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  2012年4月入手情報


イギリス最初の女性獣医師: アリーン・カスト先生(Dr. Aleen Cust

さて今回は、イギリス最初の女性獣医師のお話です(参考文献1)。1868年にアイルランドで生まれました。彼女は、1922年にイギリス獣医師会(Royal Collegeof Veterinary Surgeons)のメンバーになった女性です(補足1)

カスト先生は、当時の裕福な家の子どもと同じような教育をうけ、ロンドン病院で看護師としての訓練を始めました。しかし、獣医師になりたくて途中でやめてしまいました。

1894年(26歳)にエジンバラにある獣医学校へ入学を申し込みました。当時は男性だけに開かれた獣医学校でしたから、どのようにして入学できたかは不明ですが、名前をA.I. Custanceに変え入学を申し込んだことだけは分かっています(補足2)。在学中は学業優秀でした。

1897年に獣医師の試験を受験しようとしましたが、英国獣医師会の役員会は、「学生」という言葉を「男性の学生」言い換えて、受験資格なしということで女性が獣医師の試験・審査を受けることを断りました。当時はまだ、世界の中でニュージーランド以外の国で、女性の参政権も認められていない時代でした(補足3)。カスト先生は、家系を傷つけるのを避けるため、イングランドではなくスコットランドの裁判所でこの件を争うことを決めました。しかし、スコットランドの裁判所も、英国
獣医師会の本部があるイングランドのことなの判決できないということになり、裁判を止め、勉強のためロンドンの獣医学校へ帰りました。


1900年に卒業して、郷里のアイルランドへ帰りました。残念ながら獣医師と名乗れませんでしたが、獣医師の助手として、のちに獣医検査官(veterinary inspector)として働きました。そして再度、英国獣医師会に獣医師登録の申請をしました。そして、やっと「検査官(inspector)という名称にしてもらえました。でも、まだ満足できませんよね。

1915年にキリスト教青年会YMCAのボランティアとして働くためにアイルランドを離れました。フランスのアベビール(Abbeville)で働いでいたといわれています。ちょうど第一次世界大戦の真っただ中で、戦争の後方支援のためだったのでしょうか。そこにはちょうど英国の陸軍獣医師団の本部がありました。真偽のほどは分かりませんが、カスト先生は、何千頭もの軍馬の検査や訓練を行っている獣医師たちを助けるために、フランスのYMCAを選んだとも言われています。

それから2年後、カスト先生は陸軍の動物病院付属の微生物研究室にポジションを得ることができました。記録によれば、1918年1月から11月までは陸軍の補助部隊に属していたようです(補足4)。そして1919年には、英国議会により制定された男女均等法で職業上の男女の区別してはならないことになりました。やっと1922年10月にカスト先生は獣医師会の獣医師試験を受けることができました。22年間の獣医学教育ののち獣医師免許を得たカスト先生のたえまない努力が、今日のような素晴らしい獣医学の発展につながっています。カスト先生は、1937年にジャマイカの友人を訪問されていたとき、68歳で亡くなられました。

参考文献
1)    News (2011) Britain’s First Woman Veterinarian – Aleen Cust defied convention, made
veterinary medicine her life’s ambition. J.Am.Vet.Med.Associ. 238, 1387 – 1388.


補足
1)Royal College of Veterinary Surgeons(英国獣医師会)の会員になれたことは、正式に「獣医師」として認められたことで、自分のことを「獣医師」と言えるようになったということになります。イギリスおよび旧イギリス連邦の国では、獣医師はveterinary surgeonと呼ばれています。略してvet, アメリカでは、veterinarianです。イギリスでは、伝統的に内科医(Physician)は、Dr, 外科医(Surgen)は、Mrを職名に対する敬称としていました(この場合は、Mr = 先生というニュアンスで使われています)。それと同じように、イギリスの獣医師の敬称は、DrではなくMrです(現在は国際化したため、ほとんどがDrの敬称を使われていますが、ローカルには断然Mrです。オーストラリアやニュージーランドでもイギリスと同じです)。

Surgeon」という言葉で思い出したお話。カリフォルニア大学は、カリフォルニア州のいろいろなところにキャンパスがあります、たとえば、本校のUC バークレー校、UCLA(ロサンジェルス校)、UCSF(サンフランシスコ校)、UCSD(サンディエゴ校)
などカリフォルニア大学の分校と呼ぶには失礼な規模の素晴らしい各大学です。それぞれのキャンパスにある学部は特色のあるもので、医学部に関して言えば、本校のバークレーにない代わりに、サンフランシスコ校は、医学系の学部だけの学校、そしてその他、
UCLA , UCSDなどに医学部がありますが、すべての分校にはありません。カリフォルニア州の州都サクラメントの近くにデイビスという農業や酪農地帯が盛んな地域がありますが、そこにはカリフォルニア大学獣医学部があります。この大学の獣医学部は日本の獣医師の間では大変有名です。その大学の医学部の方へ留学されていた外科医(ヒトの方の外科の先生です)が、嘆いておられました、自己紹介の時、「surgeon」ですと英語でいうと、ほとんどの場合、獣医師?と思われたというお話を聞きました。それほど、surgeon = veterinary surgeon = veterinarianというイメージなのでしょうか。

2)英語で名前を書く場合、名前のイニシャルと苗字だけでは男性と女性の区別がつきにくいので、男性はイニシャルのみ、女性の場合は、ファーストネームを書く場合は多いようです。自分の性別を知ってほしい場合にはこれでOKです。しかし、知ってほしくない場合は、イニシャルと苗字にすればよいわけです。カスト先生の場合は、名前のイニシャル、そして名前も家系なども知られたくないために、Aleen CustA.I. Custanceに変更したのではないでしょうか。

3)主な国の書生参政権の獲得年は、以下のようです。
   1893年 ニュージーランド
   1902年 オーストラリア
   1906年 フィンランド
   1913年 ノルウェー
   1915年 デンマーク
   1918年 イギリス、ソ連、オーストリア
   1919年 ドイツ、チェコスロバキア
   1920年 アメリカ
   1932年 スペイン
   1934年 トルコ
   1945年 フランス、イタリア、日本
      (最新世界史図説 タペストリー 7訂版 pg 232

4)第一次世界大戦は1914年7月28日にオーストリアがセルビアに宣戦を布告し始まり、1918年11日ドイツが休戦協定に調印して終了しています。カスト先生が滞在していたAbbevilleはイギリスとはドーバー海峡を挟んで対岸で、ドイツ軍の前線の近くでした。

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