東海道53次 保土ヶ谷

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「新町橋」(帷子橋)を渡って保土ヶ谷の宿に入るところの図です。今ではまず見られない藁屋根の連なりが、統一されたリズミカルな美しさをだしてます。橋を渡りきった中央には、旅人の気持ちを和ませる二八蕎麦屋の看板が見えます。対照的に左側には人里を離れた田園が右背景の山々と相まって、寂寥感を伴ったモノクロの世界を広げています。広重の魅力は、絵の背後にも又その精神性の中にも、こんな墨絵のような自己主張を無理強いしない、深い情感を宿していることだと私は思っています。北斎とはここが違うような気がしてなりません。実際絵のように蕎麦屋が在ったかどうかは判りませんが、こんな広重の演出は観るものの心の中にしみ入る旅情と、穏やかな人情の温かみを醸し出しているように感じられます。
五十三次図では、箱根より東の図には多くの異版が存在しますが、この図には山と木々に多少の違いが認められるが、大きな改版はありません。東京国立博物館のものと高橋誠一郎氏のコレクションとを良く比べてみると、ほんの微妙な違いが見出せるが、この図は後者の版と同じようである。図柄から庄野や蒲原が傑作として取り上げられる中で、「保土ヶ谷」は余り目立たない作品ではあるが、私は広重の本来の特質を最も表す素晴らしい作品だと思っている。


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