諸君、 私はギリシア悲劇が好きだ
諸君、私はギリシア悲劇が好きだ
諸君、 私はギリシア悲劇が大好きだ

メデイアが好きだ
エレクトラが好きだ
アンティゴネが好きだ
カッサンドラが好きだ
イオカステが好きだ
クリュタイムネストラが好きだ
ヘレネが好きだ
ヘカベが好きだ

東京で、ロンドンで
ニューヨークで、アテネで
エピダウロスで、パリで
古代劇場で、野外劇場で、
大劇場で、小劇場で
博物館で、倉庫で、

この地上で行われるありとあらゆるギリシア悲劇が好きだ

アガメムノンの断末魔の声にコロスがおびえまどうのが好きだ
網に絡まり、血まみれになった死骸とともにクリュタイムネストラが登場すると心が躍る

エレクトラがオレステスを弟だと認知する瞬間が好きだ
ためらいを振り切りオレステスが母親を殺したときなど胸のすくような気持ちだった

制止の言葉を聞かず、自分の素性をあくまで求めるオイディプスが好きだ
罪なき行為の責任を負い、破滅の中で崇高さを示すその姿には感動すら覚える

メデイアが、屁理屈をこねるイアソンをつるし上げている様などもうたまらない
「今日一日は子供たちがおまえの子供だということを忘れろ、あとで存分嘆き続けるがよい」と子殺しを決断するのも最高だ。

哀れなグラウケとその父親が毒の衣に肉が融け髪が燃え上がり力尽きて死んでゆく場面には絶頂を覚える

必死で抵抗するアンドロマケからギリシア軍がその幼子を奪い取るのが好きだ
崖の上から投げ落とされた子供の死骸にヘカベが弔いの儀式を行う様はとても悲しいものだ

兄の弔いを果たせず、さらし者にされるアンティゴネが好きだ
首をくくった彼女の前で恋人のハイモンまで自殺するのを聞くのは屈辱の極みだ

諸君、 私はギリシア悲劇を、ハデスのごときギリシア悲劇を望んでいる
諸君、 静岡に集まった諸君、
君たちはいったい何を望んでいる?

さらなる悲劇を望むか?
情け容赦のない地獄のような悲劇経験を望むか?
策謀の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか?

トラ・ゲ・ディ!トラ・ゲ・ディ! トラ・ゲ・ディ!
悲劇! 悲劇! 悲劇!

よろしい、ならば悲劇だ

我々は渾身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で二千五百年もの間堪え続けてきた我々にただの上演ではもはや足りない!!

大いなる悲劇を!
心を凍り付かせるギリシア悲劇を!

我らはわずかに三人の作家、五十に満たない作品群にすぎない
だが諸君は一騎当千の演出家たちだと私は信じている
ならば諸君と我らで、五万の凡百の作品に不可能な恐怖を創り出そう

我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう
連中に恐怖の味を思い出させてやる
連中に我々の呪いの声を思い出させてやる

天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる
一千万の無辜なる女たちの悲嘆の歌で
世界を燃やし尽くしてやる

目標、静岡、舞台芸術公園野外劇場

Shizuoka春の芸術祭2005、舞台を開始せよ

参照 『ヘルシング』の「ミレニアム」より少佐の演説