パリにはCanal Saint Martinという運河がある。
(シムノンの「メグレ・シリーズ」でよく死体が上がる運河である。)
それを辿って北上する観光用の船便が出ているので、
利用して地下水道へ潜ってみた。




暗い。

真っ暗だ。





振り返ると、入ってきたときの明るい口が遥か遠くに見えた。




それがどんどん遠ざかっていく。
どんどん遠ざかっていく。
心細くなるような眺めだった。








時々天井に穴が開いていて、
金魚のように光を吸う。
魚の気分は四十五分ほど続いた。







外に出ると、水門が待っている。



前を開いて船を受け入れ、
後ろを閉じて水を入れる。
水は測りが一定の高さに浮き上がるまで
どおどおと注がれる。



水門は七つほどだったと思う。
三時間もかけて北へ向かう。
地下から出たあとはどこを見ても優美な光景が広がっていたが、
何故かはっきりと憶えているのはあの暗闇と、
南へ小さく消えていった入り口のことである。




<< back <