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水冷々風颯々

みず れいれい かぜ さつさつ

2004年7月19日

 医者の倫理を勉強する時、古代ギリシャの「ヒポクラテスの誓い」を学びます。

 『すべての男神と女神に誓う、私の能力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。……
私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。
頼まれても死に導くような薬を与えない。
純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。
いかなる患家を訪れるときもそれはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。
女と男、自由人と奴隷の違いを考慮しない。……』


 この頃、この文章が、さらに身近に感じるようになってきました。

 ヒポクラテスは、血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁という、四つの体液説を唱えました。
これは、ギリシャ時代の、火・水・空気・土という世界観に繋がっています。

皆さんも良くご存知の通り、板塔婆の上部には、切れ込みが入っていますね。
これは、宇宙を構成する五元素、空・風・火・水・地を表しています。
四つと五つの違いこそあれ、時代を超えて共感しあえる世界観が、ここにはあります。


 さらに、体には元々健康に戻そうとする自然の力があり、医者はそれを手助けするというのです。
私たち禅宗では、一人一人が仏様であり、その事に気付くことを手助けするのが、和尚の仕事と考えています。
その人の個性や状態によって薬が違うように、和尚の言葉も相手や、その時々で変わります。


 医者が患者様のために一生懸命である事は当然として、一生の生き方として誓いを立てる事は、
生活全体を「禅」と捉える私たちの生き方に共通するものです。


古代ギリシャには、沢山の神々がいらっしゃいました。
その神々に誓いを立てたヒポクラテスの姿は、私たちのお釈迦様の姿に重ねる事が出来ると思います。
私たちも、お経の回向で「十方三世一切の諸仏諸尊菩薩」と祈ります。
その時、ヒポクラテス先生は大先輩の偉大な医者として、お寺の開山様や達磨様と共に、並んでいらっしゃるように思えます。


 「水冷々風颯々」とは、谷の水は澄み切って冷やかに、風はかすかな音を立てて清く涼しく吹いている様を表した言葉です。

暑い夏の日、「暑い暑い……」と言っては、不快感は増幅します。

「水冷々風颯々」と言って、水や風の感触を確かめてみてください。
暑さが和らぐと同時に、私たちの体の中にある、自然治癒力や仏様に気付くことが出来ると思います。

(細江町仏教会報 道標 2004年 お盆号より 一部改変)


合掌
      静岡県引佐郡細江町気賀1022-1  瑞光山 東林寺 小住 木村雅芳