ドールとの愛の物語(週刊読書人95年10月13日)

リチャード・コールダー『デッドガールズ』

 いわゆるサイバーパンク¢S般的にそうなのだが、アメリカ市場で受け入れられないマイナーな作家が、日本で高い評価を受けることがある。四年前、日本オリジナル短編集『蠱惑(アルーア)』で一世を風靡した、リチャード・コールダーがそうだった。ナノテクと倒錯人形愛、アジア的異質さ(タイが舞台)と頽廃したヨーロッパ文明など、異質さを互いに混交した独特の風味があった。例えていうなら、香の煙に潜む甘い腐敗臭とでもいえるものだ。今回出た長編『デッドガールズ』(増田まもる訳、トレヴィル・二五七五円)は、それらをさらに増幅・反復させている。短編の中で断片的に提示された、人を人造人形(ガイノイド)に変容させるナノテクロボット、汚染され崩壊するヨーロッパ、殺人ロボットに変容した愛人と旅する主人公、そしてガイノイアへの偏執狂的愛情など、ある意味で、明らかにされなかった謎が解き明かされる総集編でもある。ただ、前作からそうだったが、本書もSF的設定が細密化されるほどに、SFではなくなるという奇妙な印象を残す。

オースン・スコット・カード『キャピトルの物語』

 オースン・スコット・カード『キャピトルの物語』(大森望訳、早川書房・五六〇円)は五月に出た『神の熱い眠り』とペアを成す作品。年代記とあるが、年代順に並べられているわけではない。ある意味で、両者はお互いを補完しあっていることになる。同じ物語、設定が別々に描かれている。本書では主に、数百年を生きるために、わずか数週間から一年起き、後はただ数年から十数年を眠る人々を巡る葛藤を描く。並みの作家なら冗長でしかない内容だが、カードの小説技術の高さを改めて教えられる。

テリー・ビッスン『赤い惑星への航海』

 もう一冊、テリー・ビッスン『赤い惑星への航海』(中村融訳、早川書房・六〇〇円)は、誰も宇宙飛行に興味を失った時代、三流映画会社が買収した宇宙船で火星に有人飛行するという、SFファン憧れのロケット小説。人物描写も楽しめて、一読をお薦めできる。

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