしたスタローンは、一旦は仕事を断るものの、その島でもとCIAに酷い目にあわされる若い女性のために、単身島に乗り込む決意をする。しかし彼の仲間たち、ジェット・リー、ジェイソン・ステイサム(トランスポーターの人)、ランディ・クートゥア(格闘技の人)、テリー・クルーズ(アメフトの人)も、彼とともに危険な島に乗り込んで行く。

プロットが幾つか破綻している(変に捻った)のと、解説を読むまで知らなかった内輪ネタが山ほどあるのが私には敷居が高すぎた。アクションも含め少しずつカットが長い。息を呑むようなぞっとするシーン(たとえば『ランボー』の木に向かって飛び降りる場面のような)がないのも辛い。クートゥアの役はキャラがたっておらず余計なように見える(一本の映画で善人側に坊主頭三人は辛い)し、ウィリス、シュワの使い方は広告と比べると詐欺に近い(予想通りだけれど)。彼らのやったことはこの将軍の比ではない大残虐行為のような気もするが、火薬がいっぱいで面白かった。悪の側に寝返ったドルフ・ラングレンを含め、エクスペンダブルズの高ギャラメンバーは誰一人死なないだろうなぁと言う安心感も良い。エクスペンダブルなのは端役ばっかり。