ありえない恋の物語(週刊読書人94年12月9日)
梶尾真治『スカーレット・スターの耀奈』


 梶尾真治の『スカーレット・スターの耀奈』(アスペクト・一八〇〇円)には、四作の愛の物語が収められている。何の衒いもなく、愛≠ニ書けるだけの味がある。これは、著者がデビュー当時から持っていた資質だろう。自らの体を犠牲して、母星を再生させる少女との恋を描く表題作をはじめとして、夢の中に生きる少女との恋や、宇宙の特異点の調査中に死んだ恋人と再開する男の運命、肉体的欲望を一切失わせる惑星で危機を迎える恋人たちの話などなど、考えて見れば、まず現実ではありえない、理想的な純愛が描かれているように見える。しかし、不思議なことに、誰の人生にでも(ある一瞬にでも)起こり得たことかも知れないと思わせる、説得力が感じられる。梶尾真治の、最良のエッセンスでもある。アスペクトから刊行されたSFシリーズとしては、他に大原まり子のSF大賞受賞作『戦争を演じた神々たち』がある。何れも、アスキーのゲーム・PC雑誌「ログアウト」に掲載された作品をまとめたもの。(いわゆる)メディアミックス分野であるが故に、専門誌「SFマガジン」以上にストレートなSF作品が生まれるのだろう。
 他に、鏡明編のオリジナル・アンソロジイ『日本SFの大逆襲!』(徳間書店・一七〇〇円)が出ているが、紙数もないので次回に紹介したい。

 翻訳では、イアン・ワトスン『存在の書』(細見遥子訳、東京創元社・六〇〇円)が出て、黒き流れ三部作(他に『川の書』『星の書』)が完結した。ワトスンは観念的アイデアの作家というイメージが強く、これまで明快な作品は少なかった。本シリーズでは、異星に流れる広大な川を発端に、川の女ヤリーンが、対岸の男の世界や、はるか異星への魂の旅を経て、ついに時空の秘密に到達する。比較的分かりやすい内容だろう。一読の価値は十分ある。ただ、作者の持ち味が、善し(アイデアの特異さ)悪し(物語性を軽視する)両者とも顔をのぞかせているため、手放しでは誉めにくい。

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