平成三年六月二七日東京高等裁判所第六民事部

 

平成二年(行ケ)一八二号審決取消請求事件

 

         原告    大阪シーリング印刷株式会社

         被告    特許庁長官
          同指定代理人通商産業技官 前田 正夫   
          同                 長野 正紀  
          同                 松木 禎夫 
          同      通商産業事務官 高野  清   

 

主    文

     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原稿の負担とする。         

理    由

第一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第二 そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

一 成立に争いない甲第二号証の特許願書添付の図面(第1図、第2図、第5図ないし第8図)及び甲第三号証の手続補正書添付の明細書及び図面(第3図、第4図)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が左記のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

1 技術的課題(目的)

 本願発明は、ラベル貼着ステーシヨンに到来したラベルを一時停止することができる、粘着ラベルの貼付装置に関する(明細書第四頁第一七行ないし末行)。

 この種の装置ではラベル検知器によりラベルの位置が検知されてラベルがラベル貼着ステーシヨンに一時停止するが、従来技術では、ラベルの大きさあるいはラベル間のピツチが変わつて、例えば第8図bに示す関係になつたときは、ラベル検知器を適宜の位置に移動して第8図aに示す関係になるようにする必要があるが、右移動操作は煩雑であるばかりでなく正確を期し難い問題点があつた(第五頁第二行ないし末行)。

 本願発明の技術的課題(目的)は、ラベルの大きさあるいはラベル間のピツチが変わつても、簡単な操作によつてラベルの正確な位置を判断することができる粘着ラベルの貼付装置を創案することである(第六頁初行ないし第五行)。

2 構成

 本願発明は、右技術的課題(目的)を解決するために、その要旨とする特許請求の範囲第1項記載の構成を採用したものである(第一頁第五行ないし第二頁第一二行)。

 別紙図面Aはその一実施例を示すものであつて、第1図はラベル検知器及びその周辺装置の正面図、第2図は入力部の正面図、第3図はタイミングチヤート、第4図はフロチヤート、第5図はプロツク図、第6図は装置全体の正面図、第7図はラベル連続体の一部を切り欠いた斜視図である。なお、1はラベル、2は剥離台紙、3はラベル連続体、4は検知器、5は剥離器、6は入力部、11は制御部、18は被貼着物、19はラベル送り装置である(第一五頁第一四行ないし第一六頁第八行)。

 図において、A、H及びLは、入力部に数値的に入力される設定値である。すなわち、Aは、B(第6図に示すように、被貼着体18の搬送方向先端から、粘着ラベル1が貼着される先端までの距離)とC(粘着ラベル1の先端が被貼着物18に触れる部分aから、検知手段16までの距離)の和である。Hは、設定距離(貼着ラベル1の先端が被貼着物18に触れる部分aから検知器4までの、ラベル連続体3と平行する距離)である。Lは、ラベルの一ピツチ距離(粘着ラベル1の長さと、隣接する粘着ラベル1どうしの間の長さの和)である。そして、Dは位相距離(粘着ラベル1の先端から検知器4までの距離)であつて、次式

D=H−αL,D≦L,ただしαは整数

で計算される。前記実施例では、入力部のテンキー7、正負キー8及び選択キー9によつてA、H及びLの数値を入力すると、制御部11が前記式により距離Dを求めるとともに、A、H、L及びDの値を記憶する(第一一頁第三行ないし第一二頁第七行)。

検知器4は、粘着ラベル1の有無を検知し、検知信号を制御部11に与える(第一二頁第八行ないし第一二行)。

 制御部11は、検知器4の検知信号を変換したパルス数が距離Dに対応しているか否かを比較し、両者が一致したとき、ラベル送り装置19に対し移送停止指令を与える。これによつて、ラベル送り装置19のラベル送りが一時停止され、次に供給されるラベルはラベル貼着ステーシヨンに一時停止される(第一二頁第一三行ないし第一三頁第一八行)。

 次に、検知手段16が被貼着物18を検知した時点から被貼着物18が距離Aだけ搬送されたとき(すなわち、被貼着物18がラベル貼着ステーシヨンに搬送されたとき)、制御部11はラベル送り装置19に対し移送開始指令を与える。これによつて、ラベル送り装置19のラベル送りが再び開始され、ラベル1は被貼着物18に貼付され、以降、検知器4による粘着ラベル1の検知以下の動作が繰り返される(第一三頁第一九行ないし第一四頁第九行)。

3 作用効果

 本願発明によれば、ラベル貼着ステーシヨンに一つのラベルが存在する状態で、ラベル検知器とそれに最も近いラベルの端縁との間の距離Dに関連するデータを設定することによつて、ラベルをラベル貼着ステーシヨンに位置させることができる。したがつて、ラベルの大きさあるいはラベル間のピツチが変わつても、従来のようにラベル検知器の位置を変える必要がなく、キーの操作によつて距離Dに関連するデータを変えるだけで、迅速かつ正確に粘着ラベルを貼着し得る粘着ラベルの貼付装置を得ることができる(第八頁第一五行ないし第九頁第四行、第一五頁第七行ないし第一二行)。

二 原告は、引用例2に審決認定の技術的事項が記載されていることを認めながら、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明は対象とする装置を異にする結果、解決すべき技術的課題(目的)構成を異にするものであるから、引用例2記載の技術的事項を引用例1記載の発明に採用することは当業者が適宜なし得たとする審決の判断は誤りであると主張する。

 そこで、引用例1及び引用例2記載の技術内容を検討するに、まず成立に争いない甲第四号証(特許出願公告公報。別紙図面B参照)によれば、引用例1記載の発明は名称を「ラベル貼着装置」とするものであつて、コンベアのような搬送装置により搬送される包装用箱等の被貼着物にラベルを順次貼着する装置であつて、被貼着物に対するラベル貼着を確実に行うことができるものの創案を技術的課題(目的)とする(第一欄第三一行ないし第三六行)と認められる。そして、同号証によれば、引用例1には同発明の一実施例の構成及びその作用として、検出器3が搬送装置1により搬送される被貼着物2を検知すると、セパレータ4a(ラベル4が一定間隔で剥離可能に並列貼付されている、テープ状のもの。第二欄第七行ないし第九行)が矢印B方向に移送されること、セパレータ4aがガイド板12によつて反転屈折するときラベル4が自然に剥離して被貼着物2の表面に貼着すること、ガイド板12よりセパレータ4aの供給側(上流側)に位置するラベル検出器13が後方のラベル4を検知すると、セパレータ4aの移送が停止すること、そして検出器3が次の被貼着物2を検知すると、セパレータ4aが再び移送して、前記の工程が繰り返されることが記載されていると認められる(第二欄第三六行ないし第三欄末行)。

 そうすると、引用例1記載の発明においては、まずセパレータ4aを所定の位置に停止させておき、被貼着物2の搬送に同調させてセパレータ4aを移送することによつて、セパレータ4aに仮着されているラベル4を被貼着物2に貼付することを企図するものであるから、セパレータ4aを所定の位置に正確に停止させることが発明の技術的課題(目的)を解決するための前提となることは明らかである。そして、セパレータ4aを所定の位置に正確に停止させることができれば、「コンベアとセパレータの送り速度が同調している限り、被貼付物が不規則間隔で送られても確実にラベル貼着が可能となる」(前掲甲第四号証の第四欄第五行ないし第八行)との作用効果が奏されるものと認められる。

 一方、成立に争いない甲第五号証(特許出願公開公報。別紙図面C参照)によれば、引用例2記載の発明は台紙に貼着されたラベルにデータを印字して発行するラベル発行機のラベル送り制御装置に関するもの(第二頁左上欄第五行ないし第七行)であつて、ラベル発行機ではラベル有無検出器がラベルが存在しないことを検出すると台紙が移送され、ラベル有無検出器がラベルが存在することを検出すると台紙移送が停止されるが(第二欄右上欄第八行ないし左下欄第二行)、従来のラベル送り制御装置は台紙のみの光透過量と台紙及びラベルが重なつたときの光透過量の差を検出して制御するものであるため、ラベルが光透過率の高いものであると非常に高精度の検出器が必要となり、また、ラベルの大きさが変わると検出器の位置を変えねばならないが最適位置を定めるのは手数を要するなどの問題点がある(第二頁左下欄第三行ないし右下欄第六行)との知見に基づいて、「ラベル検出を確実に行なつてその停止位置を正確に定め、その停止位置の変更も簡単であるラベル送り制御装置を得ること」(第二頁右下欄第七行ないし第九行)を技術的課題(目的)とするものと認められる。そして、前記甲第五号証によれば、引用例2記載の発明は、右技術的課題(目的)を解決するために、「ラベルが貼着された台紙を送る送り部を駆動する駆動部と前記ラベルを剥離する剥離部とを設け、この剥離部に臨ませて剥離された前記ラベルの前縁を検出するラベル検出器を設け、このラベル検出器による前縁検出が行なわれてから前記台紙を一定量送るように前記駆動部の動作を制御する定量送り手段を設けたことを特徴とするラベル送り制御装置」(第一頁左下欄第四行ないし第一一行)を要旨とする構成を採用したものであつて、第二頁右下欄第一一行ないし第六頁左上欄第二行に記載されているその一実施例の構成の核心は、「剥離板5の前部にラベル2の前縁21の到達したことを検出する前縁検出機能と前記ラベル2の有無を検出する有無検出機能とを有するラベル検出器22を設け」(第二頁右下欄第一四行ないし第一八行)、「紙送りコントローラ29には(中略)送り量設定部となる送り量設定器30が接続され」(第三頁左上欄第七行ないし第九行)、「台紙1が定速送りされるとラベル2は剥離されて剥離板5より突出し、ついにはラベル2の前縁21はラベル検出器22により検出される。この検出と同時に(中略)紙送りコントローラ29内ではスリツト検出器27からの信号Cをカウントし始め、そのカウント数が送り量設定器30であらかじめ設定された数になると(中略)モータ6を停止させる。したがつて、ラベル2はその前縁21がラベル検出器22で検出されてから一定量送り出されて停止することになる。そのため、基準信号は前縁21の検出であり、ラベル2が透明でない限り透過率の差は大きく(中略)きわめて正確な検出がなされる」(第三頁右上欄第三行ないし第一八行)点であると認められる。そして、前掲甲第五号証によれば、引用例2記載の発明は「ラベル検出器はラベルの前縁を検出するようにしたので、台紙やラベルの光透過率に関係なく確実にラベル前縁の検出を行うことができ、この前縁の検出に基づいて定量送り手段により定量送りを行なわせるようにしたので、ラベルの送り量制御が正確であり、しかもその送り量は設定変更自在であるため、ラベルの大きさが変わつてもラベル検出器の位置等を変える必要がなく、初期設定も容易である」(第八頁左上欄第一二行ないし末行)との作用効果を奏するものと認められる。

 そうすると、引用例2記載の発明は、ラベル発行機のラベル送り制御装置に関するものであるが、ラベルに対するデータ印字を正確に行うために、ラベルが仮着されている台紙を所定の位置に正確に停止させることが発明の技術的課題(目的)となつていることが明らかである。

 このように、引用例1記載の発明と引用例2の記載の発明は、ラベルが仮着されている台紙(セパレータ)を所定の位置に正確に停止させる点において、同一の事項を技術的課題(目的)とする技術的思想ということができる。そして、引用例2記載の発明は、右技術的課題(目的)を解決するために、審決第七頁第七行ないし第一二行説示の「ラベルの前縁の到達したことを検出するラベル検出装置が設けられ、このラベル検出器22によりラベルの前縁を検出してから台紙を一定量送るように制御する定量送り手段が設けられ、定量送り手段の送り量の設定変更自在である」ようなラベル送り制御手段を創案したものである。したがつて、引用例1記載の発明において、前記技術的課題(目的)を解決するに当たり、引用例2記載の右ラベル送り制御手段を適用することによつてラベルの大きさが変わつてもラベル検出器の位置を変える必要がないようなラベル貼着装置の構成を得ることは、当業者ならば容易に想到し得た事項というべきである。引用例2記載の前記実施例が前縁が剥離したラベルを手で被貼着体に貼着するものであつて自動的に貼着するものでないことは、右適用を考慮する際の障害になるとは考えられない。

 この点について、原告は、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用するとラベル検出器は剥離されたラベルの前縁の両側に配設されることになりラベルを被貼着物に貼付する工程の支障になる、と主張する。しかしながら、剥離台紙には一定の間隔でラベルが仮着されており、移動する剥離台紙のどの位置にラベル検出器を配設しても同一の検出結果が得られることは技術的に自明であるから、ラベル検出器の配設位置は適宜に決定し得る事項である。そして、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用するに当たり、ラベル検出器の配設位置を引用例1記載のラベル検出器と同様にラベル貼着部より上流にすることに何らかの困難があつたことは到底考えられないから、原告の右主張は失当である。念のため付言すれば、引用例2記載のラベル検出器は前記のとおり剥離されたラベルの前縁を検出するものであるが、ラベル検出器をラベル貼着部より上流側に配設すると、ラベル検出器は剥離台紙に仮着されたままのラベルの前縁を検出しなければならないことになる。しかしながら、引用例1記載の「光電管のような(中略)検出器13」(前掲甲第四号証の第三欄第一六行)あるいは本願発明の「たとえば光電管、光電素子などが用いられる」ラベル検知器4(前掲甲第三号証の第一〇頁第七行ないし第九行)は、各発明の構成からみて、剥離台紙に仮着されたままのラベルの端縁(前縁)を何ら問題なく検知し得る機能を有していることが明らかであるから、右の点も、ラベル検出器をラベル貼着部より上流に配設することの支障になることはない。

三 以上のとおりであるから、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用することは当業者が適宜なし得た事項というべきである。そして、引用例2記載のラベル送り制御手段を採用するならばたとえラベルの大きさが変わつてもラベル検出器の位置を変える必要がないのであるから、引用例1記載の発明のラベル検出器も固定的に設けて差支えないことは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。

 したがつて、本願発明は引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断は正当であつて、審決には原告が主張するような違法はない。

第三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却する(省略)。

 

                  裁判長裁判官    武田 稔

                      裁判官    春日 民雄

                      裁判官    佐藤 修市