デフレからは脱却できない?
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 昨日(1月23日)の朝日新聞に、かつて「ミスター円」といわれた榊原英資氏へのインタビューが載っていました。その中で同氏は、「どうすればデフレから脱却できるか」との記者の問いに対して、「脱却できない」と答えています。

 その記事のすぐ下に、「経済気象台」というコラムがありました。同コラムは、「不思議なデフレ」と題して、日本の物価水準が、「まだまだインフレ国並みに高い」ことを指摘しています。

 二つの記事を読み比べて、「なるほど。経済の国際化や自由化が進めば、水が低きに流れるように、日本のデフレも(賃金や地価を含めた)物価が国際水準に下がるまで続くということか」と妙に納得できました。この理解は間違っているでしょうか。

 下に、両記事の全文を添付します。皆様のご意見をお聞かせください。次の掲示板への投稿、または管理者宛のメールでお願いします。 →とんび岩の掲示板

 

朝日新聞(2003/01/23)  どうする金融政策(5)

インフレ目標の設定はマイナス  慶応大 教授  榊原 英資


 ――日本のデフレの現状をどうみますか。

 「構造的かつ世界規模のデフレだ。要因は2つある。1つは、情報通信をはじめあらゆる分野で非常に速いスピードで起きている技術革新。経済や社会を根本的に変える第3次産業革命とも呼べる大変化だ。もう1つはグローバリゼーション。ここ10年間で中国や東欧、ロシア、インドなどの国々が市場経済に本格的に参入してきた」

 「日本だけでなく中国、シンガポール、台湾などでもデフレ基調だ。米国やドイツでもインフレ率が低下している」

 ――インフレは、マネーの供給量を増やせば物価が上がるという貨幣的現象ではないのですか。

 「もはやマネーの定義が変わっている。日本銀行券だけでなく、クレジットカードやマネー機能を持つ色々なものがちまたにあふれ、マネーと取引との安定的な関係が途切れている」

 「日銀が貨幣をどんどん出せば、株や国債など供給の限られたストックの価値が上がるのは間違いない。いまは潤沢な流動性供給で余ったマネーが国債に流れ込み、国債価格が上昇している。だが本来、株価は企業収益を、国債価格は国の財政を反映するものだ。マネー供給で株価を無理に上昇させても、企業収益が伴わなければバブルが発生するだけだ」

 ――インフレ目標を掲げるべきだという政策論議をどう考えますか。

 「いまは経済理論が時代に追いつかない。グローバリゼーションの拡大によって、この数10年で経済に与えるストックの影響力が拡大した。多くのマクロ経済学者たちは、現実と理論が合わないから現実の方を変えようとしている。日銀が主張するように、金融緩和を重ねてもデフレに歯止めがかからないのは、日本経済の構造が大きく変わろうとしているからにほかならない。構造変化を無視したインフレ目標はナンセンスだ」

 ――外国にはインフレ目標の例があります。

 「それは基本的にインフレを抑えるための政策で、デフレを克服するためではない。デフレ下でもインフレ目標策が一定の役割を果たしたニュージーランドなどは例外だ」

 「どういうプロセスで製品やサービスの価格が上がるのかという道筋が、世間の論議では示されていない。それを示さなければ、目標の設定はかえってマイナスに働く。積極派の人々はインフレ期待が生まれるというが、道筋すら見えないのにどうして期待が生まれるのか理解に苦しむ」

 ――インフレ目標が導入されたら、どうなりますか。

 「国債バブルが膨らんで長期金利がさらに下がるだけだろう。日銀が株をどんどん買っても、企業収益が伴わなければバブルをつくるだけ。土地を買うなんて現実には無理な話で、失敗は目に見えている。米国にはインフレ目標を支持する学者が多いが、彼らは日本経済の問題や現場をよく理解していない。日本経済はマクロ経済学者の実験場ではない」

 ――日本では導入論が強まっています。

 「学会での論争としてはあってもいいと思うが、唯一の政策のような議論になる現状はややおかしい。日銀総裁人事との絡みで出てきた点も奇異な感じがする。もともと財務省は財政に圧力をかけさせないため、金融政策に責任を転嫁させようとする傾向がある。官邸や自民党も政策的に手詰まりになっているのだろう」

 ――では、どうすればデフレから脱却できますか。

 「脱却できない。年1〜2%の緩やかな物価下落は受け入れなければならない。それは消費者にとってもいいことだ。ただ、デフレを不況につなげてはならず、そのためにはデフレ下でも企業が収益を上げられる体制を国が作る必要がある。日本企業は90年代を通じて人件費や流通経費の高コスト体質が染みつき、収益の上がらない構造になった。それを打破するには規制緩和などが有効だ。たとえば東名高速の料金を無料にするなど、政府による積極的な環境づくりが大切だ」

(聞き手・日浦統)

 

不思議なデフレ    朝日新聞(2003/01/23)  【経済気象台】

 海外旅行から帰国後、妻に頼まれ買物に行くと、不思議な感覚に襲われた。「これが、デフレを心配されている国か」。外国のスーパーマーケットの価格に見慣れた感覚でとらえると、日本で売られている商品は高く感じた。

 東京388円、ニューヨーク271円、ロンドン200円、香港307円。8都市の物価を比較している内閣府調査(01年)のオレンジ1キロの価格である。調査銘柄や品質、天候の影響等、厳密さには若干の疑問はあるが、食料品からゴルフのプレー料金までの38項目を比べている。そのうち、東京での価格が最も高かったのは12品目で、8都市中最多だった。

 もちろん、激安カジュアルウエアやファストフードのようにデフレのシンボル的に安いものもあるが、東京ではおおむね、食料品や日用品の値段が高いようだ。言い換えれば、デフレと懸念されている状況の中でも、東京は世界的にも物価が割高で、いまだ世界で暮らしにくい都市の一つであるらしい。

 日本の企業は、ある意味で地価の上昇に関連したインフレとともに成長してきた。多少価格の高い商品でも出せば売れた。政府も日本の企業の成長にとって都合のいいインフレを歓迎していた。しかしその陰で、日本の生活者は世界で有数の高い商品を買わされてきた。世界から見れば、それほどではない豊かさに満足させられてきた。

 その結果、今のような物価が低下し続けるデフレでありながら、世界や日本の生活者から見るとインフレの国のようにまだまだ物価の割高な印象を受ける、ちぐはぐな現象を生んでいる。

 不況は消費が回復しなくては解決しないと言われて久しい。企業も投資にいまいち踏み込めないのは、消費に確固たる手応えがないからだ。なのに、この国の論調は企業のために再び緩やかなインフレが必要だという。生活者側から経済をとらえた議論はあまりに少ない。(深呼吸)

 


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