世界のニュースあれこれ
  2008年2月入手情報


狂犬病のはなし

今回は、狂犬病ワクチンの重要性に関して再確認する意味を込めて、アメリカ合衆国の現状をお伝えいたします(参考文献1)。日本国内では、過去50年間、動物が狂犬病ウイルスに感染して死亡した例がありません。当然、国内で狂犬病ウイルスに感染した人もおられません。しかし、海外にお出かけの方が感染して国内で死亡された例はありますから、今後とも狂犬病の感染には注意すべきです。

毎年、春になると各地域の保健所の方から、ワンちゃんの登録をされておられる方々へ、狂犬病予防注射(ワクチン)のお知らせが届きます。残念ながら、この予防注射の意味がはっきり説明されていないため、狂犬病の予防注射を受けることに疑問を持つ方がおられます。


よく質問される疑問は、
1)狂犬病の予防注射をしなければならないの? 日本では50年間も狂犬病が発症していないのになぜ注射をするの?
2)ワンちゃんの定期的な予防注射として、ワンちゃん自身をウイルス感染症から守るための混合ワクチンを定期的にしているのに、なぜ、狂犬病ワクチンというまた別な注射が必要なの?
  
1)の答えは、単純に「狂犬病予防法でそのように定められている」です。しかし、それではなぜそのように定められているのでしょうか。狂犬病ウイルスに感染している動物に人が咬まれ、その人に狂犬病感染症の神経症状が出た場合は、ほぼ100%死亡するという恐ろしい病気だからです。動物から感染するウイルスによる伝染病ですから、感染が予想される動物にワクチンを接種すること予防できます。狂犬病予防法では、犬の狂犬病ウイルス感染を予防
すれば、人への感染は防げるとしているわけです。身近な外国、アメリカ合衆国での発生状況を見てみましょう
 (参考文献1)。

2006年の1年間で確認された動物の狂犬病の症例数は、6,940匹、そして、人の感染は、3例でした。92%は野生動物で、残りの8%は家畜やペットでした。動物別では、アライグマ 2,625(37.7%)、コウモリ 1,692(24.4%)、スカンク 1,494(21.5%)、キツネ 427(6.2%)、ネコ 318(4.6%)、ウシ 82(1.2%)、イヌ 79(1.1%)でした。人3例の内、コウモリとの接触が2例で、もう1例は、フィリピンで感染され、移住された方のようです。人の場合、コウモリなどの野生動物からの感染が問題で、今後の課題になっています(参考文献1)。アメリカでは、イヌ、ネコ、フェレットへの狂犬病予防注射が実施されています。その他の動物でも人と接触の多いペットやウマなどでも注射することを推奨しています(参考文献2)。

2)この質問は、人へ感染しないワンちゃん自身の病気と、狂犬病のように人へも感染する病気(人畜共通感染症)の区別をする必要があります。狂犬病予防法で規定されているワクチンは、人の公衆衛生のためだということです。ワンちゃんは毎年接種している混合ワクチンは、ワンちゃんの健康のためだという大きな違いがあります。どちらもそれぞれ違った意味で重要です。

用語説明
アライグマ(Raccoon):北米産の夜行性小型肉食獣で樹上にすむ、鼻はとがり、尾は毛深く環がある。

狂犬病ウイルス: ラブドウイルス(rhabdovirus)で、すべての温血動物に感染する可能性があります。神経系を攻撃し、唾液の中に潜んでいます。人では脳炎を起こし、ほとんどの場合死亡する恐ろしい病気です。発症するとほぼ100%死亡すると思われていた狂犬病ですが、2004年に早期発見で治療することができると報告されました(参考文献3)。しかし、今のところ、確実に治療できる方法は確立されていません。

混合ワクチン: 犬ジステンパー、犬アデノウイルス2型感染症、犬伝染性肝炎(アデノウイルス)、犬パラインフルエンザ(ケンネルコフ)、犬パルボウイルス感染症、犬コロナウイルス感染症、犬レプトスピラ感染症(黄疸出血型、カニコーラ型)などワクチン接種で予防できる犬の病気があります。予防注射の種類によって、ワクチンを組み合わせに多少の違いがあります。

人畜共通感染症: ペットや家畜などの動物の病気を起こす病原体が人にも感染しておこる病気のことです。狂犬病の他に、オウム病、Q熱(コクシエラ症)、レプトスピラ症、トキソプラズマ症、クリプトスポリジウム症、イヌ回虫幼虫移行症、パスツレラ症、ブルセラ症、サルモネラ症、カンピロバクター症、ネコひっかき病、皮膚糸状菌症(白癬)、エキノコックス症、犬糸状虫症(フィラリア症)など注意すべき感染症です。

参考文献
1) J.D. Blanton, C.A. Hanlon and C.E. Rupprecht (2007) Rabies surveillance in the United States during 2006.  J. Am. Vet. Med. Assoc.231 (4), 540-556.
2) The National Association of State Public Health Veterinarians Committee(2007) Compendium of Animal Rabies Prevention and Contral, 2007. J. Am. Vet. Med. Assoc. 230(6), 833-840.
3) Willoughby, R.E. et al. (2005) Survival after treatment of rabies with induction of coma. N. Engl. J. Med. 352, 2508-2514.

関連記事: 狂犬病の話 2009年

  [人と動物との絆のホームページ]へ戻る


   タカサクラガーヤ動物病院 
   
東京都世田谷区世田谷4−18−7