中世に響く教会の鐘の音(週刊読書人95年12月8日)

コニー・ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』

 クリスマスの迫る二一世紀のオクスフォードから一四世紀へ、中世の生活を調査するために送り込まれた女子大生の数奇な運命。コニー・ウィリスの『ドゥームズデイ・ブック』(大森望訳、早川書房・三六〇〇円)は、中世と現代(二一世紀)とがお互いに共鳴し合いながら、最後に一つにまとまるという離れ業的な作品。著者が得意とする歴史ものであると同時に、ミステリやユーモア小説的要素もないまぜとなって、一七〇〇枚を見事にまとめている。本書の訳者も翻訳中に入院したというくらいで、読んでいるうちに、自分まで病気になりそうな疫病小説(たとえば『デカメロン』のような)でもある。今年度のベストには文句なく推せる。ただ、これだけの枚数を費やしたにしては、お話以上の視点が乏しいのが残念。普通小説としてならともかく、米国SF三大賞(ヒューゴー、ネビュラ、ローカス各賞)受賞作、並びに受賞作家には、それ以上の奇想≠求めたいからである。

神林長平『魂の駆動体』

 一方、今年度のSF大賞作家、神林長平『魂の駆動体』(波書房・一八〇〇円)は、従来の作者のメインテーマに、技術屋(エンジニア)の魂≠重ね合わせた秀作。自分の手で運転できる自動車が失われた近未来、そこで昔の車を再生することを夢見る老人の魂が、遠未来の鳥人たちの世界でロボットとして甦る。老人は、ついに念願の車を作り上げるのだが……。特異な言語感覚と、写実性を極端にきりつめた観念描写が、著者神林長平の売りだった。ここでいう観念とは、SFにありがちな擬似科学的な説明ではなく、あくまで小説的な言葉≠ノ対するこだわりから生まれたものである。それは、場合によって読み手に難解な印象を与えてきた。本書は、より具体的な事物=車を、言語=魂を語るキーワードとしたことで、従来作(例えば、昨年の『言壷』)と比べても、はるかに分かりやすい作品となった。

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