『――ああ。アガタ』



 『どうした、アガタ』
 『――何故お前がここにいる?』








 そういうことだったのか。
 実際、似ているのかもしれない。
 遠いとはいえ、完全に血のつながった親戚だ。
 これまでに、様々な人が、自分の名前の代わりにその名前を呼んだ。
 幾度も。
 そのたびに、ソラはその影響や気配を感じてきた。
 それでも、やはり架空の人物と同列に過ぎなかったその存在に、異ならざる血と肉体が音もなく合体した瞬間――恐怖にも似た現実味が、ソラの体の奥底に生まれ、波打つぬるい脈に乗って、少しずつ全身へと配されていった。
 気が付けば、彼女はもう、生々しい感情のすぐ近くまで、肉薄していた。
 それはガニアの、ポリネの、そしてネコの、あの怒りと憎悪の領域だ。
 ソラは何かを奪われたわけではない。
 けれども、つまり、その人は、彼女の生まれた年に死んだのだ。
 正確に、彼女のひとつ前を歩いていて、そして、倒れた人なのだった。
 何かが共振するのを押しとどめることはできなかった。
 私は、その人に、似ている。
 そう分かった。
 遠いけれど、親戚で。
 立場は違えど、ハライで生きられず。
 そして大人たちの思惑を感じながら、この黒い機械の島に来た。
 それだけではない。
 その上、自分は、彼女と関わった人に残らず、会っているのだ。
 永遠に会うはずのなかった、クローヴィスと、まで。




 すべてが集められている。
 あの資料室のように。
 賢く、たゆみない、学者の手で。
 何かを、組みなおすように。
 再び、霊感を、呼び戻すように。


 私は、その人に、似ている。
 一秒ごと、ますます、似ていっている。





 奇妙な感じだった。別の何かに例えられない感じだった。
 思いがけない場所に自分の影を見て、ぎょっとした時のような。
 いいや。自分が彼女の影なのか?
 これまで自分はアルスス学徒の心配ばかりしてきた。しかし。
 ――いったい、自分は『大丈夫』なのか?
 それとも。何か、もう、ひどく危ない意味で、あることに巻き込まれてしまっているのではないのか?










 呆然と、夜の道を歩いて、下宿へ戻ってきた。
 戻っても休める気はしなかったが、事実休めなかった。
 自室のドアを開けると、寝台の上にクラレイ・ファル・クローヴィスが、優雅な死体のように、靴を履いたままの足を高々と組み上げて、寝そべっていたからである。




(つづく)
<<戻 次>>