楷書の『三文オペラ』 俳優座

演出:安井武  訳:千田是也
キャスト: ピーチャム/可知靖之、マックヒース/武正忠明、ポリー/森尾舞、ブラウン/川井康弘

あまり期待せずに行った。俳優座がこの芝居をきちんとした形で日本に紹介してから40 年ぶりに再演に挑む『三文オペラ』らしい。で、公園前にパンフレットを買って、岩淵達治の嫌みったらしい解説文を読んで観る前にうんざり。まあ、中身は黒テントヴァージョンへの当てこすりだが、この人は三文オペラを語るときに黒テントヴァージョンを批判しないわけにはいかないようだ。それはそれで良いんだけれど、名指さない当てこすりは困ったものだ。それで中身の見当は大体ついてしまう。

で、中身は一点一画をもゆるがせにしない、きちんと上演しました本流の三文オペラです風。なにせ、「演出にあたる安井は前回、助手として舞台裏をつぶさに見ている。出演者の中で前回も出ていたのは、可知と松野健一。可知は「三文オペラ」再演を期してこつこつ訳詞を進めていて、今回、演出協力も担う(毎日新聞)」ことが売りになるのだ。マクヒースに色気がなくポリーの歌が弱いことを除けば、意外に楽しめました。訳は千田是也なのでやや古めかしいが、ある程度現代風に書き直している。歌詞も随分縮めているようだが、多分岩淵氏の「許容範囲」なのだろう。変にアクセントのついた長音が目立つのはすこし耳障りだ。階段を両脇においた二層舞台を生かして、テンポの良い場面転換を行っているのは気持ちがよい。

こういう楷書の『三文オペラ』も時には良いものだ。特に黒テント版が「悲惨」と言っても良いほどだった後なので安心できた。

でも、特にブレヒトの中でも、『三文オペラ』は、もっと弄りたい、ブレヒト自身があまり気にしていなかった著作権のことはちょっと脇に置いてでも遊びたい、という欲望をかき立てる芝居なんだと思う。ロックを噛ませたり、戦後焼け跡を舞台にしたり、江戸末期にしたり、ウィリアムの即位(チャールズは王位を辞退)の時期にしたりして、一旦ずらし、自分たちの時代感覚に合わせて作り直そうと考えるのを促すのではないか。そういう意味で、これは単なる良くできた芝居ではなく、時代や人物設定を変えない場合でも、その種の芝居の快楽とは別の快楽を観客も期待しているのだと思う。その点では得るところがなかった。でも、楽しかったからまあいいか。