トーキョー・アバンドン
2.What A Difference A Day Made






ほんとうだよ。

筋はさながら地獄絵図。
その他わけもなく登場人物を切り刻む真正のサディスト作家なんていわれたこともあるが、俺は悲しい話は、大嫌いだ。
自分は明るいこと、楽しいこと、幸せなことが好きだ。
だからいつも楽しいやつらと一緒に、騒いでる。

しかし何でお前はこう、悲しいことばっかするのかね。
姫。






『なんだって?
 ――おい、ご挨拶だな、そりゃ。確かに、俺も生来も、あんたよりは鈍感でバカかもしれないが、何の苦労や考えもなしに人とツルんでるわけじゃないさ。むしろ嫌な思いもたくさんしてる。それでも置いてかれないようにがんばるんだよ。
 弱虫だって? そうさな。もちろんそうだろう。
けど、なら誇り高く一人であるお前はどうなんだよ。
俺達より千倍ろくでもない真似をしてるじゃないか』




『人間はな、何故か一人になると悪いことばかり考えるんだ。
だから疑いと悪いことで心がいっぱいになってしまう前に、いい話をたくさん聞いて信頼と希望をしこたま詰め込むんだ。
 それは、努力だ。
努力もしないで人を見下して、そんなふうに自分を傷つけて喜んでいるお前は、程度が低いよ』




『――ひとりぼっち?
そうか? そんなはずはないと思うけどな。
 ああ? 分かった分かった…、ひとりなんだな。
お前は生まれて以来、今まで一度も孤独でなかったことがないんだな。
 だったら俺と仲間になろう。
これからは俺と一緒に楽しいことを考えよう。
それでいいな?
 いいか、姫。忘れちゃいけない。
これは努力だ。
 努力しなければ人は死ぬ。あがくのをやめたら人は溺れる。逃げなかったら獅子につかまる。
 それは当たり前のことで、不幸ですらないんだぜ』




『だからもう、どこにも出かけず何も見つめないで
腕ばっか切って遊ぶのはやめろ。
――歌うんだ』













 もうすっかり夜になり、渋谷の街は危ないのに、高月は歩いて大学から離れ、旧うさぎ屋へ向かった。
 このあいだ闇市でオイルを補充したばかりのジッポを灯し、荒れ果てた店に入る。
 埃の積もったカウンターの上に指を当て、手紙を書いた。



『姫へ
十三号室で待つ
月』








 十分後、壁を乗り越えて新うさぎ屋へ戻ると、心配のし過ぎで気分まで悪くなりカウンターに突っ伏していた生来から、
「――だから言ったじゃないですか! 早く帰ってくれって!
 先生のバカ!! もう知りません!!」
女みたいなブチきれ方をされた。






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