脂肪酸のほんとの話

(98.2.14)

最近は栄養学が進み、次々といろいろなことがわかってきています。すると、栄養学の世界では、昨日までは健康によいと思われていたことが今日になって全く逆転するなどということがときどきおこります。ところが、マスコミや健康食品を売る人たちはそれらの多くの情報から都合のよい情報だけを取り上げ、いかにもその効果が科学的に証明されているかのように宣伝する場合があります。古い情報に惑わされないためには、常に最新の知識を取り入れる必要があります。今回は脂肪酸の話をします。

1)脂肪酸にはどのようなものがあるか?
2)リノール酸のウソとホント
3)オレイン酸の効果
4)α−リノレン酸、EPA、DHAの基礎知識
5)トランス型脂肪酸について
6)どの油にはどのような脂肪酸が含まれているか?

 


1)脂肪酸にはどのようなものがあるか?

ダイエットや栄養の話題でよくでてくるのがリノール酸などの脂肪の話です。正確にはリノール酸は脂肪酸の一つです。中性脂肪が分解されると脂肪酸とグリセロールとに分かれるのです。脂肪酸は炭素が連なった構造をしており、その中の二重結合の数で次のように分類されます。

1)二重結合のない物;飽和脂肪酸(SFA)

これは動物性脂肪に多く含まれ、多くとるとコレステロールを上昇させ動脈硬化を促進するためになるべくすくない方がよいといわれているものです。

2)一つだけ二重結合がある;一価不飽和脂肪酸(MUFA)

この代表はオレイン酸です。多く含まれる物としては、オリーブ油が有名です。

3)二つ以上二重結合がある;多価不飽和脂肪酸(PUFA)

有名なのは、リノール酸とリノレン酸でしょう。

 

2)リノール酸のウソとホント

一時期は、リノール酸はコレステロールを低下させたり、血圧を低下させる作用があるということで、あたかも健康食品のように受け取られて、多くとることが推奨されていました。中には商品名にリノール酸という言葉を入れて売っているものもありました。ところが、最近ではリノール酸を多く摂ることは問題があると言われるようになりました。しかし、リノール酸が体によいという事はサラダ油などを宣伝する上で有効であったため、リノール酸の摂りすぎはよくないと言うことはあまり強調されていません。

実はリノール酸は血液を固まりやすくしたり、アレルギーを引き起こすエイコサノイドと呼ばれる一連のホルモンの原料となるため、摂りすぎは血栓症やアレルギー疾患を引き起こす一因ではないかと危惧されているのです。しかも、動脈硬化の原因となるリポ蛋白(脂肪やコレステロールを運ぶ蛋白質)の酸化に関係したり、善玉のコレステロールであるHDLコレステロールを低下させてしまったり、動物実験では発ガンの促進作用があることが証明されたりと、悪いことがいくつも見つかってしまいました。統計学的にも、リノール酸の摂取量と乳ガン、結腸癌、前立腺癌の発症との間には関連があるという報告もあるのです。確かに、リノール酸は体に必要な脂肪酸ではありますが、摂りすぎは体によくないようです。

3)オレイン酸の効果

かわりに注目され始めたのがオレイン酸、α−リノレン酸、EPA、DHAなどです。地中海地方の人たちは他の欧米と同じように脂肪を多く摂るのですが、心筋梗塞の発症率が低いといわれています。これはオリーブ油に含まれるオレイン酸が原因ではないかということで、最近はこのオリーブ油が注目されてきているのです。オレイン酸もリノール酸同様コレステロール低下作用があり、しかもリノール酸と違ってHDLコレステロールは低下させません。しかも他の脂肪酸に比べて酸化されにくいという性質も持っている。いいことばかりのように見えますが、残念ながらまだ、オレイン酸を余分にとって動脈硬化を抑制したという証明はないのです。実はサルを使った実験では、MUFA食(オレイン酸など)はPUFA食(リノール酸など)に比べて動脈硬化進んでしまったという逆の結果になってしまいました。

4)α−リノレン酸、EPA、DHAの基礎知識

そのほか注目されているのが、α−リノレン酸、EPA、DHAです。α−リノレン酸は体の中で、EPAやDHAとなります。したがって、α−リノレン酸の効果はEPAやDHAの効果であるともいえます。最近、健康食品としても出回っているEPA、DHAはリノール酸と逆の働きをします。つまり、血栓の形成を抑えて動脈硬化を防いだり、免疫を抑制することによってアレルギーを抑える作用があるといわれています。発ガンの抑制効果もあるのではないかともいわれています。

それではα−リノレン酸、EPA、DHAを多く摂りさえすればよいのでしょうか?確かに、EPAやDHAを多く含む魚や魚油を摂取すると心筋梗塞の発症率を抑えるということでは研究者の意見は一致しているようなのですが、精製したEPAやDHAを摂取した場合は心筋梗塞の発症を抑えるという報告と関係ないとする報告とがあるのです。これはどうしてでしょうか?実はEPAやDHAは非常に酸化されやすい脂肪酸であり、精製する過程で酸化されてしまって効果が落ちている可能性があるのです。健康食品としてEPAやDHAを摂るのは考えものです。魚を食べることでEPAやDHAを摂る方が効果があり、よっぽど安くつきます。しかも多く摂れば摂る程良いかというとそういうわけではなさそうです。EPAやDHAを多量にとるは、血栓の形成を抑えることになり、その結果出血しやすくなりますし、免疫を抑えるということは感染に対する抵抗力を落とす可能性もあります。EPA、DHAを多く摂取するグリーンランドイヌイットは確かに心筋梗塞やアレルギーの発症率は低いのですが、脳出血の発症率が高く平均寿命は日本人と比べて必ずしも長くはないのです(一概には食事のためだけとはいえませんが)。何事も過ぎたるは及ばざるがごとし、なのです。

5)トランス型脂肪酸について

そのほか問題となる脂肪酸として、トランス型脂肪酸があります。バターには飽和脂肪酸が多く含まれ、これがコレステロールを上昇させるので、植物油から作ったマーガリンがよいといわれています。本当にそうなのでしょうか?マーガリンの製造過程でトランス型脂肪酸というものが生じるのですが、実はこれは血圧を上昇させたり、コレステロールを上昇させたり、HDLコレステロールを低下させたりする作用があるのです。特にハードマーガリンにはトランスが他脂肪酸が多いそうです。マーガリンの摂りすぎにも注意が必要なのです。

 

6)どの油にはどのような脂肪酸が含まれているか?

最後にどのように脂肪酸を摂るのがよいか、どの油にはどんな脂肪酸が含まれているかについて述べましょう。脂肪酸の摂取の比率としては、

SFA:MUFA:PUFA=1:1-1.5:1

あたりが適当ではないかと考えられているようです。

 

次に、調理に使われている油の脂肪酸の主成分は以下の通りです。

 

ラード:パルミチン酸、オレイン酸が主成分。どちらかというと不飽和脂肪酸が多い。

パーム油:パルミチン酸、オレイン酸が主成分。どちらかというと不飽和脂肪酸が多い。

サフラワー油:リノール酸が多い。

シソ油:α−リノレン酸が多い。

マグロ油:EPA、DHAが多い。

大豆油:リノール酸が多く、その他にオレイン酸、α−リノレン酸が含まれる。

菜種油:オレイン酸が多く、その他にリノール酸、α−リノレン酸もある。

オリーブ油:オレイン酸が多い。

 

参考文献
今泉勝己;臨床栄養、90巻246頁、1997年
三浦義彰ら;医学の歩み、182巻917頁、1997年
三浦義彰ら;医学の歩み、183巻433頁、1997年
石川俊次;医学の歩み、184巻193頁、1998年
池田郁男;医学の歩み、184巻199頁、1997年

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