仮想日本人化するSF(週刊読書人94年1月14日)
 巽孝之『ジャパノイド宣言』


 奇妙な話ではあるが、日本のSFを論じた評論というのは、実はほとんどみられない。たとえば海外SFの紹介や、翻訳された評論ばかりなのである。そんな中で、待望の一冊、巽孝之『ジャパノイド宣言』(早川書房・一八〇〇円)が出た。本書は、歴史的な名著、石川喬司の『SFの時代』(一九七七)を強く意識した構成がとられている。ただ、『SFの時代』が成熟期にさしかかる七〇年代半ばから、日本SFの黎明を描き出したのに対し、本書は世界的視野で現代(特に八〇年代)SFを概観する。日本=ハイテク国家=SFという状況より、日本SFの占める位置を読み解こうとするのである。この論点に立てば、今やアメリカの先端SFと日本SFとは、互いに同時性を保ちながら発展していることになる。ハイテク化=日本化とみなすことで、国籍は取り払われる。著者は、これを<仮想日本人=ジャパノイド>と呼ぶ。代表的な新鋭日本作家の、世界での位置を知りたい方には最適の一冊だ。同著者による『メタフィクションの謀略』(筑摩書房・一四五〇円)も参考になる。

 グレッグ・ベアの『ブラッド・ミュージック』は、無機的なSFが多いサイバーパンクの世代で、めずらしくどろどろとした生物描写が印象に残る作品だった。『タンジェント』(山岸真編、ハヤカワ文庫・六六〇円)は、そのベアの最新短編八編を収める作品集である。本書の編者はベアの信奉者、しかも日本オリジナルの編集とあって、良質のアンソロジイになった。四次元生物を音楽で呼ぶという標題作のほか、「姉妹たち」「飛散」などが面白い。ただ全体としての印象は、SFよりファンタジイに近いかもしれない。
 最後になったが、今月から水鏡子さんにかわって、この欄を受け持たせていただくことになった。今後とも、よろしくお願いしたい。

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