ダイヤモンドの融点? 沸点?

 

ダイヤモンドは炭素からできている共有結合の結晶(巨大分子)である。共有結合力が強い為に,融点,沸点は,分子結晶やイオン結晶,金属などと比べると極めて高いという解説が多くの高校の教科書には載っている。 (左図は啓林館化学TBより引用)

 

そこで,沸点があると言うのなら,ダイヤモンドの気体はどのような構造をしているのか、疑問が湧いた。

水の気体は水蒸気,固体は氷である。いずれも構成単位はHOの水の分子である。固体,液体,気体はその構成単位(分子)の集合状態の相違で説明される。

イオン結晶の場合も同じである。食塩はNaCのイオンからできているが,固体,液体,気体の三態の変化はイオンの集合状態の相違で説明できる。鉄のような金属は構成単位は金属原子であり,その金属原子集合状態の相違で三態変化を起こす。

 

では,ダイヤモンドではどうか?

ダイヤモンドは,炭素原子が他の4つの炭素原子と共有結合してできていて,一結晶で一つの巨大な分子(上記でいう構成単位に対応)といえる。したがって,これが液体の性質や気体の性質を示す為には,前述の物質の三態変化の場合とは異なり,構成単位の考え方に変更を加えなければならない。つまり,ダイヤモンドの固まり(化学的にはこれで1分子)が液体になったり気体になったりすると言うのなら,必ず分子中の炭素原子同士の共有結合が切れて低分子量の断片に分解しなければならないはずである。この断片が新しい「構成単位」ということになり,水のような場合とは明らかに異なる(水の場合は三態変化で構成単位は変わらない)。

 

では,どの程度まで切れればよいのか。文献によると炭素3重結合をもつC2が六個ほどの塊になった集合体が液体,気体はそれ以下の単位になっているらしい。(正確にはダイヤモンドではなく黒鉛のデータ)

 

さて,ここで問題である。

この様に低分子に断片化したものをもダイヤモンドと呼べるのだろうか?これは分解と呼ぶべきなのではないのではないだろうか?たとえば,でんぷんは(C6H10O5nの高分子である。この化合物に融点が存在するというのを聞いたことがない。実際は,でんぷんのような有機高分子化合物を不活性気体雰囲気中で摂氏2000度以上に加熱すると、全て黒鉛状になるらしい。

固体,液体,気体の変化を,今まで述べたような原子レベルの内部構造まで立ち入って考えると,ダイヤモンドの液体,気体というものが摩訶不思議な物体であることが分かったことと思う。しかし,ここで百歩譲って,三態変化をミクロな構造までは言及せず,単に流動性やガス状になるというマクロな外見だけで定義するならば、ダイヤモンドにも融点沸点があるといえるのかもしれない。

 

しかし,ダイヤモンドは摂氏2000度までに(文献によると摂氏1500度)黒鉛に転移する。もはやこれ以上ではダイヤモンドは存在しないのである。しかも,その黒鉛は,左図に示したように,現在最も確かだといわれているF.P.Bundy1989年)の状態図によると1atmでは液体にならずに昇華する。

それでは,教科書に出ているこのダイヤモンドの融点,沸点というのは一体何物なのであろうか?

 

教科書会社にデータの出典を問い合わせたところ,これらは全て化学便覧基礎編14(丸善)から引用したということであった。では,化学便覧のデータの出典は?とさらに問うと,関係者の返答え「分からない」ということであった。信頼のおける便覧のデータだからと,何の検討もなされずに無批判に孫引き掲載されたものが,「科学書」の中ではおそらく最も発行部数の多い教科書で、今まで通用していたことになる。(出版会社からは次期検定本からはこのデータは削除するとの返事を頂いた。)

参考文献:大谷杉郎『炭素自問自答』(鈴木邦夫さん提供)

 

 

 

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