講演内容(9月11日精神科ボランティアサークル虹の会主催)
3,年齢によるうつ病の違い 思春期、中年期、老年期
5,病気じゃない「うつ状態」と病気の「うつ状態」の違い 悲哀と鬱病
6,ようこそ「うつ」へ 良くなると言うこと 忘れてはならないこと
追記 薬について
精神科の病気について聞くとき, 一般の人は軽いときノイローゼ、少し重いときうつ病ですか?とたずねる事が多い。知らないで当たり前ですが最初に精神科の病気の豆知識について話します。
元来精神科の病気は鬱(メランコリー)と長い間言われてきた。人類に精神科の病気が記載されてからギリシャ時代 それからいろいろ試行錯誤され100年前にやっとクレペリンという人が整理したところ。今も整理が続いている状態。
でも精神科の医療を頼りないと思わないでくださいね。この40年で治療は進歩してきていますので。負け惜しみじゃありませんが、内科だって胃潰瘍の原因を間違っていたみたいなんですから。ストレスや体質といっていたのが細菌じゃないかといわれだしている。
整理された内容 原因と原因がわからないものは経過から分類
外因と内因 (心因を含めて)
(器質性、感染、アルコール、外傷)梅毒、脳炎、アルコール中毒
(心理的な原因) 神経症、(ヒステリー、強迫、心気症)など
(それ以外、遺伝?体質?)鬱病、分裂病、不安神経症など
しかし最近はまた原因による分類ではなく、症状を中心に病気を分類する方法に戻っている。アメリカの精神医学のDSM-4等。(詳しくは訳本が出ているので参照してください)
心の天気と鬱(うつ)
心の天気は喜怒哀楽 喜び怒り哀しみ楽しみなど様々な感情に彩られている人間の気持ち 喜びはさしずめ雨上がりの晴れ間 怒りは雷や大きければ台風 哀しみはしとしと降り続く秋の雨 楽しみは五月晴れ等でしょうか。
人は毎日いろんな感情を繰り返し持って生きている。
私も 嬉しいこと 医師として患者さんが良くなったと笑顔で来てくれるとき。
子供が久しぶりに帰ってきたとき、親のことなんか忘れているだろうと思いながらなぜか嬉しい。→しかし、かえってしまうと寂しい。
怒り 以外と短気な私 車に乗ると人格が変わる 追い越し車線をゆっくり走る車 道を譲らない 腹を立てて追い抜く 見るとおじいさんがおばあさんと孫を抱いてゆっくり運転 俺はなんて短気なんだ 恥ずかしい そんなに急がなくてもいいのにと反省してうなだれる
医師として 薬害エイズの問題 厚生省の官僚が証拠を隠していたのがわかる 同じ医師がエイズの危険を知りながら教授の権威で皆黙って従ってしまう 大勢の若者がエイズになって死の危険と戦っている → 同じ医師仲間が隠してこんな悲惨な問題を引き起こした
哀しみ 最近義父の死という悲しい出来事 明治生まれの義理堅い生活のきっしりした人 自宅で死にたいという本人の思い しかし医療の発達はそれを難しくしている 最後まで延命医療 家族はそばでゆっくりと死を迎える人に気持を付き添えない→重苦しい気分
楽しい 釣りに行って大きな鯛が釣れた 仲間と楽しく騒ぐ。
今の時代の時間と気持ののゆとりのなさが目立つ。
では鬱はどんな天気なのでしょう
鬱ってわかったようでわからない 鬱はどんな感情、気持なのか
鬱を国語辞典と漢和辞典で調べてみると正反対の二つの意味
茂る。叢がる。茂って盛んなる貌。
かぐわし。育つ。盛んなる気。
塞ぐ。心がむすぼれふさがる。
沈む。滞る。憂う。心が憂い滞る。
と育つ盛んなることと沈む憂うの二つ
鬱蒼 樹木が青々と茂れる貌。また気の盛んなる貌。
鬱屈 心結ぼれてのびず。
鬱々 志を得ずして気の塞がる貌。
鬱とは天気で言えば雲に覆われた状態 何かに覆われて中が見えない状態 しかし時によれば雲が晴れる時良いときと悪いときに分かれる
鬱は悪いばかりでなく生かすこともできそう 最後の方で鬱を乗り越えたときのことを話したい
感情の鬱はいろいろの感情の間に現れるもの。 鬱病は感情を移すことができなくなり持続してしまうもの。
愛するものを失ったときに感じる感情の一つ 喪という心理過程と関係してくる。
1)鬱病の基本症状 憂鬱な気分 意欲の低下(やる気が出ない) 生き生きした気持が持てない 頭が重くて考えが働かない 感情がわかない
いろいろな症状 睡眠障害、食欲不振、各種の身体症状(肩こり首のこり倦怠感)、焦燥感、制止症状(思考、意欲、感情)、悲哀感、日内変動、 主要な妄想(貧困、罪責、心
気)、希死念慮(自殺)
2)分類(分け方)のいろいろ
(1)病気の現れ方から 単相性と二相性 鬱だけと躁と鬱を示す二つ 圧倒的に単相性が多い。
(2)状況因論 引っ越し(転勤)鬱病、荷下ろし鬱、消耗鬱、昇進 生きている大事な状況が変化したことがきっかけで病気が始まる。
(3)産後鬱病 マタニティーブルーのように短期で回復するものと、鬱病になるものがある。
4)仮面鬱病 表面では身体に症状を訴えるため鬱病が隠れていてわからないことがある。
1)思春期、青年期のうつ
症状の中心 悲哀 : 陰気、うっとうしい、寂しい、空虚感
失いゆく少年の日々 母(親)からの自立 期待を背負って(大人としての役割を引き受けていく)
悲哀 対象を持っていてそれを失ってゆく 悲しさと共に愛(いと)しさを失う時期
人生への期待と可能性そして逆にそれを失う絶望や不安を感じる
思春期の鬱状態は、まだ人格が完成していないので、鬱病ではなく気分失調とした方がいいという医師もいる。
2)中年期、壮年期のうつ
症状の中心 制止症状 : 仕事をする気が起こらない、億劫、根気が続かない、集中力がない、決心が付かない
背負っている物の重さ、人生の役割の重さ
昇進鬱病(男性)、引っ越し鬱病(女性)、
罪責感が大きい 自殺 増加 中高年 青年期は取り返したいという攻撃性だが、中年期は自己の作ってきた価値につまり攻撃性が自分に向かってしまう
3)初老期、老年期のうつ
症状の中心 焦燥感、不安感:いらいらする、落ち着かない、じっとしておれない 先案じ、これまでの人生の後悔、戻れない絶望
人生の黄昏、獲得した価値の喪失
孫がどうなるのか、自分はどうなるのか。将来の不安と閉塞感。
私の経験
診療している人 約300人 内うつ病の人約60人 5分の1
思春期青年期 10人 中年期 20人 初老、老年期 30人
鬱に陥るきっかけ
1)青年期 結婚と家、父母の健康と自分の生活、子の病気、成長の遅れ、子育ての不安、仕事と子育て、姑
2)中年期 男性 仕事と身体の病気、仕事とつきあい、転勤、父
女性 子の結婚の遅れ、家と仕事、夫(協力的でない)との関係、姑
3)初老、老年期 孫の病気、孫の世話、夫の病気、介抱、死、退職、身体の病気、衰え
鬱病になりやすい人って特徴があるのか?
メランコリー性格(テレンバッハ) 几帳面、義務感の強さ、他人への配慮
執着性格(下田) 執着性、熱中性
循環性格 社交的、快活、肥満型 循環型(二相性)
鬱病の人の几帳面さは社会的評価が高いもの 期待に応えてゆく生き方
人生が変化することに対して、自分の得た物を失うのではないかと言う非常な執着を几帳面さの裏に感じる
秩序の世界が崩れることに動揺する
こんな性格は生まれつき?
社会、時代に関係する 望まれている人格、性格 まじめ、几帳面、他人に気遣い 自己主張は控えめに生きる。
中年以上の人に多く見られる
戦後の高度成長時代 期待される人間像
戦前の富国強兵 欲しがりません勝つまでは 忍耐自己抑制
(cfジャワ、パプアニューギニアでは鬱病が極端に少ない)
青年期はまだ性格は完成されていない
時代は多様な在り方に向かっている?
過剰な自己抑制(受験戦争)と自己抑制の欠如(自分の自由、他人は関係ない)
痩せ症(摂食障害) 境界例 衝動性の高まり 家庭内暴力
1)悲哀−喪
健康なうつ状態は悲哀の過程の中で一時期体験されるもの
病気のうつ状態は感情の流れが無くうつ状態に留まってしまうもの
正常な悲哀 かけがえのないもの(愛するもの)
1,ショック 身体の苦痛 深いため息、気力が出ない、お腹に力がない 何からも遠ざかりたい
2,死の事実の否認 心がその人のイメージに心が満たされてしまう
3,怒り 罪悪感 自分の不注意、しなければ良かったことを思う
4,敵意の反応 他人に煩わされたくない 焦燥、怒り
5,回送と抑鬱 日常行動がとれなくなる
6,受容 事実をうけ入れる
自己でかけがえのない人を失った喪の過程
1,ショック
2,死の事実の否認
3,怒り
4,回想と抑うつ
5,死別の受容
キュブラー・ロス の研究「死ぬ瞬間」
自らの死 ショック、否認、怒り、「取引」、抑鬱、受容、デカセクシスの過程
まとめると
喪の過程
1,ショック
2,死の事実の否認
3,怒り
4,回想と抑うつ
5,受容
5つの過程を必要とする
日常を離れた時間が必要
理解し共に過ごす人の存在が必要
悲哀の過程を妨げるもの、過程に必要なもの
日常的業務が哀しみを紛らわすというが、それは現代の欺瞞 時間に追われ、規定される生活
悲哀は日常の流れを断ち切って、すべての時間をしばし止めてこそ深く体験される
死者と遺族の時間は、日常の業務の外に出てみようとしない者の時間とは違っている
対象喪失
(1)乳児の研究 スピッツ 6ヶ月の乳児から母を奪われた時 乳児はアナクリティック抑鬱に陥る 時間が経過するごとに生気感情が失われてゆく
(2)青年期 失恋 ショック、否認、怒り(ためらい自殺)、回想と哀しみ、抑鬱、徐々に時間をかけて受容と許し、再出発
(3)中年期 自己の作ってきた価値が問いなおされる。自己規定と可能性の喪失。反省と悔恨。
(4)老年期 病気に出会う事が多くなる 身体の衰え、健康の喪失。未来の時間の喪失。
2)うつ病の理解
喪の過程を持てない 感情を抑制した生き方(押さえ込んでしまう) 突然の鬱状態
性格の形成と選んだ生き方
初期 母からの「見捨てられ感情」に対する不安
順応、従順、社会にも受け入れられる性格、他者配慮的
自己抑制的 喪失を怖れる生き方
分裂態制から抑鬱態制へ 児童精神科医 メラニークラインと言う人が観察して理論化
良い対象(自己)悪い対象(自己)の分離から統合への過程の心理が繰り返されて発達する。
悪い対象への攻撃が良い母への攻撃でもあることに気づく→罪責感、喪失の怖れが鬱病の心理の基本になっている。
青年期 自立 親との心理的別れの達成 抑鬱感の克服
ピカソの青の時代 父は画家 母の愛情 パリに出る 自分の絵を見つけだす 女性とので会い 父、母からの自立
例 憂鬱が青年期の飛躍をもたらしたもの
湯川秀樹 劣等感を土台にした発見 中間子理論でノーベル賞 子供の時から大きな憂鬱があった。 兄弟が優秀 東大 両親の期待も他の兄弟に向いていた 誰も行かない理論物理へ進む
豊田喜一郎 豊田織機の父を持つ 母との別離 父と違うところで成功 誰もわからない自動車の製造に取り組む
1)良くなるということ
精神科医は何をしているのか 診察の流れ
鬱病を表面の状態だけを見て(体は何も悪くない、気持ちの問題だ)とまるで怠け者のように叱咤激励しないで欲しい。
基本
人の心の中で抑えられてきた感情を受け止めてあげる と診察の帰りには心が軽くなったという人がある。
人と人との感情、心の交流が大事な意味を持っていることを確かめ合う事が大事。
過程
(1)最初の面接でその人の気持ちを理解し受け止めることが大事
(2)抑えてきた感情の源を一緒に考えていく
抑えている意味、どうして抑えなければならなかったのか
(3)その人の人生の歩み 人との関係の取り方をふりかえる
(4)性格のできてきた過程(成長過程)
時代や住む社会の背景の理解
(5)今までの生き方を見つめた上で、少し違う生き方を考えてみる
(6)実際に新しい生き方を見いだし試みてゆく
2)忘れてはならないこと
人にとって感情は大事にするべきもの
心は天気のように喜怒哀楽、鬱いろいろあってこその心模様
それを生き生きと感じて生きていく中に生命の輝きがある
日本人は、明治以降、戦前、戦後を通して忘れ物をしてきたのではないか
物質を豊かにすることを追求するあまり、心の時間の流れを忘れてしまった
大きな事故、災害、の時にも遺族の心の時間を待ってあげられないで押し流してゆく
心にも身体にも、心身共に癒される時間と理解してくれる相手が必要なのに持ちにくくなっている
日本人は体験を生かし切れていないのでは?
治療法の中で薬物療法を言いませんでした
それは薬だけに頼って欲しくないからです
薬物療法は医師と相談して服薬を守って欲しいからです
軽い鬱病は内科の先生でも抗うつ薬を処方されますが、私としては賛成できません
たとえ良くなっても再発する心配があります。また鬱病になった経過がわからないからです。
予防できるようになって欲しいのです。
新しい薬も開発されています。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)というくすりです
これはテレビでの特集などで放送され、夢の薬のように言われました。
正常な人の鬱状態から病気の鬱病まで鬱の気分を明るく生き生きと変えてくれる薬と言われました。
しかし、残念ながらそうではないようです。
私達も製薬会社の人の説明会を持ちましたが、彼らも効果は今までの薬とさほど違わないと言います。
彼らの言う良い点は副作用が少ないと言うことです。
いままでの薬の副作用は、眠気、鎮静、低血圧、抗コリン作用(口渇、便秘、視力調節障害、排尿困難)などです。
この薬も副作用はあります
飲み始めに、吐き気、嘔吐、下痢など
倦怠感、ふらつき
参考書
1)日航機遺族の喪の過程「喪の途上にて」 感情を取りあげる加害者
2)日本の軍隊が中国でしたこと「戦争と罪責」 感情を失った行為
野田正彰著 岩波書店
3)「死ぬ瞬間」 死にゆく人々との会話 E.キュブラーロス著 読売新聞社
4)「ようこそ鬱へ」知られざるパワー フレデリック.F.フラック著 フォーユー日本実業出版社
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