次の相場の山で儲ける法、教えます
Since 2013/01/10


 「東洋経済ONLINE」というサイトに「行動ファイナンス」と題した連載コラムがある。筆者は慶應義塾大学准教授の小幡績氏。1月8日付け記事のタイトルは「次の相場の山で儲ける法、教えます」。

 株式市場が活況を呈している折柄、思わずクリックして読んでしまった。私なりに要点をまとめると、

 (1) 学者や評論家の言うことを鵜呑みにしてはいけない。
 (2) 株価を左右するのは需給関係だけだ。
 (3) バブルが始まったら初期に買い、早めに売るべし。

 いずれも小幡氏に同感だが、特に目新しい指摘ではない。相場の動きは元々「理論化」になじまない。なぜなら、売る人と買う人の双方がいなければ取引は成り立たないのだから。

 (3)は昔から相場格言で「利食い千人力」とか「天井売るな、底買うな」、「頭と尻尾はくれてやる」などと表現されている投資姿勢だ。

 問題は、「バブルが始まったかどうか」とか「まだ初期か、もう終期か」をどうやって判断するかだ。現実にはそこが難しい。古来より曰く、「もうはまだなり、まだはもうなり」。

 その見極めについて私は、「理論(理屈)」より「感性」だと思っている。故関本忠弘氏(元NEC会長)の表現を借りれば、「肩先で世間(市場)の風向きを感知できるよう」日ごろから感性を磨いておく必要があると考えている。

 勝海舟は「氷川清話」の中で、剣術の極意の「明鏡止水」を外交に使って少しも誤らなかったと言っている。株取引も「需給関係」すなわち見えない相手との駆け引き。先入観や妄想を捨て、明鏡止水の境地で臨めばうまく行きそうな気がする。

 「氷川清話」には「世間は生きている。理屈は死んでいる。」という名言もある。相場に当てはめれば、上記(1)(2)項と同趣旨と読める。
 


次の相場の山で儲ける法、教えます
慶應義塾大学准教授  小幡績 
( 東洋経済ONLINE「行動ファイナンス」 2013/01/08 より)

 正月ということで、今回はお年玉企画。次の相場の山で儲ける方法をあなただけにこっそりお教えしよう。

 相場で儲けるための4つの「金言」とは?

 第一に、まともな経済学者の言うことを聞いてはいけない。なぜなら、相場はまともな経済理論では動かないからだ。

 第二に、立派な行動経済学者の言うことを聞いてはいけない。なぜなら、彼らは金儲けではなく、心理学に興味があるのであり、人間心理としての高尚なトピックにしか興味がないからだ。

 第三に、文章のうまいインテリのコラムを読んではいけない。なぜなら、彼らは、いかようにも解釈できる現象を、真実であるからではなく、文章が巧みに書かれていることにより、彼らの望んだストーリーで説得してしまう能力があるからだ。

 したがって、相場で儲けるためには、この3つのカテゴリーの人々の話を聞かなければよい。

 では、上記のいずれにも当てはまらない筆者が連載しているこのコラムは?

 最後のアドバイスは、第四に、知的好奇心を刺激し、それを満たすような話を求めてはいけない。知的好奇心を持ったままでは、市場で儲けることはできない。それを捨てよ。知的に読み応えのあるコラムは読んではいけない。

 だから、ここから先を読むあなたは、金融市場で、いや相場で儲けることを諦めた方だ。私は、そういう前提で、今日の話を続けることにする。

 さて、前述の4つの金言を解説しよう。

 現実の相場は「売る」か「買う」かだけ

 第一の点は、もうおなじみであろう。正統派経済学においては、投資は儲からないことになっている。なぜなら、効率的市場仮説を前提とする現代ファイナンスにおいては、市場における証券価格は、利用可能なすべての情報を反映しているから、どの証券も、つまり、たとえばどの株も、リスクと期待リターンの組み合わせに見合った株価がついており、どれが買いで、どれが売り、ということはないからだ。

 しかし、これが現実には誤りであることは有名な事実だ。なぜなら、市場での株価は、投資家の行動によって決まる。これを経済学者は行動ファイナンスと呼んでいるが、それほど大げさなものではなく、価格は需要と供給で決まるというだけのことだ。

 日経新聞の投資欄も、ブルームバーグもロイターも、そして東洋経済も、すべて金融市場のニュースは、需給の話ばかりだ。誰が買った、誰が売った、年金が買い、バフェットが買い、銀行が売った。それが市場のすべてだ。

 第二の点は、この投資家の売買、つまり、投資家行動だが、これは、投資家心理に左右されるのだが、現実の相場における重要な投資家心理と、現時点における学会において興味をもたれている投資家心理とは、大きく異なる。

 後者は、今のところ、厳密に立証できるものに関心が絞られているため、ミクロの個人の心理学が直結するものとなっている。投資家行動がいわゆるファンダメンタルズに基づいた投資と異なったとき、それを投資家心理で説明するのだが、それが純粋に心理から来ているのかどうか。

 あるいは制度的要因からきているのか、それともファンダメンタルズの一部である、リスクによるものだが、そのリスクの認識が客観的な事実と主観的な認識とがズレていることから来ているのか。それが主観的にズレている、つまり、単に誤った認識を持っているときに、それを合理的というのか、やはり非合理的なのか。

 こうした議論は、投資家のミクロの行動原理を確立するための基礎としてはいいのだが、現実の相場には役に立たない。現実に重要なのは、それが心理に基づこうか、合理的であろうがなかろうが、他の投資家が売るか買うか、それだけが重要なのだ。

 しかし、それを分析するのは、現時点の学問には無理だろう。なぜなら、私が売るか買うかは、あなたが売るか買うかにかかっており、あなたが売るか買うかは、他の投資家たちが、明日、あさって、来年、売るか買うかにかかっているからだ。

 「厄介な人々」に惑わされるな

 これらのダイナミズムを分析するのは、現時点の学問における理論モデルからは程遠い。2008年のリーマンショックにより、バブルの重要性が再認識され、米国の一部の行動ファイナンス理論は、この方向に大きく舵を切りつつあるが、まだ道半ばというよりは、千里の道を一歩踏み出した程度だ。

 第三の話は、少し脇道にそれるが、行動経済学者よりも役に立たない、いや、学者は役に立たないだけだが、有害な人々がいる。それは一流半のコンサルタントたちだ。二流のコンサルタントは、ましだ。

 なぜなら、言っていることが間違っていることがすぐにわかる。頭が悪いから、論理の破綻が明らかか、明らかに現実に矛盾することを言っている。だから、我々をだますことはできない。なので、彼らは無害だ。

 しかし、その上のコンサルタントはやっかいだ。頭が良いから、論理はきれいにつながっている。また、パワーポイントのプレゼンも見事だ。

 問題は、そのきれいな論理が、現実と整合的かどうかということだ。いや、さすがに整合性がない、破綻が見えてしまうようなロジックは言わない。論理はきれいだが、それが真実かどうかわからない。しかし、きれいな論理で、われわれよりも頭が良いから、思わず説得されてしまう。説得されたという意識もなく、なるほど、そのとおりだ、と思ってしまう。これは厄介だ。

 これはコンサルタントに限らない。たとえば、ノーベル経済学賞を受賞しているポール・クルーグマン。彼は、とことん財政出動せよ、と言っていたが、これは実際にはとことんはできないから、必ず彼の提言は誤りとならない。

 政府が財政出動で経済の回復に成功すれば、自分の言ったとおりだし、財政出動がうまくいかず、財政赤字だけが膨らめば、それはとことんやってないのがいけない、中途半端だった。もっとやれば、突き抜けて経済が回復したのに、ということになる。

 今流行のリフレ派も同じだ。どんなに金融緩和しても、普通のモノはインフレにならない。消費者物価にしても、円安による輸入インフレ以外はインフレにならない。だが、すぐに資産インフレにはなる。

 そうなると、金融は引き締めに転じないといけない。そうすると、日銀が引き締めに転じるのが早すぎたのだ、という批判ができる。これが2006年の量的緩和解除、ゼロ金利解除のときに起きたことだ。しかし、世界は確実にバブル崩壊へ向けて、金融バブルをさらに膨張させていたのだ。

 さて、本当に相場で役に立つのは、前出の第四の金言だ。相場で儲けるには知的好奇心はいらない。明らかなチャンスのとき、どう見ても確実に儲かるときに買い、早めに売ることだ。何の知的作業もいらない。もっと儲けられたのに、という後悔を資産運用の辞書から消し、かっこよく自慢できる儲け方を追求することを忘れることだ。

 今の日本で「リーマン」にあたるものは何か

 今回で言えば、アベノミクスで円安、株高が始まったときに買い、投票日の前の週末に少し買い増し、選挙後の月曜日に売ればよかったのだ。

 これは後付けではない。いちばん易しい投資機会は、モーメンタムの中腹にある。バブルが始まったら、そのバブルに乗り、そのバブルがまだ続きそうなときに止めるのが、投資の最も安全な儲け方だ。ただし、これは大きなチャンスを逃す。なぜなら、バブルは後半ほど、終わりに近づくほど激しく上昇するからだ。

 もちろん、これを取りに行く、という手もある。なぜなら、膨らんだバブルは一発では崩壊しないからだ。崩壊してから逃げるチャンスは一度はある。

 リーマンショックのときは、07年8月のパリバショックがあり、あそこで明らかにバブルは終わっていた。それにもかかわらず、07年10月頭にNYダウは最高値を更新した。このときに逃げることができた。

 なぜ、このようなチャンスが生まれるかというと、バブルのときは、全員が投資するから、一気に崩壊しては全員が困るためだ。そして、バブルであることはわかっているから、逃げる準備は皆していることで、うまく徐々に逃げる暗黙の了解があるからだ。

 リーマンショックは、その期待を裏切った。逃げる準備はできていたが、リーマンを潰す、と言う形でいきなり終焉するのは、暗黙の了解違反だったからだ。

 日本国債はバブルかもしれない。私はこれまではバブルではなかったと思っている。だが、円安トレンドが確立すれば、今の水準は維持できない。当然、皆逃げる準備をしている。ただし、暗黙の了解で、少しずつ逃げるだろう。

 したがって、今、政府がしてはいけないことは、いきなりリーマンを潰すことだ。それが今の日本では何に当たるか。

 それは皆さんへの宿題である。


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