浮世絵に秘められた謎の解明5


広重・保永堂版東海道53次「箱根 湖水図」における、山の謎。

東海道富士見双六(一立斉広重) 田方平野を目下に城山と富士を望む (伊豆大仁・画像反転)

司馬江漢、西遊旅譚(生月島之図) 中村竹洞(?)/富岡鉄斎(?)

モザイク状の表現について

箱根のモザイク状の表現に対して様々な意見があるのを知りました。私も掲示版で何回か意見を述べましたが、上図の双六図による箱根図から判断すれば、「岩山」を描いたのは間違い無いことだと思われます。ただ保永堂版の図では、様々な色合いで描かれています。しかしこのような事は、絵を描く時は絵造りとして、よくあることです。小田原、江尻、金谷等、山肌を色分けした図例と同じ表現意識だろうと、私は思っています。双六図は簡略したものだから、墨刷りとして岩山の輪郭のみを見せていますが、本図のモザイク状のものも、形状は素直に岩山と判断してよいと思います。それなら本図の色合いは何を意味しているのでしょうか?これもそれほど複雑に解釈する必要はないと思う。つまり、単に造形的な解釈でよいのではないでしょうか。この図はこのシリ−ズでは珍しく山のみをダイナミックに捉えたものです。山肌が緑だからと言って、単なる緑色だけで描く絵師はおりません。黒いだけの墨にさえ五彩ありと言われる世界です。まして錦絵と呼ばれものですから、絵としての絵画的美感を与えるために、主題の山の山肌や岩山に色彩でもダイナミックな変化を与えるのは、当然の描き方 だろうと思います。そこには勿論、色彩論的に暖色と寒色の色彩的バランスもうかがえます。対象を線で描き分け、又色面で描き分けるのは木版の大きな特徴です。線は物の形態を説明します、そして色彩は季節感や、感情等をより深く形容します。そういう捉え方をすれば、造形的な色彩の捉え方の他に心理的な捉え方も出来るかもしれませんが....。

以前、この山のモデルとして菊池様の伊豆の城山を、紹介しました(上記写真は、富士山の位置を合わせるため、左右反転してあります)。東海道の道筋を考慮しても、これも充分な説得力を持っております。更に私は、府中市美術館で催された「司馬江漢の絵画」展において、上図の西遊旅譚の(生月島之図)挿絵を観た時、その余りのそっくりさに驚かされました。「広重の他図引用」を考慮すれば、あるいはこの図を参考にした可能性も否定できません。しかし何度も述べましたが、山水図におけるこのような山の描き方は、江漢ばかりでなく他の作品でも幾らでも見られます。参考に上に載せた中村竹洞と富岡鉄斎は、あるオ−クションに出た作品で、真贋の保証はありませんでしたが(落札できず私の所有ではありません。持ち主も不明なので掲載の許可は取れてませんが、この問題の提起として敢えて無断掲載させて頂きました。何かの折りご連絡頂ければ幸いであり、若し不都合があれば即削除いたします)、これを観れば同様な山容の表現が、ひとつの様式としてあった事が充分推測されます−広重の箱根図を参考にしたというのなら話しは別ですが、これは作品の真贋には無関係な筈です。こ れで城山説、生月島之図説、他図引用説、広重創作説等、広重の制作の秘密に迫る幾つかの説が出ました。又新たな説が出る可能性は充分あり、今後の展開が楽しみです...。検証はこれからも続けますが、取りあえず興味深い一応の問題提示だけしておきます....。


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