短歌 オレンヂ

 

 

青木 綾子(大阪)

夕暮れの天神橋のたもとにてわが乗る船はお羽車講

車窓の桜花爛漫の野に山に青春切符の旅を楽しむ

入門の子らの瞳は輝けり我に与えし神の恵みよ

我が娘還暦迎え若々し時代(とき)のり越えて女の寿命(いのち)

 

 

 

石田 鉦子(大阪)

宿坊を訪ねる旅のテレビみて坐禅くみし昔よみがえりなつかし

柿作り日本一の名人は昔の恩義いまだにとどけり

ゆきずりに笑みかわすなりみたり児よ世紀をになう平和の天使

盆法会今年も亡き人むかえたる無言の中に語り合いたり

 

 

 

 

植田 和子(大阪)

夕暮れの生駒山月ぽっかりと浮び来てこの庭照らす

花器と言い花台と言えど律もちて活花展の仏に詣づ

床の間に初孫の結納飾られてこの大安に慶と寂知る 

何一つ迷う事なくついて来たこの人生をいとしく偲ぶ

 

 

 

 

宇都宮 君惠(大阪)

悲しみを吐き出すように八重に咲くアザレアの紅庭に燃え立つ

内川を日々眺めつついつよりか我が胸内に南蛮船泊つ

はらはらと落葉舞いくる平城山の老は母はおわす家秋深みゆく

塗りゑとう楽しき学びもくもくとわれ生れしより初の試み

 

 

 

  

 

奥村 美津子(大阪)

演奏者大自然の中の仮舞台優雅な衣装の二人は映えて

生駒にてクリスマスのコンサート山も出迎え風も穏やか

夜中ふと「可愛いい野菊うす紫よ」メロディに覚醒 幼児にもどさる

平和なり舞う花びらを身に受けて幼児と小犬ころびつ駆けいる

 

 

 

こ林 馨子 (和歌山)

真っ黒に蟻集まりて如何にして運び行くのかピーナツひとつ

傘ありて祖母頼り来し病身の子へ差し掛ける春の雨の夜

置き去りし日の吾子を見ゆ夕暮れの親待つ鴨の小さきひとり

日本海荒れる秋の夜暖房の過ぎたる宿よああ我が家良し

  

 

 

 

坂井 千尋(大阪)

若き日に読みたる作家ジョン・ダワー老いしポートレートに今の笑みあり

米寿とう祝宴受けぬ六人の娘ら育みし乳房老いたり

見馴れたる写真の笑顔優しかり実在の無き君の恋しき

大屋根の下に幾世も経て古りし系図に残る遠祖の名読む

 

 

 

 

沢田 冨美子(大阪)

考える事さえ忘る極暑日は先送りする家事と雑用

安治川に今年も対岸威嚇してアヒルボートへ軽鴨親子

その昔泥濘(ぬかるみ)広ごる土地(つち)なれど東京は今世(こんせ)に誇る大都会なり

「辞本涯」空海が行く唐の国東シナ海暴風あらし厭わず

 

 

 

 

鈴木 彩子(大阪)

同僚の訃報を伝う友人の電話ありぬとあとは無言に

夏野菜しゃきしゃき真水濯ぎ上げ塩ひとつまみ茹でて食する

手を清め蝋燭線香供えたり賽銭上げておみくじを引く

煙草税増税案は消費税上げたり金利下げると同じ

 

 

 

 

 

鈴木雄二郎(東京)

君慕う若き乙女の美しきその御姿を我はおがまん

夏草のしげれる野辺の薄月夜星のながれに人の世をみる

関八州下弦の明かり三味の音をたたずみて聞く夏の宵かな

夏の花こころ慕いし父母の墓前の石に我は語りぬ

 

  

 

 

中堀 為男(滋賀)

雑草のなかより選んで蕗を刈る五月の食卓われの好物

衝撃に時計が止まるそんな夜は夜明けが長い冬の日なりけり

寒き日は連理の枝に鈴をつけ心豊かになりしひととき

朝顔は赤・白・青と花開き心のとびら明るむあした

 

 

 

 

   

辻 貞男(大阪)

終電車急ぐ家路にかわずの声人恋しとや妻恋となく

早春の雨滲みゆきて土草の胸に響くはよろこびの賦うた

ふとかかる香に佇めば木犀の語る秋風沁み通りゆく

里山ゆ木{こ}のした蔭の鳥の音やそよと春風生きるここちす

  

 

 

 

 

西 真理子(大阪)

青いはな白い花たち静謐な傘寿のともの個展会場

雨上がりパン買いに行くあぜ道はきらめく花の宝石の帯

この悩みダイナマイトの一発で終りにしたいリセットしたい

政権の交替せしも世の流れ舵とりにくく悩める首相

 

 

 

 

 

樋口 淳一郎(福岡)

銀の砂さらさら沼の対岸に朝鳥歌う我ら黙せり

鴉さえ空にもみあう愛憎の劇をもちつつ生きたるものを

馬小屋に金星かかり初める頃ひときわ惜しむ野辺の明るさ

貸し出しを待つ図書館の床の上淡き影あり黒揚羽舞う

 

 

 

 

 

西野 貞子(大阪)

連日の三十六度の熱暑には蝉さえ声をあげず休らう

曾孫に祭壇の灯ともされて明治の刀自の旅路やすけく

政権の交替せしも世の流れ舵とりにくく悩める首相

黄金の稲田の間のそばの花何れも好みし大和民草

廃船に菖蒲植えしは人の知慧ものみな慈しむ心豊けし

 

  

              

 

 野瀬 敬子(大阪)

家ごとに今は盛りの鉢の花梅雨の合間の買物楽し

開け放つ窓辺に近き木犀の香りにベスト編む手止まりぬ

ひたすらにメモにとどめり言の葉の実るや否や短う歌た楽しかり

ベランダで見ている雲脚速くして雨脚も見ゆ高槻あたりか

 

 

 

 

 

前川 初子(大阪)

背中からはみ出すほどのランドセル背負って曽孫は一年生

冬枯れの梢にゆれる残り葉の氷雨にぬれてしづくきらめく

緑葉が移ろいみせる飛火野に日だまり求め鹿のむれおり

三千院庭に二体よりそってわらべ地蔵の笑顔愛らし

 

             

 

松井 敬子(大阪)

朝焼けを架線に黒く向き向きに礼なすごとく鳩の停まれる

なまなかに過ぎ来しわれは八十越え手仕事に生く姉を見上げる

その昔の母在ませし日の打ち出しの平なるになりたる有次の銅な鍋べ

採り置きし藤の実ひとつ弾けるに猿ましらのごとく冬の部屋這う

 

 

 

   

 松井 寛子(大阪)

サプライズ期待しつつの誕生日 夜更しして待てど隙間風吹く

抱き上げし小さきからだ熱帯びて計る時のま待つさえ長し

柿の枝成りし実多く落しいて父ちゃんお見事名キャッチャー

暑さ増す梅雨の真夜なか来る陣痛もうすぐ会える痛みの向こうに

 

 

  

 

松井 雅文 (東京)

一人分増えた荷物がカラカラと音立て「のぞみ」はいざ東京へ

コウノトリ舞う大空がよみがえる腹部エコーの君の姿に 

 チューリップ咲く頃わたしは花嫁になるのと植えた芽出しの待受画面まちうけ

学童こどもらが君を呼ぶのは平仮名かふとそう思う「まついせんせい」

消去法以外の世界に住む君は何気ないこと生き生きと言う

   

 

 

森 千恵子( 愛  知 )

「考える人」の彫刻大揺れの若葉影浴びぐらぐらとある

農道の緑一色に土筆生え雨後は文目を一新したり

瑞鳥はひらりと立てり鳳凰の一対向き合う初春の空

湾岸に小舟つぎつぎ集うなか昼の花火の音がはなやぐ

 

 

 

  

 

森 洋子(大阪)

潮みちて深み増しくる裏の川 川面揺すりぬ姿なき魚

合格の大きな声で電話せし孫の声にも春を感じる

ことことと記憶の中を風が吹くベランダの裏の戸棚揺らして

透明なエレベーターに上りつつ寝屋川湖畔の紅葉見おろす

 

 

 

 

 

森永 道子(大阪)

昼どきのおひとり様の指定席カウンター隅で鴨そばすする

山肌にここに居ますと咲くさくらこの時とばかり主張せるなり

独り居の楽しむほどの余裕なく悶悶と過ぐ風花舞う午後

夫・母の呼び掛けくれる声に似て虫鳴き始む長月十日

 

  

 

 

 

矢部世紀子(愛知)

世界中みな驚きしWカップ本田選手の技に歓声

ただ一度東大校舎ゆっくりと大樹の息吹き聞きつつめぐりぬ

荒あらとまたやさしげに鳴る能登よああ太い虹我を迎える

わが庭の砂利敷きつめし白土の灯に見紛う十五夜の月

 

 

 

 

 

吉田 うた(京都)

白河院山水もようの庭広く池の緋鯉の美しき夏

白梅の花咲き初めし立春の狭庭に雀二羽きて遊ぶ

ひとひらの雲だにも無き天界に磨き抜かれた中秋の月

笹舟を小川で流した幼日の友の笑顔の春懐かしき

 

 

  

 

野澤 正子(大阪)

雨にぬれ風に吹かれて來竹桃しろき涙のこぼれてやまず

きさらぎの空に漂う甘き香り夢追いひとよ醒めぬまま走れ

群れなせばまず携帯に閉じこもる若きらにようっと声をかけおり

流星群もとめて夜半の空見ればオリオン座輝く宙は青めり

 
Essei-

 

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