Iphigenia
The Workshop Theatre Company

作 P. Seth Bauer
演出 Elysa Marden
Agamemnon/ Myrmidon: Mark Hofmaier
Old Man/ Myrmidon: Katherine Freedman
Chalcus/ Iphigenia: Pauline Tully
Menelaos/ Myrmidon: Greg Skura
Odysseus/ Messenger: Shamika Cotton
Woman: Carrie Edel
Clytemnestra: Marinell Madden
Achilles: Brian Christopher
コーラスは上記カンパニーのメンバーが仮面を付けて演じる。

The Workshop Thetreはニューヨークの西34丁目にある劇場。小さなビルの四階を占め、60席ほどの客席しかないミニ・シアター。こうした劇場や劇団が成立していることに、ニューヨークが演劇を育てる文化を持っていることを改めて感じさせる。

エウリピデスの『アウリスのイフィゲネイア』を上演しようとバウアーとセスがプランを練り始めたのは去年の八月で、既訳をいろいろ参考にしていたが、結局全く新しくテキストを作り直すことにした。できあがったテキストは、完全に現代口語で、分かりやすい英語になった。テレビ・コメディの会話に近い文体のテキストだと思う。実際、ミュルミドン人たち(手人形で演じられる)の会話、彼らとアキレウスの会話はコミックのようだし、イフィゲネイアに会ったときのアキレウスの台詞"Tough day (客は笑う)"もテレビコメディ風だ。衣装や演技スタイルも、目から鼻までの仮面をつけたコロス、操り人形を思わせる仮面と動きのカルカスを除きモダンで日常的だ。小さな舞台だしそれほど名を挙げた役者が出ているわけではないのに演技がしっかりしているのに驚いた。安心して観ていられる。

ストーリーや各場面はほとんどエウリピデスと違いはないが、オデュッセウスやカルキスを登場させ、コロスを兵士と女たちに分けたのが趣向としては面白い(ギリシア国立劇場の2002年の上演でもコロスを二つに分けていた。この芝居はやはり兵士を登場させたほうが対立が先鋭化して引き締まる)。

イフィゲネイアの変心は、古来エートスの一貫性のなさとして批判されているところだが、それをこの上演では、彼女が絶望のあまり、いずれ避けがたい自分の死に意味を見いだそうとしているのだととらえる。クリュタイムネストラは兵士たちに直接訴えるが、誰も彼女の味方にはならない。アキレウスは自分の率いるミュルミドン兵を従わせることすら出来ない。この状況の中、イフィゲニアは愛国主義的な狂気に身を委ねるしかない。ここでは直接、結婚を前に自爆テロを行ったパレスティナのSuicide Bomberの少女のイメージがエコーしているし、バグダッドに迫りつつある現在のアメリカの状況にも呼応するものがある。

もう一つこの場面で印象的なのは、自らの死が不可避だと考え、死を覚悟する場面のイフィゲネイアとアキレウスのやりとり。「あなた一人でギリシア軍五万人を相手には出来ないでしょう。」「あなたを守るためならやってみましょう。」「でも五万人を殺したことはないでしょう。」「たしかに。」「ね。」「でも二千人なら...」「...二千人!...本当に...一人で?」「ええ。」「それってどんな...」「一人一人がどうってよりも丘一面が血に...いや女の人に聞かせるような話じゃないです。」ここでアキレウスは武将と言うよりアメリカの爆撃手だ。

おそらくはパレスティナの少女が今回の作品と上演のきっかけになったのだろうが、戦争に否定的だった女のコロスまでパトリオティズムの熱狂に巻き込まれてゆくラストなど、現代的メッセージは明確だ。印象的な舞台だった。

ただ、いつもはコメディをやっているグループなのか、別に笑うようなやりとりでないところでも笑い声を挙げる一部の客が耳障りだった。