おりこうなワンちゃんの起源
この論争は乱闘(DOGFIGHT)状態です (2013年12月掲載)

 2002年にこのホームページでも、「“おりこうな”ワンちゃんの起源?」というタイトルで論文を紹介しました10年前のコメント。その後、2010年3年前のコメント)と2011年(昨年のコメント)と二転三転しました。そして今回は、さらに混乱するような研究報告です(参考文献1)。この論争は、“ドッグファイト”(DOGFIGHT、乱闘)として、さらに研究が続けられることと思います(参考文献2:参考文献1の解説)。

 まず、2002年の論文ですが、“おりこうな”ワンちゃんの起源は東アジアの地域だとするものです(参考文献3&4)。世界各国から集めた細胞から、ミトコンドリアDNAを解析しました。ここで重要な点は、ミトコンドリアDNAが母親から子供に遺伝するということで、父親のDNAには関係ないことが問題でした。突然変異は世代を経るにしたがって起こり、その突然変異が蓄積されます。東アジアのワンちゃんに突然変異が多いということと、多くのハプロタイプがあることを発見しました。(染色体上に同じ遺伝特性をコードし同じ場所にある遺伝子のことを互いに対立遺伝子といい、そのいずれか片方のことをプロタイプと呼びます)

 2010年の論文では、ゲノムDNAの塩基配列を比較し、一塩基多型(SNPs)を解析しました(参考文献5)。中東か中近東あたりがワンちゃんの起源という結果を導き、2002年に発表されたミトコンドリアDNAを解析した時のような結果にはなりませんでした。これは、どちらの研究が間違っているというものではなく、両親から受け継がれるゲノムDNA(核内にあるDNA)と母親のみから受け継がれるミトコンドリアDNAの違いから起こったものです。

 続いて、2012年には、Y染色体(男の子だけにある染色体)の解析では、10年前と同じように揚子江以南の地域のオオカミさんから家畜されたという報告がありました(参考文献6)。この辺で一件落着かと思いましたが、今回、またまた反論となりました。

 現存するワンちゃんの細胞から取り出したミトコンドリアDNA, DNA, Y染色体DNAを使った過去の研究結果にどどめを刺すために、今回は、化石から取り出したミトコンドリアDNAを用いました。今までの遺伝学の研究からワンちゃんの起源は、東アジアで15,000年前と言われていますが、ヨーロッパやシベリアから発掘された犬らしい化石からするとその歴史は30,000年よりも前のもの推定されていいます。このギャップを埋めるため、化石から抽出したミトコンドリアDNAを解析し、すべての現代のワンちゃんは、ヨーロッパの古代または現代のイヌ科の動物の系統であるという結果になりました。また、家畜化されたのは、18,800年から32,100年の間だと推測しています。

 今回の研究により驚くべきことは、現存するワンちゃんたちは、現代のオオカミ以上に古代のオオカミに似ているということ、現代のワンちゃんの祖先を思われる古代のワンちゃんはすべてヨーロッパンにいたということです(参考文献2)。今まで、一部の遺伝学者はワンちゃんが人と一緒に生活し始めたのは、農業を始めた時だと思っていました。今回の結果から、人と一緒に過ごし始めたのはもっと早くからではないかということも考えられます。

 今後、化石から核
DNAを抽出し、解析することにより、さらにいろいろなことが分かってくるかもしれません。しかし、化石のDNA解析だけでは、限界があるため、さらに一歩進んだ研究が必要になると思います。

 2002年以来、「おりこうなワンちゃんの起源」の研究を見ていますが、それぞれの研究者が本当に頑張っている姿が論文から読み取れます。ワンちゃんと人の関係、さらに農業のために定住し始めた時期、人とワンちゃんが一緒に生活し始めたころのヨーロッパとアジアの関係が解明されることを祈っています。Good Luck!

参考文献
1)    Thalmann, O. et al. (2013) Complete mitochondorial genomes of ancient canids suggest a European origin of domestic dogs. Science 342, 871 – 874.
2)    Pennisi, E. (2013) News & Analysis. Old dogs teach a new lesson about canine origins. Science 342, 785 – 786.
3)    Leonard, J. et al. (2002) Ancient DNA evidence for old world origin of new world dogs. Science 298, 1613-1616.
4)    Savolainen, P. (2002) Genetic evidence for an East Asia origin of domestic dogs. Science 298, 1610-1613.
5)    vonHodt, B.M. et al (2010) Genome-wide SNP and haplotype analysis reveal a rich history underlying dog domestication. Nature 464, 898-907.
6)    Ding, Z-L et al. (2011) Origins of domestic dog in Southern East Asia in supported by analysis of Y-choromosome DNA. Heredity (23 Nov), 1-8.

マーヤ(サイタマ犬)の祖先はどこから・・・まだまだ論争が続いています

          

過去の論争
2002年の「おりこうなワンちゃんの起源」
2010年の「おりこうなワンちゃんの起源」
2012年の「おりこうなワンちゃんの起源」

タカサクラガーヤ動物病院  (東京都世田谷区世田谷4-18-7)
獣医師のツイート @sanbutaro