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2009年2月入手情報
「赤血球グルタチオン」と「サプリメント」?
今月は、ちょっと気になった学術論文の紹介というよりも、その論文の内容に対する
反論ですから、いつも以上に難しく、おもしろくない内容になります。
赤血球グルタチオンと血清システイン濃度を若いワンちゃんと高齢のワンちゃんで
比較した論文がアメリカ獣医師会雑誌に発表されました。 この論文の結論によると、
高齢のワンちゃんでは、抗酸化作用に重要な役割をするグルタチオンとシステインの
濃度が変わらないので、食事に抗酸化作用のある添加物を加える必要ないとのこと
です(文献1)。 しかし、研究内容に問題があります。
この研究の背景には、近年、アンチエイジングに対する関心から、高齢のワンちゃんの
ドライフードに抗酸化作用のある添加物を含めていることに対する疑問があるようです。
ウイスコンシン大学の研究者MoyerとTrepanierは、高齢の動物ではグルタチオンや
システインなどの抗酸化作用のある物質が不足していているのか、そして抗酸化物質の
添加物が必要かどうか確かめようと思ったわけです。
この研究では、7−14歳までの35頭の高齢犬と1−3歳の健康な若い犬の赤血球
グルタチオンと血清システイン濃度を比較しました。 男の子、女の子に分けて
統計処理しても高齢なワンちゃんと若いワンちゃんとの間に有意な差は見られま
せんでした。この論文の結論としては、高齢なワンちゃんの抗酸化作用をもった
サプリメントは必要ないということになりました。
この論文の問題点は、赤血球のグルタチオン濃度が単純に体全体(または肝臓などの
主要臓器)の抗酸化の能力に比例していると考えているところです。 赤血球の
グルタチオン濃度は独立して維持されていますから、それで、体全体の抗酸化の
状態を把握しようとするのには無理があります。 赤血球のグルタチオンの濃度が、
体の他の細胞とは違って、赤血球は独自に細胞内の濃度を維持していると考えら
れる理由は以下のようです。
1)赤血球グルタチオンの低濃度(欠乏)のヒツジが、アメリカとイギリスの2つの
グループによって別々に発見されていますが、それらのヒツジが特に異常だという
報告はありません(文献2)。ということは他の臓器のグルタチオン濃度は特に問題なし。
2)グルタチオンの合成、分解などの主要代謝経路は、Meisterによって提唱されて
いる複数の酵素によるgamma-グルタミルサイクルで行われていますが、赤血球では、
そのうちグルタチオンを分解するgamma-グルタミルトランスフェラーゼがありません。
グルタチオンの分解は他の細胞とは違った機構を使っています(酸化型グルタチオンや
グルタチオン抱合物を細胞外へ排出しています)(文献3)。 他の細胞では、グルタチオンは
細胞内で分解・合成されていますが、赤血球ではグルタチオンが再利用されることはなく
外へ排出されているようです。
3)赤血球グルタチオン濃度は、赤血球の加齢に伴って減少しない(文献4)。
赤血球では、細胞の寿命(加齢)とグルタチオン濃度は関係なし。
以上のような研究から、赤血球内のグルタチオン濃度が、肝臓や腎臓などの他の臓器の
細胞内のグルタチオン濃度と比例しているかというと疑問です。やはり赤血球は体の
他の細胞とは別に、独自にグルタチオン濃度を維持しています。ということは、今回の
MoyerとTrepanierの研究結果(文献1)は、高齢なワンちゃんと若いワンちゃんの抗酸化の
力を比べているということにはなりません。 現時点では、現在市販されている高齢犬用の
サプリメントを否定することはできません。
(用語説明)
グルタチオン: ほとんどの哺乳動物の細胞にある3つのアミノ酸がくっ付いた物質です。
この物質の作用は、他の物質が酸化しないようにする働き(還元能)、酸化ストレスなどに
よって生まれるか過酸化物を還元無毒化、外来の化合物にくっ付いて(抱合)体の外に
出そうとすること(排泄)などです。
システイン: アミノ酸の一つで、グルタチオンを構成する3つのアミノ酸の一つです。
栄養学的には非必須アミノ酸と呼ばれ、メチオニンとセリンという二つのアミノ酸から
合成される。システインはグルタチオンの合成に必要ですから、細胞内のグルタチオン
濃度を維持するために細胞内に一定量貯蔵されていると考えられています。ただし、
今回の論文(文献1)で測定されたシステインは、血清中ということで、細胞外の濃度
ということになります。
参考論文
文献1) Moyer, K.L. and Trepanier, L.A. (2009)
Erythrocyte glutathione and plasma cysteine concentrations
in young versus old dogs. J Am Vet Med Assoc. 234, 95-99.
文献2) Harvey JW. (2000) Erythrocyte metabolism.
In: Feldman BF, Zinkl JG and Jain NC, eds. Veterinary Hematology.
5th ed. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins; 125-128.
文献3) Oakley A, Yamada T, Liu D, et al. (2008) The identification and
structural characterization of C7org24 as gamma-glutamyl
cyclotransferase. J Bilo Chem ; 283: 22031-22042.
文献4) Suzuki, T. and Dale, G.L.(1988) Senescent erythrocytes:
isolation of invivo aged cells and their biochemical characteristics.
Proc Natl Acad Sci USA, 85, 1647-1651.
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