心得

最後のワンポイントレッスンはクラリネットを「上達させるための心得。」をお話することにします。われわれクラシックの音楽家にとって一番大切なことは譜面を理解して忠実に再現すると言うことです。人に上手なクラリネットだと思わせるような演奏をするには作曲家がどのように演奏して欲しいのかもしくは欲しかったのかを勉強することが大切なのです。そのためには譜面をまずよく読まなければいけません。そして一番大切なのは様式観を考えることです。例えば同じフォルテでも時代や国や人によって違うと言うことをまず覚えておいてください。モーツアルトの時代には飛行機や電車などはなかったのです。ステレオもありません、町の中はきっと今の時代とは大違いで静かだったに違いありません。そんな時代に大きな音(フォルテ)とは今の音とは当然感覚が違っていたはずです。発想表現や速度や強弱というものは絶対的な表記方法ではないと言うことを覚えておいてください。あくまでも相対的な表現方法なのです。ポップな曲を吹く時にはポップな吹き方、邦人や現代の曲や国によっての違いなどによっていろいろです。このようにいろいろな種類によって吹き方や音色などを変えながら曲を作っていくことを目標にしてください。表情が豊かになりきっと聞いている人を楽しませることができますよ。ではどのようにして様式を勉強すればよいのでしょうか、それにはまず漠然と理想を思い浮かべるのではなく、いろいろな音楽やクラリネット奏者を聞きまくり自分なりにこの演奏がいいなと思うものを決めることです。そうしたらその理想の音や音楽を常にイメージして練習に取りかかってください。知っている曲だったら譜面を見ながら聞くのも良いでしょう、「こんなところはこんな風に演奏してるんだ」と思いながら、聞いてみるとイメージがわかりやすくなりますよね。このように、こんな音が出したい。こんな演奏がしたい。と言う気持ちがなければ決して上達はしません。具体的なイメージを持つことがもっとも大切です。しかしその一方で、その理想が高ければ高いほど難問にぶつかるものですね、では最後にその解決法を僕の実体験からお話することにします。大学を卒業して少しずつ仕事をするようになったある日、世界的な打楽器奏者の吉原すみれさんからリサイタルの出演の依頼がありました。目は北爪道夫さん作曲のバスクラリネットと打楽器のための「スラップアンドクロッシング」という曲でした。そして譜面と音源が送られてきました、しかしそれを聴いたときどうやって演奏しているのだろう、この音はどうやって出すのだろう、と途方に暮れてしまいました。まずこの曲は題名にもなっているように、特殊な奏法であ」る、スラップタンギングができなければ成立しない曲なのです。スラップタンギングとは、音を出すのと同時にバチンという奇妙な音を出すのだと言うことをその時に知ったのです、もしくはクラリネットの音は出さずにバチンというリードをはじく音だけの場合もありました。今でこそこのような奏法を必要とした曲は何曲かありかなりの人たちの演奏を聞くことができますが、その当時の僕にとっては聞いたこともありません。フランスで現代音楽を学んだサックスの先輩に奏法をお聞きしてどうにか理屈は分かったものの、いざ自分でその音を出そうとしてもうんともすんとも鳴ってくれません。しかし引き受けた以上マスターしなければ話になりません、リハーサルの日までに何とかしなければならないのです。来る日も来る日もスラップタンギングの練習です、リードはすぐに割れてしまうわ、舌は痛いわ、血が出てしまうことさえありました。バスクラのマウスピースをいつも携帯して、電車の中やバスの中でも、しゃぶりながら、あああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返していたある日、バチンと小さなかわいいスラップの音がしたときの感動は今でも忘れることができません。初めてからちょうど一ヶ月くらいたったある日のことでした。正式に習ったわけではないのでとても遠回りをしてしまったのかもしれません、しかしなぜできるようになったのかは今も分かりません、克服とはそんなものなのです。体が何とかしてしまうのです、イメージさえしっかりしていれば、と言うことなのではないでしょうか。こつという言葉はあまり好きではありません。練習量で何事も必ず克服できるものなのです。ではみなさん一年間どうもありがとうございました、また何かの機会がありましたら、お目にかかれることを楽しみにしています。


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