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  2011年3月入手情報


フランスの獣医師・微生物学者エドモンド・ノカード先生

今回は先月に引き続き、アメリカ獣医師会雑誌に掲載された記事から、世界獣医学年(World Veterinary Year)に関連して、獣医学に貢献した人物紹介です(参考文献1)

前回はクロード・ブルジェラット先生(Claude Bourgelat1712 - 79)が登場しました。さて、今回登場する人物は、19世紀後半〈補足1〉にフランスで活躍し獣医微生物学を確立したエドモンド・ノカード先生( Edmond Isidore Entinne Nocard1850 - 1903)です。

ノカード先生は、ルイス・パスツール(Louis Pasteur)の弟子の一人で、近代医学の感染症という分野を獣医学に導入しました。人と動物の健康に影響する感染症の原因菌の発見を通じて、獣医微生物学という分野を確立した先駆者です。ノカルジア属(Nocardia)という細菌のグループは、ノカード先生の名前に由来しているというと、少し微生物学を習った人であれば、親しみを持っていただけるかもしれません。しかし、ノカード先生の経歴を知る人は少ないと思いますので、参考文献1に記述されている経歴を要約しておきます。

1850年         フランスのプロビンス(Provins)で生まれる
1868年         アルフォート獣医学専門学校(the Veterinary School of Alfort)入学この間、普仏戦争(補足2)に従軍し、学業中断される
1873年         卒業(成績最優秀で卒業生代表に選ばれる)
1878年         アルフォート獣医専門学校の病理学・臨床外科学教授に就任
1879年         パスツールの研究室の助手になる。炭疽ワクチンの研究でパスツールの研究を助け、その後、動物へワクチン接種を行った(補足3)
1883年         コレラの発生に関する調査のためエジプトへ、コレラの原因菌の同定はできませんでしたが、その地域の牛疫の研究にかかわる機会を得ることができました。帰国後、アルフォートにパスツール研究所の分室を作りました。その後の主な業績は、血清の集め方の方法、いろいろな外科技術導入、大動物の麻酔に関する研究、そして、結核菌を培養する新しい培養液を考案などです。
1887年         アルフォート獣医専門学校の学長に就任連鎖球菌による乳房炎の原因菌をStreptococcus agalactiaeと同定
1891年         研究に専念するために、学長を辞任。その後、ウシの胸膜肺炎の原因菌の発見、フランスにおけるウマ鼻疽感染の根絶(補足4)、ウシ結核の診断にツベルクリン反応を使用、鳥類と哺乳類の結核の関係を説明などの業績。
1903年      逝去。 英国医学雑誌(British Medical Journal)は、ノカード先生の結核の一連の研究を大絶賛。破傷風は神経病ではなく伝染病というノカード先生の予測通り、その後、破傷風菌が発見されました。

今回は、フランスの獣医師で微生物学者として活躍し、その100年後に獣医学の専門雑誌で功績がたたえられた人を紹介しました。ノカード先生のような方がいたから今日のような「人と動物との絆」を大切にする世の中が誕生したのだと思います。ありがとうございます。

参考文献
1)      JAVMA News (2011). Pasteur’s Veterinary Disciple:  Pioneered the field of Bacteriology. J. Am. Vet. Med. 238, 268-269.

補足1: 19世紀後半は、革命を封じ込める反動体制(ウィーン体制)の破綻が、1848年フランス二月革命(「諸国民の春」と称される)から始まりました。この革命の影響で、自由主義やナショナリズムの運動がヨーロッパ各地に普及した。一連の動きは1848革命と呼ばれる。日本は、江戸時代の末期で開国政策への転換、そして明治時代(1868 - 1912)がスタートしました(最新世界史図説タペストリー、帝国書院)。

補足2: 普仏戦争 スペイン王位継承問題に関するある事件をきっかけにして起こった、プロイセンとフランスの戦争(1870 ? 71年)。プロイセン軍は参謀総長モルトケの作戦により1ヶ月半でナポレオン3世を降伏させた。プロイセン王ヴィルヘルム1世はパリ包囲のさなか、ヴェルサイユ宮殿でドイツ皇帝として即位した ∴ ドイツ帝国誕生(最新世界史図説タペストリー pg 189、帝国書院)

補足3: 「炭疽」 土壌菌が創傷部・消化器から感染する人畜共通伝染病。突然発熱し、急性敗血症を起す。家畜伝染病予防法に規定されている家畜伝染病(26種類)の一つ。

補足4: 「鼻疽」 細菌による膿様の鼻汁を流し、死亡率が高いウマの病気。人畜共通伝染病。

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