「中東!」 おりこうなワンちゃんの起源

2002年に発表されたワンちゃんの起源に関する論文に対して、改訂版が発表されました(文献1)。これまでの研究では、細胞内にあるミトコンドリアのDNAを解析して、おりこうなワンちゃんの起源は東アジアだということになっていました(文献2, 「人と動物との絆」ホームページ"2002"おりこうなワンちゃん・・・)。

今回発表された研究では、中東のハイイロ・オオカミがワンちゃんの起源になっていると報告されました。ワンちゃんの起源を突き止めるため、85種類のワンちゃん912頭、そして世界の11地区から集められた225頭のハイイロ・オオカミのDNAを使って、ゲノムDNAの塩基配列を比較し、常染色体上にある4,800の一塩基多型(SNPs)を確認しました。

ミトコンドリアDNAは母親から母親へ受け継がれるため、遺伝子の混合はおこりません。しかし、突然変異は起こりますから、世代を経るにしたがってその突然変異が蓄積されていきます。2002年の研究(文献2)「ワンちゃんの起源は東アジアという説」は、東アジアのワンちゃんにミトコンドリアの突然変異が非常に多いということと、多くのハプロタイプ(同時に遺伝するアリル(対立遺伝子)の集合体)が存在するということが理由になっていました。しかし、今回の核DNAを使って行った研究ではそのようなことはまったく見られませんでした。この結果の違いは母親のみから受け継がれるミトコンドリアDNAと両親から受け継がれる核DNAの違いで起こったもので、どちらの研究が間違っているというものではありません。

今回の研究されたほとんどのワンちゃんは、中東のハイイロ・オオカミに近い血縁関係があることが分かりました。ワンちゃんはその特徴でいろいろなグループに分けられていますが、遺伝的な特徴も同じようなことが確認されました。牧羊・牧畜犬(herding dogs)、鳥猟犬(retrievers)、獣猟犬(sight hounds)、小型テリア(small terriers)などのグループは遺伝的な特徴がはっきりしていました。しかし、小さい愛玩犬(toydogs)と呼ばれるグループは、それぞれいろいろなワンちゃんのグループに属しているためか、遺伝的な特徴ははっきり表れませんでした。

一個のSNPのみで解析、5個または10個のSNPを含むハプロタイプ(父親または母親からのどちらか一方からのみ受け取る遺伝子群)のデータを使って、近隣結合法と呼ばれる系統樹を構築する方法で解析しました(文献1)。まず分かったことは、1個のSNPと5個のSNPハプロタイプのみで、中東または中近東のハイイロ・オオカミがワンちゃんに非常に近いことが分かりました。SNP(一塩基多型)というのは、塩基配列を比較して、集団の中で一部の個体が持つ点変異のことです。ということで、簡単にいうと、DNAの塩基配列の一つの違い、または、複数の違いを特別な方法でデータを並び替えて比較するとワンちゃんの起源は中東か中近東あたりということになりました。

ワンちゃんの祖先はどこから来ているかという質問に答える目的で、5個または15個のSNPを含んだ500-kbという広い範囲のハプロタイプを比較しました。5個のハプロタイプを含んだ部分では、中東のオオカミが他の地域のオオカミよりワンちゃんのハプロタイプに似ているということがわかりました。さらに、ワンちゃんの地理的な出身地が違っているにもかかわらず、ほとんどの犬種と中東のハイイロ・オオカミに近いという結果でした。15個のSNPを使うと、ある種のヨーロッパ産のワンちゃんとヨーロッパのハイイロ・オオカミの遺伝子が似ていることも分かりました。これは解析するSNPの数が少ないとはっきりしませんでした。秋田犬とチャウチャウの東アジアの犬は中国のオオカミと似ていることも分かりました(残念かがら統計的な有意な差はありませんでしたが)。バセンジーというワンちゃんが他のワンちゃんよりも中東のオオカミに一番似ていました。この結果は、ワンちゃんが人と一緒に生活し始めたときに多くいた種類か、もっと後になってオオカミとの交配があったことを示しています。ワンちゃんの遺伝的な変異は中東のオオカミに由来したものですが、その後ヨーロッパやアジアからのものが加わっているようです。

さて、以前行われたミクロサテライトと呼ばれる反復DNA配列の解析から、古代の犬種はアジア、中東、北部の三つのグループに分けることができるという報告(文献3)がありましたが、今回の研究はそれを支持するものになりました。アジアのグループではディンゴ、ニューギニア・シンギング・ドッグ、チャウチャウ、秋田犬、中国シャーペイで、中東のグループには、アフガンとサルーキが含まれます。そして、北部のグループにはアラスカン・マラミュートとシベリアン・ハスキーです。そして、今回の研究でバセンジーは、他のどの種よりも遺伝的な特徴が違うことが分かりました。記録に残っている資料を合わせてみると、バセンジーが現存しているワンちゃんでは一番古い犬種と考えられます。

さて、今後、おりこうなワンちゃんの研究はどうなるでしょうか?このワンちゃんからあのワンちゃんができ、そしてそのワンちゃんからあっちのワンちゃんになったというような、おりこうなワンちゃんの遺伝的な系統図が完成することも近い将来でしょう。

いつも「このワンちゃんはなに犬(けん)?」と聞かれているサイタマ犬(クロス、雑種ともいう)、マーヤがタカサクにいます。このマーヤの祖先も遺伝子の特徴で簡単に分かるかもしれませんね。
今後の研究に期待しています。


引用文献
1) vonHodt, B.M. et al. (2010) Genome-wide SNP and haplotype analysesreveal a rich history underlying dog domestication. Nature 464, 898-907.

2) Savolainen, P. et al. (2002) Genetic evidence for an East Asia origin of domestic dogs. Science 298, 1610-1613.

3) Parker, H. et al. (2004) Genetic structure of the purebred domestic dog. Science 304,
1160-1164., and also Parker, H. et al. (2007) Breed relationships facillitate fine-mapping
studies: a 7.8-kb deletion cosegregates with Collie eye anomaly across multiple dog breeds. Genome Res. 17, 1562-1571.

タカサクラガーヤ動物病院 
(
東京都世田谷区世田谷4−18−7)