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FEMA

2002年12月18日

1 はじめに
 我が国では、従来から危機を想定した準備がなされているところであるが、様々な事例を通し、改めて危機管理の重要性が強調されている。また、地震を想定した当県の防災体制は、他県に比して充実しているが、様々な課題があるのも事実である。一方、健康福祉の分野でも、薬剤による健康被害・科学的テロ・大規模な食中毒などを経験し、危機管理がクローズアップされてきていた。健康福祉部においては、県防災体制健康福祉班の機能充実を目的に、平成11年度より健康危機管理会議を設け、アタックチームを結成して対処しているところである。
 アタックチームは、部技監直轄で食中毒・感染症・医療各分野の緊急事態に対し、一早く情報収集と事態の査定をして、本庁との調整を図るとともに、現場健康福祉センターの業務を支援すべく、編成された。この考えは、目的志向であり、FEMA(Federal Emergency Management Agency:連邦緊急事態管理庁)を中心に取り組まれているアメリカ合衆国における危機管理の思想を取り入れたものである。このFEMAを直接学習することは、我々に重要な示唆を与えてくれると考え、今回の研修を希望した。

2 アメリカ合衆国における危機管理
(1)連邦政府の危機管理体制
 FEMAは、ワシントンDCに500人の常勤スタッフと全国10ブロックの地方事務所に計2400人の職員を有する連邦政府の組織である。長官は大統領により任命され、連邦緊急事態宣言が出された場合、その対応について権限と責任を持つこととなる。
 歴史的には、1960年代から1970年代、合衆国では縦割り行政のために災害対応に多くの問題が生じた。これらは、主に調整において顕著であった。この弊害を無くすため1979年、FEMAが設立された。しかし、1980年代には冷戦のため、主に核戦争に対する市民防衛に主眼を置いて活動した。ところが、1990年前後の大規模なハリケーンへの対応が遅れたことから、組織の見直しが図られ、1993年以降「原因に関わらず全ての緊急事態(災害)に対する調整を行う」本来の使命が再認識され、現在の組織となった。
 FEMAの使命は、@災害や緊急事態から国民の生命や財産を守る、A災害から道路や橋等の重要な社会資本を守ることである。これらは4つの計画領域(緊急対応・復興・被害軽減・準備)に分けられている。災害をサイクルとして考えると、図1のように対応・復興・被害軽減(危険軽減・予防)準備という段階を経て次回の災害に至る。これらは互いに関連しているが、このサイクルを直接取り入れることが、FEMAの組織としては、実用的であるという。
 まず、対応のフェーズを考える。災害が発生した場合、災害現場に真っ先に出動するのは、地方の消防・救急・警察などである。現場の状況から、地方政府の危機管理官と首長は自分達で処理できるかどうか判断し、必要があれば、州政府に支援要請する。州政府が要請に応じた時点で、指揮権は州知事に移り、州の責任で対応する。同様に、州政府で対応困難な場合には、連邦政府に要請が上がり、大統領が緊急事態宣言をした時点で国家の責任において対応することとなる。実際、上位機関はより大きな資源や権限を持つため、合理的な対処法といえる。注目すべきことは、これらの上下の組織において、実務的に最も重要視されているのが、迅速な対応と、個人的信頼関係であるということである。これは、普段から災害準備に当たり上下機関の連携が密であり、信頼関係を構築することを重要視しているため、支援の必要性が、危機管理官の連絡だけで判断できるというのである。驚くことに、カリフォルニア地震の際には、広範囲の災害地区のうち、地域の危機管理官から連絡が無いということが、通信の途絶を含む大きな混乱を表していると判断できたというのである。また、オフィスにいる職員に緊急事態宣言の必要性の判断権限が順位化されており、迅速な発動例として、オクラホマ連邦ビル爆破事件においては、テレビ放送から事態を補足し、現地の状況を確認し、その時オフィスにいた優先順位第6位の方が大統領に緊急事態宣言をするよう進言したという。この際、災害現場のすぐ前のビルに現地本部を設営しているが、数時間で一連の対応が出来ている。
 回復では、直後・月・年単位での活動が行われる。具体的には、道路や橋の再建、個人への経済援助・失業相談・法律相談、マスメディアによる広報活動などである。注目すべき点として、相談電話番号が一元化されており、とにかくそこで困ったことを相談すれば、必要なサービスを教えてもらえることが上げられる。
 被害軽減活動としては、災害に強い建築デザインの提供、地方の災害予防活動に対する支援、洪水ハザードマップの作成とそれに基づいた価格の保険提供、大衆教育などが行われている。図2-3は洪水対策例である。洪水被害を受けた地区の個人住宅再建に関して、FEMAは図3のように予想される水位分だけ嵩上げした住宅デザインを提供し、安い保険料を設定している。これで、次回の水害の被害が軽減される。広い国土全ての治水を完全に行うことは困難であり、個人の住宅はあらゆる場所に建っている現状を踏まえれば、非常に合理的な手法であると感心した。
 準備としては、FEMAは地方では州政府の緊急事態管理事務所の経費を負担しており、中央では、他の省庁やNGOとの準備作業をしている。EMI(Emergency Management Institute)では技術研究を行い、NTSC(National Emergency Training Center:国立緊急事態訓練センター)では、年間10,000人を訓練している。NTSCでの受講は無料で行われているが、州や地方政府での対応能力向上が緊急事態への適切な対応につながると考えた連邦政府の支出であるという。
 これら全ての対応は、FRP(Federal response plan:連邦緊急事態対応計画)によって合意されている。FRPは各省庁が災害時に担う役割や活動を規定したものであり、全ての省庁で合意されたものである。文書は膨大なものであるが、表1の如く、災害時に必要な機能を需要という視点から12に分類し、主に対応する官庁を規定し、他に協力すべき官庁が規定されている。ここで注目すべきことは、この12のESFは、あくまで需要に視点を置いた実用的な分類がなわれているということである。つまり、ESF8(保健医療サービス)とは、必要とされるサービス内容そのものを言っている。業務範囲は、保健医療サービスの必要性の評価、保険審査、医療救護要員、医療器機や備品、患者の避難、入院救護、食料や医薬品の安全、作業者の健康と安全、放射線・化学・生物上の危険物質に関する相談、精神医療、公衆衛生情報、病原菌管理、汚水の廃棄、犠牲者の確定や死体安置、獣医療と規定されている。主務官庁であるHHS(Human Health Service:厚生省)はNDMS(National Disaster Medical System:国家災害医療システム)等を構築し、国防省、在郷軍人局など13の機関がそれを支援する。
(2)ESF8とHHS
ESF8の中心となる医療サービスを担当するにあたり、HHSでは、NDMSを策定している。これは、自然災害・交通災害・テロリズム・技術的災害に対し、連邦政府各省庁・地方政府・民間部門・ボランティア等が協力関係を結び、被災地の医療支援・軍事事故への支援等を通してFRPを支えるものとなる。
 具体的な活動範囲は、被災地での医療対応・患者の避難・適切な医療の提供である。災害が起った場合、NDMSは被災地にチームを派遣し、必要なサービスを評価する。ここで必要と判断されたサービスを用意することとなる。
 この中で、被災地に直接赴いて保健医療サービスを提供するのがDMAT(Disaster medicine assistant Team:災害医療支援チーム)である。これは医師・コメディカル合わせて35人からなるチームであり、トリアージ・医療提供・患者の転送支援を行う。装備は、72時間分の活動に充分な装備、14日間分の保健医療サービスに対する準備をしていくことと規定されている。現在、全米規模では、25のチームがあり、その他に特殊な要請に応じるため小児専門チームなどが結成されている。現地での保健医療サービスはDMATの使命であるが、転送させた患者を受け入れる病院は別にNDMS協力病院として別途登録されているため、DMATの使命は現地からの患者避難で終わる。
 DMATは、それぞれの地方政府が設立し、ボランティア(有償)が募集される。HHSでは、その技術的支援や訓練、物資購入を補助している。メンバーの教育プログラムは、インターネットでも受講できるようになっており、各職種に必要な事項が教育される。医師に対するプログラムでは、トリアージ、呼吸管理、クラッシュインジュリーといった救急災害医療学から、小児や産科、眼科といった専門医学分野、緊急輸液や創傷処置、骨髄針投与といった処置法、テロや生物化学物質、障害者等への配慮、避難者への配慮など災害現場特有の事項というように現場活動に直接役立つ事項が効率的に取り上げられており、計110時間のプログラムとなっている。また、非医療項目として、全てのスタッフに必要な知識は、災害対策総論から指揮命令系統といった組織論、派遣前に本人や家族が用意しておくべきことや、個人用品の準備や現場での注意事項など個人事項、担架やストレチャーの扱いなど医療補助事項と、やはりきめ細かい項目に分けて教育されている。
 米国では、州毎に医師の医療行為の許可が行われているが、連邦職員となることで、全米での医療行為が可能になり、また、活動中の事故等に対する補償も可能になる。国家的災害時にはFEMAの要請によって、HHSが招集・展開するが、同時に同州内の緊急事態にも出動し、この場合には、保健医療サービスの中心となって活動する。また、最近のトピックスとして、災害直後の人命救助と同様にPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス症候群)も注目されており、2週間の活動期間では大切な問題になっているという。
 この展開に関して、米国らしい分担が行われている。前述の如く、HHSはNDMSにしたがってDMATを派遣する。チームの現地への移動はESF1が、宿泊や食事の手配はESF7が担当することになる。このように各官庁は自分の専門分野のサービスをニーズに合わせて提供することで、効率的な対策が施されることとなる。

3 地方における緊急事態管理
 NETCでは、年間10,000人もの訓練を行っている。この中で、一番基本となるプログラムとして、危機管理官の基本研修がある。これは、3日間のプログラムで、危機感管理の機能、組織、活動を系統立てることや管理プロセス、特にチーム単位の必要性などを説明できるようになることが目的である。
 まず、ケーススタディーとして竜巻のビデオを見て、この小規模なコミュニティーに対してどのような影響を及ぼしうるか、被災直後にどのような活動が必要とされるか等について討論する。実際の例は、FEMAが充分に機能していない年代の事例であるが、直後の対応は比較的うまくいったのだが、瓦礫の撤去、融資支援や被災者支援センター等回復にかかる手続きが迅速に行われなかったために、地区の住民は生活の糧に困り、村を去ることとなった。これは、早期から一貫したサービスの提供や見とおしを持たなかったためにコミュニティーが崩壊するという教訓的な事例であり、危機管理が初期対応だけでは充分でないということを認識するのに充分な説得力をもっている。
 4つの計画領域を理解した上で、自分達のコミュニティーについて考えてみる。災害に対応するための資源が地域レベル、州レベル、連邦レベルで存在するのかを知ることで、自分達の対処できる災害の規模を想定できる。それらを使って、指揮命令・コミュニケーション・警告・広報・避難活動・集団ケア・保健医療・資源管理の分野についての具体的方法が考える。この上で、援助を要請する際に重要な援助の量・場所・種類・時間を想定してみる。この作業を行おうとすると、地域の危機管理官に必要な地域情報の膨大さを認識させられる。
 このような、問題意識を持った上で緊急事態管理の概念や定義などの講義を受ける。
 すなわち、緊急事態管理の目標は、人命救助・負傷者の発生防止・財産や環境の保全であり、原因は、自然・技術的災害に留まらず、暴動やテロ全てを含んで考える。また、4つの計画領域について十分に理解する。
 個別事例から総論事項を理解した上で、統合的緊急事態管理法とIMS(Incident Management System:災害指揮命令システム)について学ぶ。当初ICS(Incident Command System)と呼ばれたIMSは、予め用意されている事前計画と現場での組織化された対応のための体制のことである。災害時には、Command Postと呼ばれる現地対策本部が全ての現場活動を統括する。法律やFRP、条例や協定、非公式の同意や協力関係すべてにおいて、IC(Incident commander:現場指揮官)からの命令に従う。ICの下には、実動・補給・企画・財務部が置かれて活動する。これらは、モジュール化されており、どんなに大きな災害であっても、組織体に変化は無い。例えば、企画スタッフには、土木・建築技術者、運輸技術者、水道技術者などが含まれており、専門的査定が行えるようになっているが、災害規模が大きくなれば、複数のモジュールが参加して、担当地区を分担するだけである。このモジュール化は、共通の用語・認識において、非常に重要であり、前述のDMATにも同様の考えで組織されていることが解る。
 
4 考案
 FEMAのBosner氏によれば、日本の災害対策における機器・技術は、非常に高度でアメリカ以上である。当県の地震監視体制が東海地震を予知し、警報発令後に地震がおきれば画期的なことであり、防災計画も大変すばらしいものだという。また、特に防災局の専任職員体制も他県に無い取り組みとして注目したという。しかし、予知できなかった場合には、やはり調整の問題が起きるのではということも指摘している。ヘリコプターによる広域搬送体制など、実効的な支援体制の充実に向けてさらに努力する必要があると考えられた。
 また、我が国の体制の弱点として、行政の配置転換により知識や技能、信頼関係が深まらないことを複数の方に指摘された。2-3年で、一定の基本知識と経験が蓄積された上に、十分な相互理解を深めなくては、いざというときに連携できない。私も技術職として、今後は特に国内の災害医療・HHSやNDMSの動きについて継続的に勉強していく必要があると考えた。
技術的な面として、DMAT隊員の教育は、特に注目すべきであると考えられた。インターネットによる教育方法も合理的であるが、隊員の知るべき事について明確に規定し、教育プログラムとしてまとめてあることで、隊員以外の人に対しても理解しやすくなっている。内容も充実しており、緊急処置として日本では一部の小児救急の場でしか行われていない骨髄針投与も取り上げられており、実務的であると考えられた。当県における救護にも積極的に取り入れるべきだと考えられた。
旅行見分として、テロ被害にあった国防総省とともに、ワシントンDC市内のあらゆる連邦施設の前に置かれたバリケード(図4)が、同国の緊張を示しているように感じられた。
FEMAを中心としたアメリカ合衆国の危機管理体制を研修した。当県においても、緊急事態における調整機能と実務能力をさらに高める必要があると考えられた。
(研修に協力して頂いた方々に感謝します。)      (研修:平成14年2月  原稿:平成13年度県職員研修報告より改変) 

表1 ESF(緊急事態支援機能)と主務官庁
ESF番号 機能 具体的な活動内容例 主務官庁
ESF1 交通・運輸 物資や人員の輸送 運輸省
ESF2 通信 通信手段の確保 通信庁
ESF3 公共事業 道路や橋の復旧作業 建設省
ESF4 消火 消火活動 消防庁
ESF5 企画情報 情報収集と企画 FEMA
ESF6 大衆ケア 避難者への炊き出し等 赤十字
ESF7 物資援助 必要物資の調達 総務省
ESF8 保健医療 保健医療サービスの提供 厚生省
ESF9 特殊救助 人命救助活動 FEMA
ESF10 有害物質 環境汚染物質除去等 環境庁
ESF11 食料 食料の調達 農務省
ESF12 エネルギー エネルギーの調達 エネルギー省


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