これは私が子供の頃体験した虫たちとの格闘の物語である。
1.カメムシ
別名ヘッコキムシ。身の危険を感じると強烈な臭いを発する。カメムシの名の通り、一度ひっくり返ると自力ではなかなか起きあがれない。臭いはどうやら羽を使ってまき散らしているらしい。ガムテープではりつけると、臭いをまき散らされることなく退治できる。しかし私はそんな残酷なことはしない。 彼らは非常に好奇心旺盛で、怖いもの知らずである。目の前に紙を差し出すと簡単に登ってきてくれる。この習性を利用して外に逃がしてあげるのである。ただ殺すよりもはるかに簡単で確実である。カメムシのような身を守るための手段を持っている虫はやはり警戒心も少ないのだろう。
2.ハエ
こいつを退治するのは至難の業である。殺すのは簡単だが、それは私の主義に反する。まず、窓を網戸だけにし、ハエが網戸に停まってくれるのを待つ。このとき無理に追いやろうとしても逆効果なことが多い。彼らは追いつめられそうになると逆にこちらに向かってきて、後ろに回ろうとするのだ。ここはひたすら待つしかない。そして網戸に停まった瞬間、窓を閉めてハエが部屋の中に戻ってこれないようにするのだ。ハエが網戸とガラス窓の間に挟まれたら、少しだけ窓を開けて網戸を開いてやる。するとハエは部屋には入れず、外に 逃げていくというわけである。しかし夜間は窓を開けてはどんどん虫が入ってくるのでこの方法は使えない。夜はしかたないので、コップを使ってハエを掴まえて逃がすしかない。シュバイツァーが用いた方法と同じである。
3.カマドウマ
便所によくいることから、便所コウロギともいわれる。その名のとおりコウロギに似ているが、コウロギの仲間ではないらしい。こいつのジャンプ力は並じゃない。軽く1メートルはジャンプする。したがって掴まえるのは困難である。ただしこいつは夜行性らしく、明るいところでは動きが鈍い。しかしこいつは最近みたことがない。もういなくなってしまったのだろうか。
4.アミザトウムシ
クモのような8本足の虫。胴体はまるで頭しかないような感じで、ただ丸い。足がもげると足だけでもしばらく動くことができる。子供の頃はこれを足にも心臓があると解釈していたが、今思うと単なるけいれんだろう。たぶん敵にお そわれたときに、敵が足に気を取られている間に自分は逃げることができるということだろう。
5.ガガンボ
カトンボという人もいる。蚊を大きくしたような虫。しかしどうやら人を刺さないようだ。小さい頃は蚊の雄だと兄にいわれたが違う生物らしい。
6.クモ
奴等ほど警戒心の強い虫はそういないだろう。せっかく逃がしてやろうと して紙を差し出しても警戒してなかなか這いあがってこない。それどころかちょっと紙を動かしただけで逃げていって物陰に隠れてしまう。奴が物陰に隠れている間、私はその見えない恐怖に耐えねばならない。特に糸を吐くクモならまだ良いが地グモを逃がすのは骨が折れる。ところで以前冬に迷い込んできたクモがいたことがあって、外に逃がすと凍え死んでしまうのでうちにずっと住まわせていたことがあった。ところが数カ月たっても飢え死にすることなく生き続けた。彼らは飲まず食わずでどのくらい生き続けられるのだ ろう。
7.アリ
彼女らが家に入ってくるときには2種類あると思う。まず先遣隊として侵入してくるとき。そして一度できた通路の見張り役としてである。前者はとにかくそのアリを巣に帰さないことである。ほとんどの場合殺すしか手はない。 後者の場合は最悪で、あきらめるか皆殺しかの選択に迫られることだろう。幸いそういう場面に出くわしたことはないが、私の母は皆殺しを選択した。それにしても彼女らは何処にでもいる。彼女らを踏まないように歩くのはなかなか集中力が必要である。
8.カミキリムシ
彼らは非常に美しい体を持ち、しかもこれといった害をもたらさない、大変すばらしい虫である。他の虫達も彼らを見習って欲しいものである。
9.カ
彼女らが入ってきたときはもう完全にあきらめるしかない。血を吸いたいだけ吸わせてあげよう。彼女らは逃がすこともできないが、自力で逃げ出すこともほとんど出来ない。彼女らは部屋から出ることもできずに力尽きるのである。考えてみれば哀れな生き物だ。ただし彼女たちが卵を生むことの出来る場所が部屋の中にあれば別である。
10.ハサミムシ
こいつを逃がすのはなかなか至難である。こいつはクモほどではないが警戒心が強く、しかも素早い。出来るだけ大きな紙を用意しよう。紙を伝ってきたら素早く走り出して外に捨てるのだ。このとき紙を縦にして風を受けるようにし て走ると、ハサミムシの方もうずくまって動かないことが多い。
11.ユキムシ
正式には確かワタムシ。秋、雪の降り始める1週間ほど前に大発生することがある。非常に軟弱な虫で、手で払ったりしただけですぐに気絶する。風の強い日はまさに雪が降っているように風に流されていく。それはそれは気持ちの悪い物で、外を歩くと体中にユキムシがへばりつく。とても前を見ては歩けな い。いくら大群と行ってもやはり濃度の差があって、ときどきユキムシの塊がやってくる。このときに前を見るとすごい。ユキムシがバラバラと、バケツで ぶちまけたようにやってくる。彼らは決して飛んでいるわけではない。風に飛ばされているのである。そしてユキムシの大発生が一段落すると、今度はテン トウムシが異常発生する。どこもかしこもテントウムシだらけ。いい加減に して欲しい物である。しかしユキムシの大発生はここ10年くらい起きていない。確か最後の大発生は私が中学生の時である。ユキムシ自体滅多に見られなくなった。一度もその姿を見ずに冬を迎えたこともある。悲しいことだ。
12.カマキリ
こいつは本州に渡ってきて初めて見た虫の一つである。北海道にもいたかもしれないが、私は見たことはなかった。最初に見たのは弘前の路上。普段は草むらなどに住んでいるのだろうから、何かの拍子に路上に出てきてしまったのだろう。驚いたことに彼はアスファルト上にいてもちゃんと保護色になっていたのである。最初は気付かなかった。更に嬉しいことに、前後に小刻みに動いていた。こんな非常事態でも狩りの準備は怠らないのだ。ところでカマキリのオスは、メスと交尾した後そのままメスの餌になってしまうそうだ。肉食の昆虫にとって動くものは全て餌ということだろう。しかしカマキリのオスは何とか逃げ切ることはないのだろうか。クモのオスは交尾した後に素早く逃げて餌にならないようにするという。だからカマキリのオスにだって逃げ切れる奴はいるだろう。逃げ切れたオスは再び交尾ができるかもしれない。そうすると逃げ切れるオスの子どもが相対的に増えて来るので、カマキリのオスは逃げ切れるようになるだろうか。おお、これこそまさに進化論?
13.ゴキブリ
関東に来て1度だけ見たことがある。ある食堂で食事をしていたら、床の上をものすごいスピードで走り回っていた。店の不名誉になるので店名は明かさないことにしよう。まあ、ゴキブリでも出そうな店ではあった。それにしても噂通りの素早さである。あれでは叩いて殺すこともできないだろう。あんなのが家に入ってきたらどうすればいいのだろうか。やはり罠を仕掛けるしか手はないだろうか。ところでゴキブリは昔からいたんだろうか。数十年前は家ネズミがいただろうから、ゴキブリなんていなかったんじゃないかと思うのだが。ネズミが日本家庭から一掃され、それまで細々と暮らしてきたゴキブリが、チャンスとばかりに日本家庭を侵略しはじめたのではないだろうか。まあ、どっちがいいとは言えないが、ネズミとゴキブリを比べたら私はネズミの方がいいなあ。
14.ショウジョウバッタ
ショウジョウバッタといえば、体がちょっと角ばっている変わった形のバッタである。体長は2cmくらいだろうか。少なくとも北海道ではそんなもんだった。ところが、関東に来て10年、先日衝撃的なショウジョウバッタを目撃した。体長は10cmはあったのではないだろうか。こっちの虫は何でもサイズがでかいが、これには参った。足の長さにはびっくりである。私の中のバッタの常識を覆した出来事でした。