巨匠アシモフの素顔がうかぶ、シリーズ完結編(週刊読書人95年11月17日)

アイザック・アシモフ『ファウンデーションの誕生』

 多くの人が指摘していることではあるが、アシモフという作家を読む過程には二重の体験がある。初心者にとって、これほど分かりやすい作家はいない。今でも、SFの代名詞として機能し続けている。それぐらい大衆的な人気がある。やがて、読者はプロフェッショナルな読み手に進歩する。すると、お話の類型が見透かせるようになる。アシモフ的≠ネるものは、ワンパターンのアイデアストーリーであって、一種の蔑称と化す。ところが、中年も過ぎシニア読者となるにつれ、アシモフが書こうとしてきた、諸々の背景が逆に理解できるようになる。単純なお話にこそ、SFの本質があるのかもしれないと。銀河帝国興亡史の完結編『ファウンデーションの誕生』(岡部宏之訳、早川書房・二二〇〇円)は、そんなアシモフの心情を読める数少ない作品である。銀河帝国興亡史というアシモフの出世作は、四〇年以上前に書かれたもの。もともとは、巨大な歴史の流れを、個人を越えた人類から俯瞰する心理歴史学≠ナ説明して見せた連作短編だった。巨匠のリバイバルブームに乗って一〇年前に復活、これまでに続篇三作が書かれ、本書は累計七作目。帝国末期に生きた、心理歴史学の創始者ハリ・セルダンの、苦闘に満ちた後半生を描いている。他の作品と異なるのは、主人公の孤独感であり、自身の行動に対する猜疑心だろう。お話そのものは決して暗いものではなく、何年か前に書かれていれば、このような印象は残らなかったと思われる。たとえば、六作目『ファウンデーションの序曲』に暗さなど全くない。本書の直後に、アシモフは亡くなった。ただ、この暗さを死ぬ直前の気の弱さだけが書かせたとはいいきれない。作家なら誰でもが暗黒面を持っている。アシモフ自身、やはり他人と違った暗黒面を抱えて生きてきたはずだ。アシモフは、それを感じさせない陽の巨匠だからこそ、見え隠れする陰が際立つのである。日常生活を省みず、執筆に憑かれた¢ス作家アシモフには、まだ隠された秘密があるのかもしれない。もっとも、これはアシモフの活動と並行して生きた、特定世代の感想なのだろうが。

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