金融緩和が構造改革を遅らせる
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 8月26日の朝日新聞(思考一新講座)に、野口悠紀夫さんが表題のようなご意見(?)を書いておられました。その最後の一文、「国民にとって最重要の課題は、沈みつつあるこの国からいかに脱出するかを考えることになってきた」は、私の実感そのものです。しかし、いまのところこの意見は少数派のようです。僭越ながら、野口さんへの応援の意味を込めて、全文をご紹介します。 
 

金融緩和が構造改革を遅らせる

青山学院大学教授 野口悠紀夫 (朝日新聞 2001/08/26)

 日銀が一層の金融緩和に踏み切った。経済界や経済学者は、こぞって歓迎している。

 しかし、金融緩和は、日本経済にとって、どんな意味があるのだろうか?

 教科書的にいえば、金融緩和は資金調達コストを低下させ、投資支出を増大させる。それにより経済活動全般が活性化する。しかし、この効果が現在の日本経済で働くか否か、きわめて疑問だ。投資収益が著しく低水準なので、いかに金融を緩和したところで、投資支出の増大を期待することはできないからだ。

 現状での金融緩和の効果は、重い債務に苦しむ企業の利払い負担を軽減することだ。それによって、破たん寸前の企業を延命させることができる。銀行側からみれば、不良債権が現在以上に増加するのを防ぐことになる。

 要するに、金融緩和の効果は、瀕死(ひんし)の企業に対するカンフル注射なのである。したがって、倒産に伴う混乱を将来に延期させることにはなるが、新しい経済構造を生み出し、日本経済を成長軌道に乗せることにはならない。

 長期的な観点から見れば、金融緩和は、ネガティブな効果を持つ。なぜなら、経済の非効率的な部分を温存させ、経済構造の改革を遅らせるからだ。構造改革を本当に進めようとするなら、金融を引き締め、非効率な企業の淘汰(とうた)を図るべきだ。そこで解放された経済資源や人材を新しい分野に配分することこそ、真の構造改革なのである。

 もちろん、その過程では、さまざまの摩擦が生じる。しかし、それこそが「改革に伴う痛み」なのである。金融緩和によってその痛みはなくなる。しかし、半面で、構造改革もありえないことになる。

 今回の決定に関し、「金融緩和が構造改革を支援する」といわれる。しかし、これほど奇妙な解説はない。デフレ阻止と「構造改革」は、矛盾する目標なのである。

 今回の日銀の決定で明らかになったことが二つある。

 第一は、日本銀行が政策決定の自主性を有していないことだ。「政府から石が飛んできた」という日銀総裁の発言が、これを象徴している。新日銀法の下では日銀の独立性が保障されたのだが、これは文言上だけのことだった。

 第二は、政府は「痛みを伴う構造改革」を標榜(ひょうぼう)しているが、現実にそうした政策を取ろうとする意思はないことだ。実際には、古い経済構造を温存し、混乱を回避することが、最重要の目的なのだ。

 そうである以上、日本経済の基本状況が今後好転することは望めない。国民にとって最重要の課題は、沈みつつあるこの国からいかに脱出するかを考えることになってきた。

 

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