朗読の予習
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Last updated on 2003/05/31 



 私は中学時代の3年間に、一度だけ、国語の朗読(読み)の予習をしたことがあります。当時の私は、授業の予習をほとんどしていませんでした。英語、数学ならともかく、「朗読」の予習など、考えたこともありませんでした。ですからこの一度のことは今でも鮮明に覚えています。

 高校入試が迫った3年生の3学期、O先生の授業でした。ある日先生は、「この次の『石狩川』は朗読が非常に難しいから、各自必ず読みの練習をしておくように」とおっしゃいました。

 これを聞いたとき、何故か(理由は思い出せません)、「ヤバイ、俺が当てられる(指名される)」と思いました。同時に、「非常に難しいとは、言ってくれるじゃないか。一丁うまくやって、先公の鼻をあかしてやろうか」という山ッ気も湧きました。それで予習する気になったのです。

 2ページもやっておけば大丈夫と踏んで、書き出しの部分だけを練習しました。文章の区切りが難しく、10回以上練習してやっと、滑らかに朗読できるようになりました。

 さて、次の授業では、案の定、私が指名されました。半ば暗記するくらい予習していたので無難に読み進みましたが、どこまで行っても「そこまで」の声がかかりませんでした。練習した2ページが終わるころ、逆に「名調子だ、そのまま続けて」と来ました。あとはご推察通りの悪戦苦闘となりました。

 それから十数年後、技術系サラリーマン4年目の私は転勤でH工場に着任しました。以下は新職場の部長席に挨拶に行ったときのやりとりです。

K部長 : M君、趣味は何ですか。

私    : 放浪の旅や山登りです。

K部長 : 若いときに旅行することはいいことです。私も北大在学中は石狩平野を歩き回ったものです。「ほんじょう りくお(本庄陸男?)」という作家を知っていますか?

私    : ほんじょう むつお(本庄睦男)ではないですか?

K部長 : ああ、そうかも知れない。その人が書いた「石狩川」という小説があってね、それに出てくる場所を辿って石狩平野をさまよい歩いたものだよ。「石狩川」という小説は、あまり売れていないから知らないだろうなあ。

私    : いえ、少しは読んだことがあります。書き出しの名文は覚えています。「切り開こうとする彼らの道を、立ってそこから指さすならば、海に背を向けたあちら、東南辰巳の方角にうがたれるはずであった」でしたね。

 このとき以降、私はK部長から「本をよく読んでいる男」と買いかぶられ、何かと引き立てていただくことになるのです。

 今ふり返れば、O先生が、朗読の予習を指示されたとき既に、私を指名することを予定していたとは思われません。しかし私の方は「俺が当てられる」と思いこみ、念入りに準備をしました。当日先生は、たぶん私の態度から相当な準備を感じとり、「それならやってみろ」と私を指名されたのだろうと推測します。

 自分が「こうしよう」と思って真面目に努力していると、周囲も感化されて、実際に世の中がそのとおりに動く場合が多いとよくいわれます。この話も、そのささやかな一例ではないかと考えています。

 それともうひとつ、「鶏鳴狗盗」ではないですが、何でも勉強しておくと、意外なところで役に立つものだと思います。

 



 【追記】 2003/05/31

 2003年5月28日、北海道石狩郡当別町の辻 好行さんから、小説「石狩川」の著者に関して、当別町生まれの本庄は、よく間違われますが陸男と書いて『むつお』とよませますので『陸男』に訂正願います。とのメールをいただきました。事実関係は恐らく辻さんご指摘の通りで、私は中学時代に誤って「睦男」と記憶したものと思われます。しかし私とK部長とのヤリトリは上の本文の通りですので、敢えて訂正は行わないことにしました。


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