Cross Talk

「スカイ・クロラ」の架空機デザインを考察する

公開されたばかりの映画「スカイ・クロラ」を見てきました。

映画そのものの感想は、8月3日の日記の方に書いたので、こっちでは劇場を出てから買ったスカイ・クロラ ナビゲーター(日本テレビ放送網)を見て、気になったことを書いてみようかと。

まずは「散香」。

序盤、カンナミたちの「散香」がダムを垂直上昇でクリアするシーン、開いた動翼って前縁スラットっぽく見えたのだけど、散香って前翼には前縁スラットのディテールラインが無いんですよね(震電は前翼に前縁スラットがあった筈)。むしろ主翼の内翼側にそれっぽいのがあるんだけど…。原作だと、スラットを使う描写はなかったような気がしたので、この辺は映像化したさいのアレンジなんでしょうか?

機銃の装備位置が、機体下側にあること。発砲時の煙や閃光が視野を遮ることを考えれば、パイロットの視野から離れた胴体下側に機銃があることは有利に見えますが、問題は薬莢。

推進式プロペラの「散香」は、機外に排莢するのはリスクが高い(薬莢とプロペラが接触する可能性がある)ことから、薬莢は機内に収容しなければいけないのですが、機銃を胴体下面に装備したことで、薬莢受けを設置するだけのスペースができたかどうか、気になるところです。

「散香」の機体後上部に謎の突起がついています。燃料冷却器には見えないし、ひょっとして後方警戒レーダでしょうか?

続いて、ティーチャーの愛機である「スカイリィ」。

一番目に付くのは、排気タービン過給器がついてるけど、エンジン両脇に単排気管がついてる!ということ。

排気タービン過給器(ターボ・スーパーチャージャー)ってのは、エンジンの排気ガスのエネルギーを使ってタービンを回し、その軸出力でコンプレッサーを回すことで吸気を圧縮。発動機の出力向上を図る機構です。

たとえば、排気の圧力でタービンを回すターボ・チャージャだって、大型のエンジンでは成功しているものの、戦闘機クラスの小型エンジンでは、故障が多すぎて使い物にならないのが現状だ。燃料消費が若干少なく、パワーが三割程度増すものの、その壊れやすいメカニズムを付加することで、重量は増し、整備性が圧倒的に下がる。

小説版スカイ・クロラ第二話「キャノピィ」より。

エンジンの出力の一部を使ってコンプレッサーを回す機械式のターボチャージャーに比べて、熱効率を上げられることが利点で、現実世界でも高々度を飛行する長距離爆撃機(例えば、B-29とかね)などに数多く採用されています。

戦闘機でも排気タービンを採用した機種はありますが、システムを組み込むことで機体が大型、大重量になりがち(1)で、また高熱の排気ガスに晒されながら高回転するタービンの開発が難しかったこともあり、その数は決して多くはありませんでした。

んでもってこの排気タービン、排気ガスを使うというシステムの関係上、エンジンからダクトでタービンまで排気を持ってく必要がある訳で、エンジンの側から排気管が露出することはない筈なのです。う〜ん。

オマケに、この排気管の数を数えたら、片側8本あるように見えます(CGの場合。設定画だと片側10本ある)。

この排気管の配置だと、V型か倒立V型エンジンの可能性が高いと思うのですが、もしそうなら、クランクシャフトの長さがエライことになりそうだ…。

機体のエンジン部分の四隅にバルジがあることから、あるいはX型とかH型とかの可能性もありそうですが、モーターキャノン(プロペラ軸内機銃)の装備を考えると、これはちょっと難しい気も。

で、多分液冷エンジンなのだろうけど、機首に環状冷却器があって、主翼と胴体下にも冷却器っぽい開口部があって、コクピット後方にも吸気口、左右にドア型の排気口らしきものがあります。う〜む。エンジンの冷却空気取り入れ口、オイルクーラー、インタークーラーの吸気口あたりが考えられるけど、どれがどれなんだろう…。

後日購入したスカイ・クロラ総設定資料(誠文堂新光社)の記述によると、スカイリィは監督の意向により、キャラクター的なケレンを突出してデザインされているそうです。あちこち、やたらと突出部が多いのはそのためか…。

しかも、よく見たら水平尾翼の下にも排気口らしい開口部があるぞ…。

1:機体が大型、大重量になりがち

例えば、排気タービン過給器を搭載した代表的な戦闘機であるP-47は、機体の乾燥重量で4800kg、フル装備だと8トン近いヘビー級戦闘機です。

日本の代表的な戦闘機である零戦は、自重は2トン以下、正規全備重量でも3トンに達しなかったのですから、P-47の重さが判ろうかと言うもの。

日本機ファンからは、あまりに大重量と否定的な目で見られることも多いP-47ですが、排気タービン過給器をエンジンから離れた胴体下面に取り付け(排気ガスの熱対策)、十分な容量の中間冷却器を設置するなど、タービン過給器の性能を活かすための機体設計をした結果とも言えます。

太平洋戦争末期、本格的な排気タービン搭載戦闘機として開発が進められていた日本陸軍のキ94Ⅱは、全備重量で6450 kg(予定)という巨大戦闘機になる筈だったのですから…。