「六十余州名所図会」は広重の晩年、嘉永6年から安政3年の間に刊行された全国各地を網羅した風景画である。「武蔵」は今の東京、神奈川、埼玉まで含むというが、描かれた川は隅田川である。縁周りが虫喰いだらけなのでカットしたが、本当はその部分に大変重要な情報があり、敢えてトリミングしたのはお許し願いたい。このシリ−ズの評価は、傑作、駄作と様々に分かれるが、「伯耆大野・大山遠望」という雨の中の田植えの図も味わいがあり、雪景図たるこの「武蔵」も、本来の図は素晴らしいものである。

この図の初刷りは上部の雲は黄色ではなく、鮮やかな茜色であり、中央の中洲には藍の暈し刷りが施されている。雪景色に赤い空を用いるのは天保4年(1833年)、北斎も「勝景雪月花」に描いており、あるいは広重もこれらの影響を受けたのかもしれない。広重の雪景色はこんな値段では手に入らないので、私には身の程とこれで我慢するしかないだろう。虫食いは画面左上の4箇所で、川の中央の黒い点は鳥である。本物か復刻かの判断は、手にとるまで顔料の色合いや紙の手触りからの判断は出来ないので、細かい草木の点々等を初刷りのものと根気よく見比べるしかない。ただこの図の場合は中央の藍刷りの川に、縦に板目が何本か刷られている。この板目を画像処理して本物と重ね合わせてみるとビッタリと合った。絶対とはいえないが、板目までピッタリ合わせたようにして贋作するほどのものでもないので、同一板の後刷りで間違いないと結論したわけである。

広重 ・ 六十余州名所図会「武蔵」
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